2024年パリ五輪で新競技として採用されるブレイクダンス。女子の第一人者、福島あゆみ(39歳・ダンサー名AYUMI)が2023年2月18、19日に国立代々木第二体育館で開催された全日本選手権で2連覇を達成した。21歳でダンスを始め、2021年世界選手権を38歳で初制覇。オリジナリティ豊かな動きを武器に41歳で迎えるパリ五輪に向けて進化を続けている。連載「アスリート・サバイブル」とは……
異彩を放つ、パリ五輪の金メダル候補・福島あゆみ
細部の動きにまで工夫を凝らしたオリジナリティあふれる動きで観衆を引き込んでいく。個性派揃いのブレイクダンス界でもAYUMIのスタイルは異彩を放っている。
掃除機や雑巾からもインスピレーションを得ており、キャッチコピーは“お掃除スタイル”。大会でも結果以上に内容にこだわっており「自分のこだわっているムーブがあるので、自分のダンスを出し切って、自分が良かったと思えるダンスをしたい」が信条だ。
ブレイクダンスとの出会いは21歳だった。高校卒業後のカナダ留学中に、夏休みを利用して一時帰国。言葉の壁に苦しみ悩んでいた時、ブレイクダンスをしていた姉に誘われて大会を観戦し、魅了された。
海外生活で体重が10kg近く増えていたこともあり、ダイエットも兼ねて軽い気持ちでダンスをスタート。約3週間後にバトル形式の大会に出たが、小学生の女子にあっけなく敗れた。
ほろ苦い黒星発進となったデビュー戦を機に一気にのめり込み、カナダに戻った後も踊りを続けた。もともとはシャイな性格だったが、自己表現できるコンテンツに出会い、海外でのコミュニケーション能力もアップ。留学生活に彩りを与えてくれたのが、ブレイキンだった。帰国後は京都に拠点を置くダンスチームに所属する。
競技を始めてから10年以上が経過した2017年。オランダ・アムステルダムで開催された世界最高峰の大会Red Bull BC One World Finalに、女性として初出場。初戦で敗れたものの、AYUMIの名前を歴史に刻んだ。2021年に世界選手権を制し、2022年世界選手権も3位。遅咲きのB-Girlはパリ五輪の金メダル候補に挙がるまでになった。
2023年2月18、19日に開催された全日本選手権では2連覇を達成した。2022年は新型コロナの影響で渋谷区のライブハウスで無観客開催。パリ五輪での採用が決まってから初めて有観客で迎える日本選手権だった。NHKが生中継したこともあり、注目度は格段にアップ。代々木第二体育館には過去最多となる約3,000人の観衆が集まった。
AYUMIは緊張を和らげるために手のひらに「がんばれ」の文字を書き、ダンスの合間に見て気持ちを落ち着けた。優勝の瞬間は感涙。「最後まで踊り切れたことが本当にうれしい。今日は自分を褒めたい」と実感を込めた。
2020年に立ち上げた自社ブランドの服に身を包み、自己プロデュースする。「ブレイキンでは洋服も重要な要素。ゆったりとした服とピタッとした服では、同じ動きをしても大きく印象が変わる。それぞれの選手が自分のスタイルに合わせた服を着ている」。全日本選手権ではネイルを今年のラッキーカラーである緑にするなどファッションへのこだわりは強い。
カルチャーがスポーツとなり、業界内にはダンスに点数をつけることに違和感を持つ人も多い。AYUMIは「ブレイキンは本当にすてきなカルチャーであり、スポーツ。もっと多くの人に知ってもらえたらありがたい」と競技と向き合っている。パリ五輪は目標ではあるが「一つ一つ乗り越えた先にパリがあればいい」とのスタンスだ。
2023年2月24、25日に西日本総合展示場(福岡県小倉市)で開催されたワールドシリーズは準々決勝で敗退した。五輪種目に採用されたことでダンサーのアスリート化が加速。
51の国・地域から180人が出場した大会で世界のレベルが上がっていることを痛感する結果となったが「どんどん自分自身をアップデートしていきたい」と逆にモチベーションをかき立てられた。2023年6月に不惑を迎えるが、迷いはない。これからも大好きなブレイキンをENJOYすることを何よりも大切にしていく。
AYUMI/福島あゆみ
1983年6月22日京都府生まれ。19歳からカナダ・バンクーバーに留学。一時帰国中にブレイクダンスと出会い、21歳で本格的に競技をはじめる。2021年世界選手権で優勝。全日本選手権は2022、2023年を連覇した。京都を拠点に活動するBody Carnivalに所属。身長1m54cm。
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。