地方創生をライフワークとし、全国各地の“うまいもの”に精通する岸博幸氏。疲れた心身を癒し、活力を満たしてくれるエナジー飯とは。【特集 心震えるS級グルメ】

日本の食文化を味わいにわざわざ訪れたい
「S級グルメの定義は『魂を震わせる食』とのことですが、今回紹介する店は、僕にとって魂を安らげ、精神的にも肉体的にも元気にしてくれる場所。味は当然ながら店の雰囲気や店主の人柄も含めて惚れ込んでいる店ばかりです」
そう言って岸博幸氏が挙げてくれたのは、東京・神保町のカレー屋と長野県の名物・長芋の創作和食の店。カレー屋は大通りを1本入った路地裏、創作和食の店は長野市郊外の住宅地と、いずれも、通りすがりに目に留まるような立地ではなく、知らなければ訪れないような場所にある。
「カレー屋は昭和にタイムスリップしたような店構えだし、長芋専門店は田舎の親戚の家みたいな風情。失礼ながら、全然おしゃれじゃないし今風でもないけれど、僕はそんなところにも惹かれるんですよ。
東京を筆頭に都心は再開発が進んでいて、どのエリアも同じようなビルが並び、チェーン店ばかりが目立ちます。それは、すごくつまらない。日本の文化は外国からも称賛されるほどすばらしいのだから、古き良きものを大切にすべきだし、街の個性も生かした方が絶対にいい。日本の良さに気づいていないのは、実は日本人なんじゃないかとすら思います」
古き良き日本の食文化には、魂を安らげ、心身を満たすパワーがある。
岸博幸のS級グルメ2選
1.頑張るサラリーマンのエナジー補給場
ライスカレー まんてん「カツカレー」
無類のカレー好きを自認する岸氏が、少なくても月2回は訪れるのが、神保町の路地裏に佇む「ライスカレー まんてん」。ビニールのひさしがかかった店先には、黄色地に黒で店名が書かれたそっけない看板とガラスのショーケースが置かれ、昭和の風情が漂う。
「神保町にはおいしいカレー屋がたくさんありますが、一番通っているのがここ。昨今流行のスパイスをきかせたものではないし、辛さが選べるわけでもない。小麦粉をベースにした昔ながらのホッとする味わいで、誰もが懐かしさを感じるんじゃないでしょうか。かといって、あのおいしさは家では絶対に出せない。だから定期的に食べたくなるんでしょうね。店員さんの気配りもすばらしくて、昭和の温かさみたいなものが感じられるのも好きなんです」
岸氏お気に入りの「カツカレー」は、大きめのカツの上下にひき肉入りカレーがたっぷりかかっていて800円。営業中は常にサラリーマンや学生が行列をなしているのもうなずける。
「夜行くと、仕事帰りと思しきサラリーマンたちが黙々とカレーをかっ込んでいてね。きっと一生懸命仕事をしてきた後なんだろうな。その姿に、深夜までモーレツに働いていた官僚時代を思い出し、胸を打たれるんですよ。『みんな頑張っているな。僕ももっと頑張らなくちゃ』と、エネルギーをもらっています」

2.信州・松代の長芋を多彩に味わう
食いしん坊 かじや「長芋料理」
長野市松代町という知る人ぞ知るエリアの住宅街にひそむ「食いしん坊 かじや」。地元の特産品、長芋を主役に、千代幻豚や信州サーモンといった地の美味もとりいれた創作和食店だ。
「先祖の墓が近くにあり、食事をする場所を探してたまたま見つけたのがここ。通い始めてもう7、8年になるかな。最近は、この店に行きたくて年に数回お墓参りをしているような感じすらあります(笑)。
昼の定食は1000円台から3000円台、夜は3000円から予算にあわせてコースを組んでくれるんですが、食べきれないくらい出てきます。商売っけがないというか、きっと利益度外視なんでしょうね。お客さんにおいしいものをリーズナブルに、おなかいっぱい食べてもらいたいという気持ちが伝わってきます。ここで食事をすると、魂が洗われる気がするんですよ」
その言葉通り、昼の「かじや御前」は、長芋の田楽にスープ、山かけ重など、長芋がたっぷり味わえ、信州サーモンやデザートまでついて1650円と驚く安さ。調理法が変わると、かくも食感や味が変わるのかと、長芋の新たな魅力に出合えること請け合いだ。

住所:長野県長野市松代町松代955
TEL:026・278・8119
営業時間:11:30~14:00、18:00~23:00
定休日:火曜

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授のほか、一般企業や自治体の顧問、総合格闘技団体のアドバイザーなどを務め、メディアでも活躍。近著『余命10年』(幻冬舎)も話題に。

