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2026.06.26

金融の力で「生まれる30年」への新産業を! 事業開発のスペシャリスト中馬和彦のファイナンス戦略

GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組み、新メディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」を創設。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、M&Aや投資などの「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫る連載を通じて、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は、KDDIで新規事業やM&Aで数々の実績を残した後、みずほフィナンシャルグループに転じた中馬和彦氏を取材。銀行だからこそ描ける新産業創出の戦略と、共創を望むパートナー像について聞いた。

ファイナンスについて語る中馬和彦氏

なぜ銀行か。中馬氏が求めた「つなぐ力」

KDDI時代、数々の新規事業開発とともに、国内外のスタートアップ100社超への投資や大型M&Aを担当し、オープンイノベーションを推し進めた中馬和彦氏。

「当時のKDDIは、恐らく日本で最も多くのM&Aを手がけ、スタートアップへの出資を行っていた企業でしょう。私が携わったTOB(株式公開買付け)は、約5000億円にも及ぶ大規模なものでした」

KDDIでは、基本的に自社資金で出資やM&Aを実施しており、中馬氏の判断で大規模な投資でも迅速に動けることにやりがいも感じていたという。

しかし中馬氏はそのような充実した環境から、ファイナンスの本丸である銀行で挑戦するために、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)へと職を転じた。

「KDDIは通信を本業とする事業会社。どうしても出資やM&Aには、本業の利益につながる案件が優先されるといった制約が生まれます。

一方、金融機関はすべての産業に関わり、ファイナンスという普遍的な取り組みを行っています。

だからこそ、さまざまな人を巻きこむ力がある。社会に対してより大きなインパクトを与えたいと考えた時、多岐にわたるステークホルダーと協働し、点在しているアイデアや課題を大きなスケールでつなぎ合わせられるのは、銀行だけだという思いがありました」

ファイナンスについて語る中馬和彦氏
中馬和彦/Kazuhiko Chuman
1973年鹿児島県生まれ。KDDIのオープンイノベーションの事業責任者としてスタートアップ投資や新規事業を手がけ、「イノベーティブ大企業ランキング」では7年連続1位を獲得。2025年からみずほフィナンシャルグループ執行役員CBDOに就任し、グループの新規事業統括に携わる。「新しい資本主義実現会議」スタートアップ育成分科会委員、経済産業省 J-Startup推薦委員、経団連スタートアップエコシステム変革TF委員、東京大学大学院工学系研究科非常勤講師、一般社団法人Metaverse Japan理事、PARTYエグゼクティブアドバイザーなどを務める。

金融で新産業を育てる。市場起点の共創戦略

みずほFGの執行役員CBDOとして新規事業開発の責任を担う中馬氏は、最初に経営陣と約束したことがあるという。それは、「みずほFGだけのために仕事はしない」ということだ。

「『市場のため』『日本のため』といった視点から、産業を創出するのが私のミッションです。新しく成長する産業領域が生まれれば、金融機関はそれに対して新たな金融商品を開発し、きちんと支援していく役割があります。それは結果的に、みずほFGの成長にもつながるのです」

新たな産業を生み出すのは容易ではない。現に日本では、この30年で米国の巨大プラットフォーマーのように、世界の産業構造を塗り替える企業や産業を生みだせなかった。

しかし、中馬氏は「グローバル経済や世界秩序の変わり目にある今、次の30年を見据えた新たな産業の創出は必須。そして、今はその絶好のチャンス」と力をこめる。さらに現在、そのゲームチェンジを引き起こす鍵となるのが「AI(人工知能)」だと続ける。

「インターネットの登場によって世界は狭くなり、そこにAIが登場しました。グローバル経済が再編されるなかで、このAIによってインターネットが誕生した時のような産業構造の変化、いわゆる“ガラガラポン”的な現象が起きるかもしれない。卓越したアイデアがあれば、たとえプラットフォーマーにならなくても世界一を狙える産業を生みだすことができます」

