93歳の現役最高齢トライアスリート・稲田弘さんと和田秀樹さん。肉体の壁、医療の壁を超えて走り続けるふたりの“超人”対談。稲田弘2回目。【対談記事はコチラ】

なぜ70歳でトライアスロン一筋になったのか
和田 対談の1回目で「スイム&ラン」の大会にたまたま出て、なんとなく完走しちゃったとお聞きしました。自転車はどのタイミングで始めたんですか?
稲田 それもなんとなくでね。
和田 え、そうなんですか。
稲田 スイム&ランの大会に毎年出るようになったんですけど、会場に自転車で来る人が多かったんですよ。トライアスロンをやってる人は近県から自転車で来る。それがいたくカッコよくて。俺もしてみたいと憧れてね。で、69歳のときに買っちゃったんですよ(笑)。いわゆるロードバイクってやつです。
和田 やっぱり行動力がすごいですね。やりたいと思ったら躊躇せずに動く。これも若さの秘訣だと思います。
稲田 風を切って走るのが気持ちよくてね。それで一生懸命に練習して。で、たまたま近くでトライアスロンの大会があったので出てみたんです。結果はビリから3番目だったんですけどね。でも一応完走できたんですよ。
和田 すごいですよね。トライアスロンって、どれくらいの距離を走るんですか。
稲田 スタンダードなものは、スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmの合計51.5kmです。
和田 (笑)。すごい。70歳で始める競技じゃないですよね。
稲田 そのときは69歳。
和田 (笑)。
稲田 女房は病状が悪化して入院していたので、病院に報告に行きました。
和田 レースに出たよと?
稲田 はい。そもそも僕がそんな変なことやってるなんて女房は全然知らない。僕も話してなかったし。
和田 なるほど。病気の方になかなか話しづらいのはわかります。しかも過酷な競技ですから。
稲田 僕は怒られるのを覚悟してたんですよ。だけど逆に励まされちゃいまして。
和田 いい奥様ですね。
稲田 彼女とはよく一緒に山に登ったんです。テニスもしたしね、運動をすることも多かった。女房はそれが楽しかったらしいんです。だから「私も一緒にやりたいけど、できないから、あなたは私の分も頑張って」ってね、そんな言葉になったのだと思います。
和田 素敵ですね。
稲田 うれしかったですね。女房が亡くなる3ヵ月ぐらい前です。
和田 奥様は何歳で?
稲田 67歳です。僕の70の誕生日に女房の病室でケーキを食べてお祝いして。その2日後に病状が急変して亡くなりました。
和田 そうでしたか。
稲田 ショックでね。3ヵ月くらい。僕はボーッとしてたらしい。
和田 それはそうですよね。
稲田 よく覚えてないんですよ。あるとき息子に言われたんです。「母さんがトライアスロンをやってるのを励ましてくれたんだから、元気出さないとダメだよ」と。僕はNHKをやめていて仕事がないし、一人住まいでしょ。これはもうやるしかないと。それで、その日からトライアスロン一筋。生活そのものがトライアスロンになっちゃったというわけです。

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁を超えた人たち』『幸齢党宣言』など著書多数。
脳が縮まない人はいない
和田 NHK時代は記者をされていたので、インタビューとかには慣れている?
稲田 昔の経験ですけどね。マイクを持って現地レポートをしたこともあります。取材というのは綿密にするので、人と話す機会はやっぱり多かったですね。
和田 今、稲田さんがお元気なのは、そうやって人と話すお仕事の影響も大きいと思いますよ。
稲田 そうですか。
和田 定年後、人と話さなくなる人は多いんです。とくに男性はそういう傾向がある。でもそうなると、ぼけやすくなるんです。
稲田 話す人が周りにいなければ、そうなっちゃうでしょうね。
和田 僕は精神科の医者なので、認知症の人やなりかけの人をたくさん診ています。頭の写真を撮ると、ぼけていようがいまいが、脳は全員縮んでいます。個人差はあるのですが、脳が縮まない人はいないんです。
稲田 なるほど。
和田 そこからわかるのは、縮んだ脳を使うか。使う人はぼけにくい、使わない人はぼけやすいということです。
稲田 まあ、そうでしょうね。
和田 筋肉と同じです。若いころと比べたら筋肉は縮んでるけど、縮んだ筋肉を使うかどうか。使えば維持できるし、使わなければ衰えます。使えばトライアスロンだってできる。稲田さんがいい見本ですよ。まあ、極端な例ではありますけど(笑)。
稲田 (笑)。まあ、使うのは大事でしょうね。

現役トライアスリート。1932年大阪市生まれ。早稲田大学卒業後、NHKに勤務し、社会部記者として活躍。70歳でトライアスロンに初挑戦。2011年に78歳でアイアンマン世界選手権に出場し、2012年、2016年、2018年の3回、年代別世界王者タイトルを獲得。現在も現役選手。著書に『やれば出来る92歳のアイアンマン、世界を駆ける』。
よくしゃべり、よく食べことが長寿の秘訣
和田 例えば、30歳ぐらいの人がいわゆるひきこもりになり、部屋から1歩も出ない生活を5年〜10年続けたとします。それでもしゃべれなくなる人や歩けなくなる人はいないと思います。ところが、お年寄りが2~3年、部屋から1歩も出なければ、間違いなく歩けなくなる。
稲田 絶対、そうですね。
和田 ぼけたりもします。使わなかったときの衰え方は、年を取れば取るほど顕著になるんです。
稲田 でしょうね。
和田 お年寄りの方で、本はものすごく読むけど人としゃべらない、という人がいます。そういう人は、自分はぼけないと思って安心しているんだけど、そのうち言葉が出なくなる。
稲田 なるほど。僕は毎日チームの練習に行くし、近くのジムにも行ってるから、人と話をする機会は多い。だからおしゃべりのほうは大丈夫そうです。
和田 この連載で僕は80、90歳を超えても元気で活躍されている方と対談しているのですが、みなさん声がよく出るんですよ。喉の筋肉が強い。
稲田 なるほど。話すことで喉の筋肉を動かしている。
和田 そう。喉の筋肉が落ちると声が小さくなる。それだけじゃなく、誤嚥にもつながるんです。物を飲み込んだときに食道に入らず肺に入って誤嚥性肺炎になってしまう。怖いですよ、亡くなる人も多いですから。
稲田 それはいけませんね。
和田 誤嚥を起こす人は、よく聞き取れないような声で話をする傾向もある。だから患者さんの声がだんだん小さくなってくると、食事はよく噛んでくださいねと言ったりします。
稲田 先生はそういうところも診ているんですね。
和田 それとね、誤嚥するようになると食事量が減るんですよ。すると痩せてくる。だから縁起の悪い話で申し訳ないんだけど、患者さんが痩せてくると、危ないかなと僕らは思ってしまうわけです。
稲田 なるほど。
和田 つまりね、しっかり声を出せて、しっかり飲み込める喉の筋肉を維持することは、長寿にもつながるんです。そのためには人とおしゃべりすること。そして、栄養のあるものをしっかり食べることが大事なんです。稲田さんは激しいスポーツをしているから、食事もしっかり取っていると思うのですが。
稲田 おっしゃる通りでね。よく食べますよ。僕の食事を見るとみんな驚くんです。
※3回目に続く

