今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、君島大空の新作アルバム『花落知多少(はなおつることしるたしょう)』。

繊細な多重録音で描く嵐の後の静謐
君島大空は“異能”の持ち主だ。独創的なサウンド、繊細で中性的なハイトーンの歌声に、独特の詩情が宿っている。
独奏、トリオ、合奏形態の3つの編成でライヴ活動を展開するシンガー・ソングライターの彼。特に西田修大(Gt)、新井和輝(B/King Gnu)、石若駿(Dr)との合奏形態は、卓越した音楽家たちが轟音のなかで絶頂に上り詰めていくような凄まじいステージを見せる。フジロック出演やキャリア最大の舞台となった東京ガーデンシアターの単独公演も大きな評判を集めた。
3年ぶりの新作アルバムは、そうしたここ最近の動きとは対照的な、とても静謐な作品。彼の原点でもある、ひとりによる多重録音で制作された楽曲が並ぶ。歌とギターを軸に、メロトロンなどを加えた最小限のサウンドだ。穏やかな、しかし張り詰めた歌声には、ジェフ・バックリィやエリオット・スミスにも通じる崇高な響きを感じる。
孟浩然の五言絶句「春暁(しゅんぎょう)」から引用したタイトルは、「嵐の後の静謐」の象徴だろう。「drowsy」や「琥珀の遠景」などの楽曲が描く哀愁に満ちた光景にもそうした趣きがある。思わず息を止めて聴き入ってしまうような、研ぎ澄まされた美しさだ。
柴那典/Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。

