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2024.03.23

酒井高徳のヴィッセル神戸改革、意識を変えるリーダー論「俺を見ろ!」

2023年Jリーグ優勝を果たしたヴィッセル神戸。元スペイン代表でバルセロナのレジェンドであるアンドレス・イニエスタほか、欧州で経験を積んだ元日本代表選手が名を連ねるチームは、ハードワークをいとわないスタイルを貫き頂点に立った。そんなチームの支柱となったのが酒井高徳選手だろう。2019年夏にドイツ・ブンデスリーガのハンブルガーSV(以下HSV)より加入し、半年後には天皇杯優勝に大きく貢献。HSV時代にキャプテンも経験し、長く日本代表の一員でもあった酒井選手が実践するリーダーとしての在り方とは。第1回は、「ヴィッセル神戸改革」について。

酒井高徳/Gotoku Sakai
1991年3月14日生まれ。地元のアルビレックス新潟ユースに加入し、2008年にはトップチームの公式戦にも出場。高卒ルーキー2年目の2010年にはレギュラーに定着、同年南アフリカで行われたW杯に、サポートメンバーとして帯同。2012年1月より、母親の母国であるドイツ・ブンデスリーガ1部のシュトゥットガルトに所属。2015年夏、ハンブルガーSVへ移籍。翌年秋、監督よりチームキャプテンに指名される。2018年W杯ロシア大会後、日本代表引退。2019年夏、ヴィッセル神戸へ加入。2023年Jリーグ優勝し、ベストイレブンにも選ばれた。

何度も口酸っぱく繰り返した「もっと激しくやらないと意味がない」

――HSVからヴィッセル神戸に移籍直後、大きな期待を背負っていましたね。

「元日本代表で、長年ドイツでプレーしてきたということで、過去に経験したことのないほどの周囲からの期待を感じました。僕自身も、ドイツで8年やってきた違いを圧倒的に見せつけないと、自分の価値は上げられないし、ヴィッセル神戸の価値を上げることもできないという覚悟みたいなものは、当然ありました。だからこそ、チームを引っ張っていきたいと」

――そんな酒井選手にヴィッセル神戸の状況はどういうふうに映りましたか?

「いい結果が出ていない状況から抜け出すために、方向転換する必要があるなと思いましたね。そのためには自分が舵取りをしなくてはいけない。まずは、ズバズバと物申したし、練習から高い強度でプレーしました」

――個人が意見を主張するのが当然のヨーロッパと違い、日本人はなかなか主張しない?

「そういう文化の違いもあるだろうけれど、ヴィッセル神戸の状況はそれとは異なっていたと思います。相手に怪我をさせないという想いからか、練習でのプレーが緩かった」

――スーパースターが存在することも影響していたのかもしれませんね。彼らに怪我をさせてしまったらと躊躇してしまったのかも。

「そうだとしても、それは別の話だと思いますよ」

――確かにヨーロッパでは、そんな忖度はしない。そういう変な気遣いがあれば、チーム全体の士気にも悪影響を及ぼす可能性もありますからね。彼らからすれば、「この程度で良いのか」という感じになるかもしれないですし。

「最初に神戸で練習したとき、率直に日本人選手に聞いてみたかったのは『そんなサッカーをしていて楽しい?』ということでした。外国人選手の存在がそうさせているのかはわからないけれど、周りの選手に遠慮している感じが漂う環境で毎日練習していれば、自分の成長もおぼつかない。試合に出られない、試合に関われない、自分が主役になれない立場で、試合の結果も出ていないわけだから。でも、それは変えられると伝えたかったんです」

――有名な選手が試合に出るのが当然じゃない。彼らのポジションを奪おうと。

「結果的にはそういうことです。でも、まずは練習から全力でプレーし、試合と変わらない強度、インテンシティで戦おうと。一番わかりやすいのは、僕がピッチで行動し、発言するしかない。若い選手は遠慮するだろうから、『もっとがっつり来いよ』とか、『もっと激しくやらないと意味がないよ』と何度も口酸っぱく繰り返しました。若手が臆することなくプレーできるように」

――そういう酒井選手の行動に外国人選手も驚いたんじゃないですか?

「どうでしょう。そういう話をしたことがないので、わかりません(笑)。ただ、ドイツにいたときもそうですけど、ぬるい感じでサッカーするなら、やめてしまえという意識でやっていますから。それでも相手も自分も怪我をすることはなかったし、もし問題が起きても、正面から話す気持ちでした、欧州ではそれが日常茶飯事だったし、言わないヤツが弱いし、言わないヤツが負けてしまうので、主張はしっかりしなくてはいけないというのがありました」

「俺を見ろ!」行動で示すことは、どんな人間にも一番響く

――日本だからと、やり方を変えることはありましたか?

