役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2026年8月29日公開の『嘘もまことも』。

なんでしょう。この心地よい感じ
代理業の話かあ? ふむふむ、っておい! 今年(2026年)の「ゲーテ」4月号でやらせてもらっただろ! ハリウッド映画で同じテーマだっただろ! 今回9月号だぞ! 近い! 近すぎる! 半年も経ってないぞ滝藤! と自分でも思いましたよ。ええ、ええ、思いました。でもね、コレは素通りできないっす。だってめちゃくちゃいいんですもの。
磯部鉄平監督が手がけた映画『嘘もまことも』。磯部監督、関西でインディーズを撮られていた方だそうで、これが初の東京ロケ映画とのこと。舞台は江東区。川沿いの風景がふんだんに出てきて、常にいい風が映画のなかに吹きこんでくる。迷える大人たちの右往左往ぶりがチャーミングに描かれていて、観終わった時にはもう磯部監督のファンですよ。
主人公は、同じ職場の恋人が、同僚である部下の女の子と浮気していることがわかり、職場に居づらくなった30代の梨沙。気分転換にシンポジウムのサクラのバイトを引き受けると代理派遣会社の社長・寺村に見込まれる。「あなたは嘘がつけない人だから、嘘をつく仕事が向いている」と。
ある日、田舎の母を安心させたい売れないミュージシャンから梨沙はレコード会社のマネージャー役を依頼される。挨拶して終わりの予定が、お母さんから自身がガンだと告白される。自分の仕事は終わったはずの梨沙ですが、なぜかミュージシャンと本気で言い合いに。
このようなエピソードが作中でいくつも交錯していて、いつの間にか、夢中になって彼らを追いかけている。出てくる俳優皆さん本当に素晴らしい。なんでこんな風にお芝居できるんだろう。こんなに俳優が魅力的な作品、羨ましすぎる。昨今の何でも説明したがる風潮とは逆行しているのが、また素晴らしい。エモーショナルなシーンもいちいち俳優の顔に寄らず、ワンカットでみせてくる。映画の隅々まで磯部監督のセンスのよさを感じます。
鑑賞後、『嘘もまことも』の余韻に浸りながら、深川辺りをゆっくり散歩したくなる、そんな作品です。
『嘘もまことも』
『凪の憂鬱』が第37回高崎映画祭で新進監督グランプリ、大阪アジアン映画祭では『嘘もまことも』が観客賞を受賞。インディーズ界の群像劇の達人と知られる磯部鉄平監督。本作は東京・西葛西の川べりの風景を活かした優しい人間ドラマ。
2026/日本
監督:磯部鉄平
出演:朝見 心、木村知貴、ミネオショウほか
配給:モクカ、wisp
2026年8月29日より 新宿K’s cinemaほか全国順次公開
http://bellyrollfilm.com/uso/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。2026年8月28日に映画『私はあなたを知らない、』、9月18日に『八つ墓村』、10月9日に『遥かな町へ』、11月28日に『戦場のボヘミアン カメラマン 石川文洋』など出演作が続々公開!