中馬氏が特に注目している産業領域がIP(知的財産)である。

周知の事実だが、アニメをはじめとする日本のコンテンツには、世界に誇れる資産が数多く存在している。そして、それらが世界へと大きく広がるきっかけのひとつになったのが、世界的な定額制動画配信サービスだ。中馬氏は「プラットフォームそのものを日本が作れなかったとしても、そのうえで流通するコンテンツのレイヤーで勝つことができる」と指摘する。

「日本のIPをより広く世界で水平展開していくには、個別作品のヒットに依存するのではなく、持続的な収益につながる仕組みそのものを作る必要があります。

そのために私たちが目指すのは、作品の世界観やキャラクターが持つ魅力といったIPの価値を理解し、同時にファイナンスを使ってレバレッジをかけ、作品から広がるグッズ展開やイベント開催などを後押しする存在になること。

IPと金融をかけ合わせることで、日本のコンテンツが新しい形で世界市場から収益を得る。その仕組み作りこそが、これから取り組むべきテーマであり、日本が次に勝つための現実的な戦略です」

ファイナンスについて語る中馬和彦氏

銀行がハブとなり「生まれる30年」へ

IP以外に中馬氏は、防衛・経済安全保障やフィジカルAIなどにも注目している。シード・アーリー段階のスタートアップを中心に探索を深め、産業を生みだすために投資を進めていくという。

そのなかで、みずほFGは投資先の企業やそれを率いる事業家になにを求めるのか。中馬氏の答えは実に明快、かつ挑戦的だ。

「我々が求めているのは、単に会社を立ち上げる起業家というより、産業そのものを作る覚悟を持った事業家です。解決したい課題があり、課題解決の先に新しい世界を描いている。その志の高さやビジョンの大きさ、仕かけるスケール感を求めているんです」

そういった事業家たちとどのように共創していくのかについて、中馬氏は揺るぎない決意を持っている。

「我々銀行は、社会的公器の側面を持っています。ブルーオーシャンを見つけて、短期的に大きな利益が得られるという理由で参入する。そういった企業を否定するつもりはありませんし、そこに投資するベンチャーキャピタルも多いでしょう。でも、それは我々の役割ではない。

すぐには利益が出ないし、越えなければならない壁も高い。しかし、乗り越えれば大きな社会的インパクトにつながり、新たな産業創出にもつながる。そのようなスタートアップを積極的に応援するのが銀行の役割です」

バブル崩壊以降の日本の長期停滞期を表す表現としてメディアが多用する「失われた30年」。中馬氏はその言葉に違和感があるという。

「別に失われたわけではなく、日本企業も成長はしていました。ただ世界を見ると桁違いの成長を遂げた企業や産業が生まれていたことは事実です。その意味では、『生まれなかった30年』だったと感じています。

銀行は、他業禁止原則や出資比率制限により、自ら事業を生みだし運営することは基本的に制約されています。よって、我々がやるべきは、自社でゼロから事業を立ち上げることではなく、世のなかのどこかにすでに存在している兆しや動きを探し、それにいち早く乗ることです」

だからこそ中馬氏は、事業を通じて挑戦する人たちへ熱い期待を寄せている。

「私たちは主観的になりすぎないフラットな立場で、新しいアイデアを持つスタートアップの成長をファイナンス面で応援していきたい。それによってこれからの30年を『生まれる30年』にしていきたいと考えています。

インターネットの波に乗り、歴史に名を残した先人に負けないような、これからの歴史に名を残すスタートアップの方々と出会えることを楽しみにしています」

ファイナンスについて語る中馬和彦氏

――FINCHIは、出資・M&Aを検討する事業会社同士をダイレクトに繋ぐファイナンスプラットフォームです。

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COMPOSITION=平野遊

TEXT=林田孝司

PHOTOGRAPH=藤原江理奈

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