PERSON

2023.09.07

大学・社会人を経て、プロ14年目で2000本安打達成した大島洋平

2023年8月26日のDeNA戦で中日・大島洋平が史上55人目の通算2000安打を達成した。プロ14年目でついに偉業を成し遂げた大島洋平がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

バットを振る大島洋平

プロ野球を代表するヒットメーカー

毎年多くの記録が誕生するプロ野球だが、2023年達成された最も偉大な記録といえばやはり大島洋平(中日)の通算2000本安打になるだろう。

NPB史上55人目の達成となるが、大学、社会人を経てプロ入りした選手では古田敦也、宮本慎也(ともにヤクルト)、和田一浩(西武、中日)に次ぐ4人目の大記録である。

最多安打のタイトル2回、シーズン打率3割6回をマークするなど、2010年以降のプロ野球を代表するヒットメーカーであることは間違いない。

長打力よりもスピード

そんな大島はプロ入りが遅かったことからも分かるように、早くから注目されていた選手ではない。

高校は愛知の強豪である享栄出身だが、甲子園出場経験はなく、また当時は投手だったこともあってプロのスカウトの間でも評価は高くなかった。

高校卒業後は東都大学野球の名門である駒澤大学に進学。1年春にはいきなり13試合に出場して12安打を放ったものの、その後は低迷が続いた。

ちなみに筆者が初めて大島のプレーを見たのは1年春の一部・二部入替戦で、2点を追う9回に代走として出場。当然印象には残っておらず、当時のプロフィールを見ると174㎝、65㎏となっており、まだまだ体が細かったことがわかる。

ようやく大島の存在を認識したのは大学3年春のことだった。

2006年5月9日に行われた対東洋大戦、6番レフトで出場した大島は相手先発の永井怜(元・楽天)から第1打席でライトスタンドに飛び込むホームランを放って見せたのだ。

ちなみに永井はこの年の大学生・社会人ドラフトで1位指名を受けてプロ入りしているように、当時大学球界では注目の右腕であり、その好投手から打ったことで大島のバッティングは強く印象に残っている。

ただ大島が大学4年間のリーグ戦で放ったホームランはこの1本だけであることからわかるように、当時から持ち味は決して長打力ではなかった。

3年秋には初めて規定打席に到達して打率3割をマークすると、4年時にはさらに成績を伸ばして春秋連続でベストナインを受賞。4年秋には首位打者にも輝いている。

4年春の2007年5月2日に行われた国学院大戦でも2安打を放つ活躍を見せているが、打撃に加えて目立っていたのがそのスピードだ。

当時のノートに残っている一塁到達タイムを見てみると2打席目のセカンドゴロでは3.96秒、第3打席のバントヒットでは3.79秒という数字が並んでいる。

ちなみに一塁到達タイムは4.00秒を切ればかなりの俊足と言われており、セーフティバントはスタートが早い分タイムが出やすいが、それにしても高レベルの脚力だということがよく分かる。プレーぶりについても以下のようなメモが残っている。

「初回の先頭打者できれいに振り抜いてライト前ヒット。タイミングのとり方が上手く、鋭く体を回転させてきれいに引っ張ることができる。膝を柔らかく使えるので変化球への対応力も高い。(中略)スピードも素晴らしく、セカンドゴロでも足を抜かずに全力疾走。バントヒットでの加速も抜群で、トップスピードに入るまでが速い。肩の強さはそれほど目立たないが、守備範囲の広さも出色」

このメモを見ても、現在の大島と重なる部分が多いことがよくわかるだろう。

怪我を乗り越え2000本安打達成

ただその後の大島は決して順風満帆だったわけではない。

大学卒業後は社会人有数の強豪チームである日本生命に進み、1年目の日本選手権では首位打者を獲得するなど活躍したが、2年目の都志対抗予選では右手首を骨折。ドラフト指名対象となる年は目立った結果を残すことはできなかった。

大学でも社会人でも名門で成績を残しながら、ドラフト5位という低い順位でのプロ入りとなったのはこの怪我が大きく影響している。

しかしそれでもプロ入り後は早くから外野の一角に定着し、3年目から2022年までの11年連続で規定打席に到達し、常に高い水準の打率を残し続けているのは見事という他ない。卓越した打撃技術やスピードはもちろんだが、それだけ自己管理ができている証拠と言えるだろう。

近年、プロ野球ではパワーヒッターの評価が上がる一方で、大島のようなタイプのホームランが少ない外野手はなかなか評価されない傾向にある。ただその中でもレギュラーとして活躍し続けているのは真のプロであり、大記録達成後もそのプレーで低迷するチームを牽引してくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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