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2024.03.21

異例のスピード出世! 侍ジャパン初選出、中日・松山晋也のターニングポイント

2022年の育成ドラフト1位での入団ながら、異例のスピード出世で侍ジャパンへと選出された松山晋也がスターとなる前夜に迫った。 連載「スターたちの夜明け前」とは

八戸学院大時代の松山晋也
八戸学院大時代の中日・松山晋也。

育成新人から1年で侍ジャパン選出

2024年3月6日、7日に行われた侍ジャパンの強化試合である「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024」。欧州代表を相手に連勝をおさめ、2試合目には6人の継投による完全試合を達成するなど改めてその強さを見せつける結果となった。

今回の代表チームは大学生が4人選ばれているように2026年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)や2028年のロサンゼルスオリンピックまでを考えたチーム編成。そんななか、プロから選ばれた選手のなかで1年前を考えると驚きの出世を見せたのが松山晋也(中日)だ。

2022年の育成ドラフト1位での入団ながら二軍で結果を残して2023年6月に早くも支配下登録を勝ち取ると、夏場以降は一軍でも勝ちパターンのセットアッパーに定着。最終的に36試合に登板して1勝、17ホールド、防御率1.27と見事な成績を残して見せたのだ。

冒頭でも触れた欧州代表との強化試合でも第2戦の3番手で登板し、1回をパーフェクト、1奪三振の圧巻の投球で完全試合達成にも貢献している。

大学3年秋に開花、ストレートはプロ一軍並み

そんな松山は青森県天間林村(現・七戸町)の出身で、高校時代は八戸学院野辺地西でプレーしているが、全国的には完全に無名の存在だった。

3年夏はエースとして青森大会の3回戦で2019年のドラフト1位でプロ入りする青森山田の堀田賢慎(現・巨人)と投げ合っているが、3回途中3失点で降板し、負け投手となっている。

八戸学院大進学後もオープン戦ではスピードのあるボールを投げながらも安定感を欠き、3年春まではリーグ戦での登板はなかった。

ようやく松山の才能が開花したのは大学最後のシーズンとなる2022年秋のことだった。

開幕週の岩手大戦で6回2/3をロングリリーフして被安打1、11奪三振で無失点の快投でリーグ戦初勝利をマーク。そしてそれ以上に強烈なインパクトを残したのが9月5日に行われた富士大との試合だ。

2点を先制された1回2死一・二塁の場面からマウンドに上がると、いきなり150キロを超えるストレートを連発してピンチを脱出。

その後も、とにかくストレートで押し続け、8回1/3を投げて3失点、9奪三振の好投でリーグ王者である富士大から勝利を奪って見せたのだ。

ちなみにこれは松山が4年間で最も長いイニングを投げた試合となった。当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「テイクバックで少しかつぐ(右肩が下がる)動きがあり、アウトステップ気味なのも気になるが馬力は圧倒的。全身で抑え込むようにして真上から腕を振りおろし、立ち上がりから152キロを連発。数字に見合うだけのボールの力、勢いがあり、打者は差し込まれることが多い。ストレートは間違いなく大学生全体でも屈指」

この日筆者のスピードガンで計測することができたストレートは76球あったが、その平均球速は147.9キロとなっている。これはプロの一軍でも上位の数字である。

立ち上がりの3イニングに限れば27球中20球が150キロ以上であり、平均球速はちょうど150キロだった。出力の高さはメモにもあるように大学生でも屈指だったことは間違いないだろう。

課題を克服し日本代表へ

一方で課題もあったことは確かである。それは走者を背負った時の投球だ。

クイックモーションで投げようという意識が低く、左足を上げる動きも大きいため、楽にスタートを切られていたのだ。5回には四球と盗塁からピンチを招いて失点につながっている。

ただ、それでも最後まで投げ切れたのはストレート以外にも大きな武器になる変化球があったからである。当時のノートには先述したメモに続いて以下のような記載が残っている。

「変化球はスプリットが大きな武器。ストレートと変わらない腕の振りで投げられ、カウントをとるボールと決め球を投げ分けることができる。リリースの感覚も悪くなく、低めに集める制球力もある。短いイニングならストレートとスプリットだけで抑え込め、リリーフタイプのように見える」

この日奪った9個の三振のうち8個が空振りであり、ストレートだけでなくスプリットが大きな威力を発揮していたことは明らかだろう。

プロ1年目の2023年、ストレートの平均球速は150キロを超えており、大学時代からさらにスケールアップしていることがよくわかる。また、得点圏に走者を背負った時の被打率も1割台としっかり抑えられており、大学時代の課題もしっかり克服したことがいきなりの大活躍につながったといえそうだ。

オープン戦(2024年3月14日終了時点)でも4試合で無失点と好投を続けている。今回の侍ジャパンでの経験を生かして、2年目のシーズンもさらなるレベルアップを果たしてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=報知新聞/アフロ

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