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2026.09.30

博報堂DYHDは、広告会社からどう変わるのか。“情報の格差”から“知恵の格差”へ。“コスト”だった広告費が“投資”へ

GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組んだメディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫ることで、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は、国内外約450社、約2万9000人の従業員を擁する博報堂DYホールディングス取締役副社長の矢嶋弘毅氏を取材。広告デジタル化の最前線を歩んできた矢嶋氏に、広告代理店から「クリエイティビティ・プラットフォーム」への変革を目指す同グループの未来像を聞く。

ファイナンスについて語る矢嶋氏

広告会社を超えた創造的プラットフォームへ。「生活者発想」を拡張するファイナンス哲学

広告・マーケティングの世界を牽引し続ける博報堂。その博報堂に加え、大広、読売広告社の3社を中核とする博報堂DYグループの純粋持株会社として、グループ全体の経営戦略や資本政策、ガバナンスを担うのが博報堂DYホールディングス(博報堂DYHD)だ。インターネットの普及やデジタル化によって広告会社の役割が大きく変わるなか、同グループは現在、「広告会社グループ」から「クリエイティビティ・プラットフォーム」への変革を進めている。

その最前線に立つのが、博報堂DYHD取締役副社長の矢嶋弘毅氏。1984年に博報堂へ入社し、インターネット広告黎明期の1996年には、インターネット広告の媒体販売会社、デジタル・アドバタイジング・コンソーシア(DAC)の設立を主導して初代社長に就任した。その後もデジタル事業やメディア事業、グループ経営に携わり、現在は博報堂取締役副会長も兼務。そのキャリアは、日本の広告ビジネスが大きく姿を変えた40年余りと重なる。

「もともと広告会社というのは“情報の格差”で商売をしてきたんです。我々はクライアントよりも海外市場やメディアの情報を持ち、メディアよりもクライアントの事情を知っていた。これが仲介者としての価値になっていたわけです」

しかし、インターネットの登場でその前提は崩れ、「知っていること」そのものの価値は低下していった。

「そうして始まったのが“知恵の格差”の時代です。単に情報を持つだけでなく、それをどう解釈し、アイデアや知恵に変えていくのか。その軸となったのがクリエイティビティでした」

そして今、AIの登場によって、“知恵の格差”さえも縮まり始めている。矢嶋氏はこれらの現象も含めたAIの台頭を「第5次産業革命」と捉える。

「AIによって、さまざまなビジネスへの参入障壁はさらに低くなり、ひとりでも新しいプレイヤーになれる時代。そうなれば競争相手そのものがまったく変わってくる。今は間違いなく大きな転換点にあります」

こうした社会の変化とともに、クライアントの広告に対する見方も一変した。

「かつては『商品や会社を有名にしたい』という目的が中心でしたが、今は明確なリターンまで問われる時代になった。つまり、“コスト”だった広告費が“投資”として捉えられるようになったということです。昔の広告会社は、数字では明らかにできない先進性や創造する力に価値があったわけですが、今は逆に、透明性そのものが競争力にもなる。これは広告業界を取り巻く非常に大きな構造変化です」

ファイナンスについて語る矢嶋氏
矢嶋弘毅/Hirotake Yajima
1961年生まれ。一橋大学社会
学部卒業後、1984年に博報堂
入社。1996年、デジタル・ア
ドバタイジング・コンソーシ
アム(DAC)の設立を主導し、
初代社長に就任。博報堂DYメ
ディアパートナーズ社長など
を経て、現在は博報堂DYホー
ルディングス取締役副社長、
博報堂取締役副会長。

これからの時代を見据えフルモデルチェンジを図る

現在、同グループが掲げている「クリエイティビティ・プラットフォーム」へのフルモデルチェンジは、「広告会社」という自己定義を更新し、生活者発想のクリエイティビティを武器に、企業の事業そのものや社会の価値創造までを支援する存在へと進化することを意味する。

「広告会社は今や、広告だけを提供していればいいわけではない。これからは、クリエイティビティを軸に、企業とともに新たな価値を生みだし、社会を動かしていく。それが、我々の使命だと思っています」

その実現に向けて設定しているのが、マーケティング、コンサルティング、テクノロジー、コンテンツ、インキュベーション、グローバルという6つの事業領域。矢嶋氏はその全体像を、従来から強みを持つ「マーケティング・コミュニケーション」と、データやテクノロジーを活用して企業の課題解決に踏みこむ「マーケティング・ソリューション」の大きくふたつに整理する。後者は、コンサルティングファームやシステム開発・構築会社とも競い合う領域だ。

「我々はマーケティング・ソリューションでは後発です。ですが、長年培ってきたマーケティング・コミュニケーションの実践力という武器がある。これらをセットで提供することで、我々ならではの競争力を生みだすことができます」

ファイナンスについて語る矢嶋氏

デジタル化が変えた広告会社のファイナンス

事業領域の拡張とともに、同グループにとって、ファイナンスが持つ意味も変化してきた。「広告会社の中心にあるのは『人』であり、かつては大規模な借り入れをしてまで投資をする必要はなかった。しかし、その状況を変えたのが広告のデジタル化です。予約型広告なら大きなシステム投資は必要ありませんでしたが、運用型では効率よく広告を運用できるかが成果を左右する。そのため、テクノロジーとデータへの本格的な投資が不可欠となったんです」

その変化を象徴するのが矢嶋氏が立ち上げたDAC。インターネット広告黎明期には、予約型広告を中心に成長したが、その後、運用型広告が台頭すると、そこに強みを持つアイレップ社との資本業務提携やグループ化を進めるなど、外部の専門性を取りこんでいった。

「新領域ではまず、“ナレッジを買う”という感覚が強い。なぜならそれぞれの領域で必要なノウハウが異なるため、社内で一から育てるよりも、その領域を得意とする企業と組んだり、買収したりするほうが早いからです。そして市場が大きくなれば、シェアも重要になり、ロールアップ型のM&Aも必要になっていきます」

2018年には、DACとアイレップを傘下に持つD .A .コンソーシアムホールディングスを完全子会社化。2022年には、地方・中小・ベンチャー企業へのデジタルマーケティング支援に強みを持つソウルドアウト社をTOBによって連結子会社化するなど、ファイナンスを活用しながら、デジタル領域の機能と事業基盤を拡張してきた。

「それでも、今ある約450社だけですべてに対応できるわけではありません。特にAIに関しては、まだ足りない能力がたくさんある。そうしたナレッジや機能をどう補強するか。それがこれから重要になります」(後編へ続く/10月7日公開予定)

――FINCHIは、出資・M&Aを検討する事業会社同士をダイレクトに繋ぐファイナンスプラットフォームです。

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TEXT=近江 瞬

PHOTOGRAPH=嶋本麻利沙

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