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2022.03.24

中田翔の復活を期待せずにはいられない高校2年の伝説の試合──連載「スターたちの夜明け前」Vol.26

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。連載【スターたちの夜明け前】

スター夜明け前

写真:日刊スポーツ/アフロ

高校2年秋の超特大ホームラン、最終学年の高校通算87本塁打に到達

いよいよ今週末に開幕するプロ野球。リーグ3位からの巻き返しを狙う巨人で、復活が期待されているのが移籍2年目となる中田翔だ。昨年は開幕からの不振、不注意による故障、そして自らの不祥事によるトレードとレギュラー獲得後では最低となる数字に終わったが、オフに肉体改造を行った効果からか、オープン戦では持ち味である長打力を発揮。チームを率いる原辰徳監督も「もう1人中田が欲しいね」とコメントするなど、完全復活への期待は日に日に高まっている。

そんな中田は中学時代から評判の選手で、全国から有望選手が集まる大阪桐蔭へ進学。当時のチームも2学年上にはともに高校生ドラフト1巡目でプロ入りする辻内崇伸(元巨人)、平田良介(中日)などが並ぶ逸材揃いのメンバーだったが、そんな中でも1年夏にはレギュラーを獲得している。初めて出場した甲子園では初戦の春日部共栄戦で試合を決めるホームランをレフトスタンド中段に叩き込み、投手としてもリリーフでマウンドに上がると最速147キロのストレートを武器に相手打線を抑え込むなどチームの勝利に大きく貢献。1年生の夏に活躍した選手と言えばPL学年の桑田真澄(元巨人など)、清原和博(元西武など)の“KKコンビ”が代表格と言えるが、21世紀に入ってからのインパクトでは中田がナンバーワンと言えるだろう。そういう意味ではこれまでにこの連載で取り上げてきた中でも、最も早くスター街道を歩んできた選手である。

高校2年秋の近畿大会では推定飛距離170メートルの超特大ホームランを放ち、最終学年では当時歴代最多となる高校通算87本塁打に到達するなどそれ以降も数々の伝説を打ち立ててきた中田だが、筆者が強く印象に残っているものとして2年夏に出場した2006年8月6日の甲子園でのプレーを挙げたい。この年の大阪桐蔭は辻内、平田のいた前年のチームほど前評判は高くなかったものの、それでも不動の主砲となった中田以外にも力のある選手は多く、2年連続で夏の大阪大会を勝ち抜いている。そんなチームが初戦で対戦することになったのが、この年の春の選抜高校野球を制していた横浜高校だった。しかも試合が行われるのは大会第1日ということもあって、甲子園は朝から東西の強豪対決を待ち望むファンで溢れかえっていたのを今でもよく覚えている。

2006年8月6日の甲子園、8回裏の第5打席で火を噴いた

背番号7をつけた中田は4番、ライトで先発出場。第1打席こそショートフライに倒れたものの、第2打席で痛烈なレフト前ヒットを放つと、続く2打席は相手の厳しいコースの攻めをしっかり見極めて四球を選んでいる。当時のノートにも「低めのボールになる変化球を見極め、打てるボールだけしっかりスイングできている。ヘッドスピードはとても高校生のレベルではない」と書かれている。

そんな中田のバットがついに火を噴いたのは8回裏の第5打席だった。3点をリードしていた大阪桐蔭は相手のエラーからチャンスを作り、タイムリー内野安打で1点を追加すると、更に3番の謝敷正吾がセンターへスリーランを放つ。これで点差は7点となり、試合が決まったかという雰囲気が漂いだしたところに、続く中田がセンター左への特大の一発を放り込んで選抜王者の横浜にとどめを刺して見せたのだ。謝敷のホームランも見事だったが、中田の当たりは打った瞬間に満員の大観衆がすぐにそれと分かる当たりで、長い甲子園の歴史の中でもその飛距離は間違いなく上位に入るものだろう。

そしてこのホームランについては後日談がある。後年、当時の横浜高校のメンバーと話す機会があり、この試合の話題になった時のことだ。横浜高校の小倉清一郎部長(当時)は高校球界きっての名参謀であり、相手チームの分析に長けていることでも有名だが、その小倉部長が中田を分析した資料にはここに投げたらホームランと示されているところがあり、先述した一発はまさにそこに投げてしまったものだったというのだ。小倉部長の分析力にも驚かされるが、実際にデータ通りに本当にホームランにしてしまう高校生はなかなかいないだろう。不滅と言われる甲子園通算13本塁打を誇る清原も、中田について初めて自分より凄い高校生が出てきたと語っているのも頷けるエピソードである。

そんな中田もプロでは3度の打点王に輝いているが、いまだにホームラン王のタイトルは獲得していない。高校時代の怪物ぶりを知るものとしては何としても復活を果たして、プロでも伝説となるようなホームランを放ってくれることを期待したい。

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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TEXT=西尾典文

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