PERSON

2023.06.29

覚醒した中日・細川成也、“茨城の中田翔”と呼ばれていた高校時代

DeNAでは長距離砲として期待されたものの、思うような結果を残すことができなかった細川成也。2022年オフに初めて開催された「現役ドラフト」でDeNAから中日に移籍し、大活躍を見せている細川がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは……

細川成也の明秀日立時代

ベイスターズで苦しんだ6年間、中日移籍後に開花

2022年オフに初めて行われた現役ドラフト。

出場機会に恵まれない選手の飼い殺しを防ぐという狙いで実施され、12人の選手が移籍することとなったが、野手で最も存在感を示しているのが細川成也(中日)だ。

ルーキーイヤーの2017年にはプロ初打席、初本塁打という華々しいデビューを飾ったものの、その後はなかなかチャンスをつかむことができず、DeNAでの在籍6年間では通算41安打、6本塁打、打率.201という成績に終わっている。

しかし中日に移籍した今シーズンは開幕直後からクリーンアップに定着。ここまでチームトップの7本塁打、34打点をマークし、打率も3割を大きく超えるなど大活躍を見せているのだ(2023年6月15日終了時点)。

長打力不足に悩むチームにとってはまさに救世主と言える存在である。

長距離砲として期待された“茨城の中田翔”

そんな細川は茨城県の強豪である明秀日立の出身だが、当時のチームは甲子園出場経験はなく(現時点では春2回、夏1回甲子園出場)、本格的な強化がスタートした時期だった。

細川も下級生の頃はそれほど注目される存在ではなかったが、2年の秋から3年の春にかけて大きく成長。高校通算63本塁打を放ち、投手としても140キロ台のスピードをマークするなど、最終学年にはドラフト候補として評判の選手となっていた。

下級生の頃もプレーを見ていたが、強く印象に残っているのは高校3年時の2016年7月10日に行われた夏の茨城大会の対古河三戦だった。

この試合で細川は背番号1をつけて3番、ライトで先発出場しているが、まず際立っていたのがその体格と強肩だ。

当時のプロフィールは181㎝、85㎏となっているが、上半身も下半身もしっかり鍛えられていることが一目でわかった。

そしてシートノックではライトから鋭い返球を連発。

当時のノートにも「肩は全国でも上位。ボールの伸びが違う」というメモが残っている。

また1点をリードされた4回の途中からはマウンドに上がると、最速145キロのストレートを武器に延長10回までの7イニングを被安打わずか1で無失点、12個の三振を奪う見事なピッチングを見せた。

一方のバッティングは第3打席に四球で出塁したものの、4打数ノーヒット、2三振と結果を残すことはできていない。ロースコアの接戦(最終的には延長10回、2対1で明秀日立が勝利)となったのも、細川のバットから快音が聞かれなかったことが一つの要因だったといえるだろう。

ただそれでも当時から投手としてよりも、野手としての方が高い将来性を感じたことは確かである。当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「急なリリーフでもコンスタントに140キロ以上をマークする馬力は出色。ただテイクバックで右肩が下がり、上半身の強さが目立ち、左肩が開くのも早く球持ちも短い。

(中略)やはり将来は野手のように見える。体が大きくなったのと比例して打席での力感も明らかにアップした。

フルスイングの迫力は高校生離れしたものがあり、ヘッドスピードの速さは圧倒的。

(中略)ただその力を持て余しており、左の技巧派の変化球に対して待ち切れずにヘッドが外回りし、その後のそれほど速くない内角のストレートにも差し込まれる。

良くない時の中田翔(当時日本ハム・現巨人)にイメージが重なる。

ゆったりと呼び込めるようになればパワーが生きるはず」

当時の報道でも“茨城の中田翔”と呼ばれていたが、確かに高校時代の中田と同様に速いボールを投げながらも、打撃のパワーを生かした方が将来は開けるという印象を強く持った。

ちなみに細川はこの夏の茨城大会で厳しいマークもあって、7試合で3安打という成績に終わっている。それでもドラフト5位でプロ入りしているのは、やはりそのパワーとスイングの迫力に並外れたものがあったからである。

ドラゴンズが渇望する和製大砲になるか

高校時代の課題はプロに入ってからもなかなか解消されず、冒頭で触れたようにDeNAでは一軍で結果を残すことはできなかったが、そのパワーをより必要とされる中日で才能が開花したというのは本人にとってもチームにとっても大きな幸運と言えるだろう。

結果を残したことで今後はマークが厳しくなることが予想されるが、このチャンスをつかみきって、押しも押されもせぬチームの看板打者となることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

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