2026年2月27日に公開される映画『木挽町のあだ討ち』。本作で芝居小屋・森田座の立師であり、父の仇討ちを果たした伊納菊之助に剣術を指南する相良与三郎を演じたのが、ゲーテの連載「映画独り語り座」でもお馴染みの滝藤賢一さん。今回、撮影の裏側と作品の見どころを教えてもらった。

2026/日本 監督・脚本:源孝志 出演:柄本佑、渡辺謙、長尾謙杜、北村一輝、瀬戸康史、滝藤賢一ほか 配給:東映
2026年2月27日(金)より全国公開
©2026「⽊挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023 永井紗耶子/新潮社
2025年、日本映画界に沸き起こった『国宝』ブームで改めて日本人の歌舞伎への興味、関心の高さが証明された。東宝が製作した『国宝』のヒットの余波は、松竹が長年興行を務める本物の歌舞伎俳優へと及び、歌舞伎座、南座に足を運ぶ若者が急増中。そして満を持して東映が山本周五郎賞と直木賞をW受賞した永井紗耶子の同名小説を源孝志監督が映画化した『木挽町のあだ討ち』が世に放たれる。
現在、東京・東銀座にある歌舞伎座とほぼ同じ場所に江戸時代、万治3年(1660年)に森田太郎兵衛が櫓(やぐら)をあげて作った芝居小屋が森田座であり、『木挽町のあだ討ち』の舞台だ。
文化7年(1810年)、第11代徳川家斉の治世。1月16日の雪の夜、木挽町の森田座で『仮名手本忠臣蔵』の千穐楽が終えた直後、多くの見物客でにぎわう往来で若侍の伊納菊之助(長尾謙社)が父を殺した下男の作兵衛(北村一輝)の仇討ちを果たし、江戸の町で大評判となる。
ところが、1年半後、「この仇討ちには腑に落ちない点がある」と菊之助の縁者を名乗る加瀬総一郎(柄本佑)が現れ、討たれて死んだ作兵衛の首と切り離された胴体の行方を追っていく。彼の目的が何なのか、ミステリー仕立てで進んでいく粋な時代劇である。
この作品で、旗本から森田座の立師となり、菊之助に仇討ちのための剣術を教える相良与三郎を演じるのが滝藤賢一だ。

観る者を魅了する、長尾謙杜と北村一輝による“美しき仇討ち”
――『木挽町のあだ討ち』はなぜ、美しき若衆がどのように逆境を乗り越え仇討ちを成し遂げたのかというミステリー仕立ての異色の時代劇ですが、完成した作品を観て最初の印象はどのようなものでしたか。
最初に感じたのはやはり美しさですね。長尾くんが演じる菊之助は仇討ちを始めるとき、真っ赤な赤姫(※歌舞伎に登場するお姫様役を、その衣裳の色から「赤姫」と呼ぶ。鮮やかな赤の地色に花柄などをあしらった衣裳は華やかな姫君の象徴である)の振袖を着ていて、それがとっても美しいんです。
時代劇は武士道とか、チャンバラとなると男性の観客が多くなるそうなんですが、『木挽町のあだ討ち』は歌舞伎の世界が軸にあって、衣裳が個性的で華やかで美しいと、女性の観客の方がとても褒めてくださるそうです。仇討ちのシーンも本当に美しいので、時代劇が苦手な女性の方にも愛される作品になっていると思います。

身分制の枠を越えた“戯場国”森田座
――時代劇につきまとうのは、常に身分制度という不条理です。菊之助の仇討ちを支援する森田座の面々は、旗本から立作者となった篠田金治(渡辺謙)をはじめ、身分制度の枠組みから抜け出た人間の集合体とも言えます。滝藤さんが演じた相良与三郎は有名な道場の師範代の座を捨てて立師(※歌舞伎の演目内の立ち回りの構成、指導)となっていて、身分の差がないフラットな関係性で成り立ち、武家とは対照的に描かれています。
この映画で描かれているように、江戸時代、歌舞伎の芝居小屋は歌舞伎役者だけじゃなくて、裏方として衣裳を作り用意する人、演目に出てくる小道具を作る人、大道具を組み立てる大工から左官までもいて、敷地内には風呂場も食事場もあり、客も含めると一日500人以上の人々が集まっていたそうです。
謙さん演じる金治が、仇討ちの真相を調べに来る柄本さん演じる田舎侍・総一郎に「森田座は戯場国だ」と言うんですが、戯場は一国の独立した国だっていう意味です。独自の掟があって、だから、武士のやり方に必ずしも従う必要はないと。僕が演じた与三郎は愛希れいかさん演じる小料理屋の看板娘・お三津と恋仲ですけど、もし、道場を辞めて浪人になっていなかったら、彼女と所帯を持つことは叶わなかったでしょう。
渡辺謙からの学びと、細部までこだわった江戸のセット
――渡辺謙さんは昨年(2025年)、日本における実写映画の歴代興行収入の記録を塗り替えた『国宝』で上方歌舞伎の歌舞伎俳優を演じられて、その後の歌舞伎熱のブームを作ったひとりであり、これまで数々の時代劇にも出演されています。滝藤さんは李相日監督の映画『許されざる者』(2013年)で共演されていますが、今回はどのような印象を受けましたか。
世界のKEN WATANABEですからね。目の前に世界で大活躍されていらっしゃる方がいるのに、見ないという選択肢はないですよね。ガン見です。与三郎の出番がない日でも、太秦にある東映京都撮影所に通っていました。とても貴重な時間を過ごせたと感謝しております。
謙さんは誰よりも早く現場に入り、場当たりをされ、スタッフさんとコミュニケーションを取られておられました。そういう姿も勉強になりましたし、他のキャストの芝居もつぶさに見ておられ、所作や見栄の切り方などアドバイスされている姿をよく目にしました。もちろん私も色々教わりました。謙さんから教わったことや見て学んだことは私の宝です。
――ご自身の出番のない日に立ち会われて、特に印象に残っている場面はありますか。
長尾くん演じる菊之助と北村さん演じる下男・作兵衛の仇討ちの場面ですね。
森田座での演目『仮名手本忠臣蔵』が終わった直後、芝居小屋のすぐそばで仇討ちが行われるんですが、先程まで芝居場を照らしていた龕灯(がんどう/※ロウソクによる照明)を外の広場にパッとあてて、そこが二人の花道みたいに照らされる。
長尾君の美しい俊敏な若さ溢れる動きと、北村一輝さんの力強い躍動感のある、ど迫力な立ち回りは息をのむ美しさで魅了されました。
もうひとつは、東映京都撮影所の一番大きいスタジオに組まれた森田座の中のセットですね。謙さんも、『国宝』の美術監督・種田陽平さんが作った歌舞伎場のセットはこちらよりもゴージャスだったけど、あれは現代の芝居小屋、こっちは江戸時代の芝居小屋のリアリティがとっても出ていて、素晴らしいと話されていました。
映画の中では舞台裏がメインで、特に奈落(※本舞台や花道などの床下の空間のこと。 「セリ」や「廻り舞台」などの仕掛けが置かれている)の劇中での使われ方はとても面白いです。
今回、脚本も手掛けられた源孝志監督は映画の中で、江戸の市井の人たちの食とか、楽しみ方とか、意地とか、そういうところも丁寧に描いています。そのこだわりが実に源監督らしいと思いますし、そこにもぜひ注目して観て楽しんでいただきたいです。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。映画『木挽町のあだ討ち』が公開中のほか、鳥取県倉吉市にて撮影を行った映画『遥かな町へ』など公開作が控えている。