「特にはありません。僕にとって特別なことはなく、HSVでやってきたことと変えていません。どんなにやっても自分がまだまだ足りないと思って、普段から練習やプレーに取り組んできました。そんな僕の姿を見て、ヴィッセルの若い選手に『あれだけやっているから、活躍して、結果が残せるんだ』と思ってもらいたかったし、『自分ももっとやろう』と行動してもらいたかったので。『これをやれ』とか、『もっとこうしろ』というよりも、僕を見て、『自分はもっとやらなくてはいけない』と気づいてもらえたらと考えていました。態度、ふるまい、行動を続けた結果、チームの雰囲気や選手のモチベーションが大きく変わったという手応えがありました。若い選手がそんな僕についてきてくれたのはうれしかったですね」

――酒井選手はまずは「俺を見ろ」というタイプなんですね。

「そうですね。どっちかっていうと、そういうタイプだと思います。誰だって、いろいろと言われるのは、嫌じゃないですか? どんな人にとっても、行動で示すことが一番説得力があると思うので、『俺を見ろ』という感じでしたね。

HSVでやってきたこと、日本代表でやってきたことを、日本サッカーに還元させたいということを常に意識しています。試合のパフォーマンスというのは、練習でそれ以上にやっていないと出せないということを僕自身が、先輩を見て、学んだことなので。そういう先輩が一番の教科書だったから。それを今度は自分が体現したいと思っていました。最初の半年間はそこを強く意識していましたね。すると、やらない人間が浮いてくるという現象が起きてきました」

――チーム全体の空気が変わることで、外国人選手も変化したのではないでしょうか?

「そうだと思います。練習から本気でやらないと試合には出られない。きっと、そういう環境でサッカーをするのは、日本人、外国人に関わらず、誰だって楽しいはずです」

――そして、天皇杯優勝という結果がまた好循環を生みました。

「はい。結果が出ることで、それまでの時間が正解だったという裏付けになるので。勝つためのスタンダードというか、試合に勝つために最低限、何をしなくてはいけないのか、どういう姿勢で取り組むべきかということをチームで共有できたと思います。良い競争心と激しさを持った練習を行うことで、良いパフォーマンスと結果が生まれると」

勝つためには、“スタンダード”を根付かせることが大切

――酒井選手は19歳のときに、サポートメンバーとして、2010年のワールドカップ南アフリカ大会に帯同しましたが、当時から日本代表の先輩からの学びは大きかったのでは?

「当時の代表には、(中澤)佑二さん、(中村)俊輔さん、トゥさん(田中マルクス闘莉王)、ハセさん(長谷部誠)など、ほとんどすべての選手が、トレーニングから全力で取り組み、真剣にサッカーと向き合っていました。会話でのコミュニケーションもあったし、アドバイスもいただきましたが、なによりも、先ほど話した“勝つためのスタンダード”を体現していました。

だから、若い僕にとっては、それを真似ることで、この人たちに近づける、同等になれるんだと思っていました。ピッチ上で起きているインテンシティの高いプレー、強度、パススピード、それらすべてを学んで、実行するしかないと」

――そこからブラジル大会、ロシア大会とワールドカップを経験し、代表を引退。代表で活動するなかでも、見て学ぶことが多かった?

「長く代表として活動させてもらって思うことは、代表チームは指導を受ける場ではないんですよね。実際、先輩に聞けば、アドバイスはもらえるけれど、そんな時間がないというのが実情です。選手たちが醸し出すチームのスタンダードがあり、それを見て、合わせていかないといけない集団なんです。そのうえで、チームにコミットして、パフォーマンスや実力を発揮し、自分をアピールする場だから。みんながみんな、ピッチで表現して、相乗効果で結果を出していくという集団なので。見て、感じて、行動することを求められていたと思います」

――天皇杯優勝から、Jリーグ優勝まで時間がかかりましたが、ヴィッセル神戸にも日本代表のように、スタンダードが根付いた結果ですね。

「同じ志を持ってる人が集まってくれたことが大きいですね。今いるメンバーで言えば、僕が加入した時は(山口)蛍がいて、そこによっち(武藤嘉紀)、サコ(大迫勇也)が加入。若い世代が引っ張られて、同じスタンダードを持って、体現してくれたのが、いい底上げになりました。僕はスタンダードと基盤、ヴィッセル神戸の戦い方を示しただけです。それがふたりの加入で、さらにストイックになり、フォーカスされた形になって、チーム全体がキュッと締まり、最後の仕上げをみんながしてくれたことで、リーグ優勝できたんだと思います」

※2回目に続く

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=YUTAKA/アフロスポーツ

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