女子テニスで世界ジュニアランキング8位の石井さやか(17歳・ユニバレオ)が2023年3月21日付でプロ転向した。プロ野球DeNAの石井琢朗チーフ打撃コーチの次女。将来を嘱望されるホープは4大大会制覇を目標に掲げ、父の教えを胸に退路を断って競技に打ち込んできた。連載「アスリート・サバイブル」とは……
大坂なおみ超えを期待される女子テニスのホープ
退路を断つ。石井さやかが大きな決断を下したのは弱冠12歳の時だった。
都内の有名私立初等部から受験の必要のない中等部へ進む選択肢があるなか、公立校へ進学。父・琢朗氏の「逃げ道を作るな。退路を断て」との言葉が決め手だった。
石井は身長1m75cmの右利きで、強烈なフォアハンドが武器。
5歳でテニスを始め、9歳で全豪オープン、ウィンブルドン選手権を生観戦したことを機に世界で活躍するプロテニス選手になる夢を抱いた。
小学3年時から海外遠征を始めて頭角を現し、数々の全国タイトルを獲得。2022年は国別対抗戦ビリー・ジーン・キング杯の日本代表に選出され、2023年1月の全豪オープン・ジュニアでは単複ともに4強入りを果たした。
錦織圭(ユニクロ)と同じ、米フロリダ州のIMGアカデミーを拠点に活動するホープだ。
2023年3月20日には横浜市内で会見を開き、プロ転向と、ヘルスケア分野を中心に事業展開するユニバレオとの所属契約締結を発表。
同席した父親の前で「4大大会のシングルスで優勝することが目標です。今までお父さんの娘と言われてきたけど、これからは石井さやかのお父さんがプロ野球選手だったとなるように頑張ります。自信はあります」と宣言した。
父・琢朗氏は現役時代に横浜ベイスターズと広島カープで活躍。通算2432安打を放ち、名球会入りを果たした。プロとして生活する厳しさを誰よりも知る。
娘のプロ転向について「やっとスタートラインに立てた。ここがゴールではない」と強調した上で、感慨深げにここまでの道のりを振り返った。
「物心ついた頃からプロになりたいと言っていて、いつしかそれが家族の目標となった。僕自身、プロアスリートとしての経験がある。“プロを目指すならば、退路を断ってでも目指しなさい”と言いました。ただ、親としてまだ小学6年生の彼女に対して退路を断たせる、覚悟を決めさせるというのはどんなものなのかなと葛藤はあった。でも、それ以上に娘の意志、覚悟の方が勝ち、今日という日を迎えられた」
石井は父から数々の言葉を授かってきた。
「意識の差は進歩(技術)の差」「練習は基本の反復」「意識が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる」。
なかでも最も大切にし、心の支えとなってきたのが「おい、悪魔」だという。
[1]怒らず[2]威張らず[3]焦らず[4]腐らず[5]負けるな、の頭文字をつないだものだ。試合で被る帽子の裏にも書き込んでおり、プレー中に見て力をもらうこともある。
父・琢朗氏は「技術的な部分は分からないが、試合を見て思うのは親譲りの負けず嫌い。劣勢に立たされた時に力を発揮する。追い込まれてからの力の出し方は親ながらにもすごいと思う」と精神力の強さに太鼓判を押し、「これから試練はたくさんあると思うが、父親としてできる限りサポートしたい。元プロアスリートとして、いちファンとして、さやかを応援していければ」とサポートを約束した。
2023年3月26日開幕の甲府国際オープンでプロデビュー。
石井は「父はすごく努力をする人。選手としてとても尊敬しています」と父の教えを胸に、プロの世界に飛び込んだ。4大大会シングルスで優勝した日本選手は大坂なおみただ1人。高い目標を掲げて、偉大な父を越える挑戦をスタートさせた。
石井さやか/Sayaka Ishii
2005年8月31日東京都生まれ。5歳でテニスを始め、9歳の時にウィンブルドン選手権を観戦してプロになる夢を抱いた。全国選抜U―14で優勝し、2022年は全日本ジュニアU―18シングルスで優勝。練習拠点は米フロリダ州IMGアカデミー。右利き。身長1m75cm。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。