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2026.06.26

「社内考課はBでよし」。営業成績より顧客満足を選ぶ、”For Clients”丸尾のファイナンス実践講座

GOETHEとファイナンスプラットフォーム「FINCHI」がタッグを組み、新メディア「GOETHE Finance powered by FINCHI」を創設。ビジネス界で圧倒的な実績を持つリーダーたちは、M&Aや投資などの「ファイナンス」をどのように捉え、活用しているのか。その最前線の思考に迫る連載を通じて、日本における「ファイナンス」をカルチャーとして定着させていく。今回は、日本中の企業家・投資家から「IPOの守護神」と称され、信頼を寄せられる丸尾浩一氏のコラム。第一回は、どんな時も「For Clients」を貫いてきた丸尾流ファイナンス哲学の原点について。

ファイナンスについて語る丸尾浩一氏

大和証券で知った「商売の面白さ」

皆さん、こんにちは。丸尾浩一です。

現在は「Major7th(メジャーセブンス)」という経営コンサルティングの会社を経営していて、大企業からスタートアップまで、多くの経営者とお話をさせていただいています。社外取締役やアドバイザー、あるいはただの友人として、と立場はいろいろですが、嬉しいことに多くの人たちからご相談をいただいていて、日夜、打合せや会食に駆けずりまわっています。

夜の会食は一晩で2件なんてことも珍しくなく、いつしか「ダブルヘッダー丸尾」という異名が生まれたりもしています。時間のことだけを言えば「忙しい」ということになるのでしょうが、私としてはお客様と共に過ごす時間は、とにかく「楽しい」。そんな毎日です。

私の専門領域は上場企業のファイナンスとM&Aです。世間では投資銀行業務と言っています。ここでは、私が約40年にわたって、ありとあらゆるファイナンスに関わってきたことを振り返りながら、ちょっとえらそうになりますが、私なりの「ファイナンス」哲学のようなものをお伝えできればと思っています。

やっぱり哲学はちょっと言いすぎですね。実践から学んだヒントを、次代を担う方々にお裾分けできれば嬉しいという感覚です。

私のキャリアの原点を語るなら、1984年の大和証券入社まで遡らなければなりません。

実は新卒採用活動当時、私の第一志望は総合商社でした。とにかく「給料がよくて、スケールのでっかい仕事をして、グローバルに活躍したい」という、いかにも当時の大学生らしい漠然とした憧れがあったのです。総合商社ならそれができそうだなと。

とはいえ結局、意中の商社の最終面接からはご返事がなく、当時、「滑り止め」として内定をいただいていた大和証券に入社することになったのですが、今振り返れば、これが私の人生における最大の「大正解」でした。

そして、入社して最初に配属されたのは、リテールと言われる一般個人向けの営業部門です。

当時はバブル景気へと向かう熱気のなか、新聞や雑誌に「財テク」という言葉が躍り始める少し前でした。証券会社の現場も、まさに昭和のモーレツ営業当たり前の時代で、各支店、そしてそこで働く社員には凄まじいノルマが課されていました。極論を言えば「会社が用意した商品の売りこみ」だけをやればいいという強烈なプレッシャーもあり、自分が勉強しておすすめすることよりも、時には自分が本当によいとは思えない商品すら売らなければならないという現実がありました。

しかし、そんな過酷な環境で見いだしたのが「お客様に喜んでもらえる商売の面白さ」です。

自分が本気で「これは来る!」と信じて勧めた株の価格が上がり、お客様に喜んでもらえることがある。必ずとはもちろん言えませんが、その時の快感と、お客様との信頼関係がグッと深まる手応え。これこそが、私が証券マンとして生きていく覚悟を固めていくきっかけになりました。

この「お客様に喜んでもらえる商売の面白さ」が今にいたるまでずっと、私の仕事のモチベーションの真ん中にあります。

ファイナンスについて語る丸尾浩一氏
丸尾浩一/Koichi Maruo
1960年大阪府生まれ。大和証券に38年在籍し、専務取締役などの役員を12年間歴任。一貫して投資銀行業務に従事。主幹事としてメルカリやラクスルなど、数々の大型スタートアップIPOを実現したほか、経営破綻した日本航空の再上場や、楽天グループ、KDDI等、上場企業の資金調達にも携わる。現在、起業家支援サービスを提供するMajor7thの代表取締役を務めながら、上場会社を含む複数社の社外役員等を兼務。

あえて「B考課」の確信犯的な選択

当時の証券会社の営業マンに対する評価(人事考課)は、基本的には「手数料による稼ぎ」によります。そのため、お客様に株を頻繁に売り買いしてもらえば、社内の評価は「A」になる。いわゆる「エース」の称号です。

当時の営業マンのなかには手数料を目当てに、買っていただいた株をすぐに売らせて、他の株を買わせる、いわゆる回転売買を行う営業マンが普通でした。また他にも、ここでは書けないような営業がまかり通っていた時代でした。

ですが私はそれをどうしてもよしとはできませんでした。なぜなら、本当にお客様の利益を考えたら、短期売買を繰り返すのではなく、よい株を長く持っておいていただくことが正解だからです。

株価が上がっても「今売って次に乗り換えましょう」とは言わず、「まだまだ上がりますから、そのまま持っておいてください」と伝える。また新しいものをすすめたいときは、キャッシュで持ってきてもらう入金営業を努めました。そうすると、効率的に手数料売上は上がりません。当然、人事考課で「A」がつくことはありませんでした。

一方で、とにかく入金営業による新規顧客の開拓は頑張っていたこともあって、そこそこの評価として「B考課」をつけられることが多かったです。でも、同期のトップたちがガンガンと手数料収入を稼ぐなかでは「丸尾の成績はまあまあだな」と思われていたように思います。

 しかし、私は確信していました。短期的には「B考課」でも、お客様の資産が増えれば、信頼という名の「利子」が積み上がっていく。それこそが、証券会社の営業マンにとっての真の評価であり、目指すべき本来の証券マンの姿なのではないか、と。

その後、時代はバブル崩壊期を迎え、証券会社も私も苦境に立たされるわけですが、私はこのお客様からの信頼を獲得するという資産によって、ずいぶんと助けられることになります。

「社内の評価」という狭い物差しに振り回されず、真にお客様とマーケットから評価される仕事を貫く。このコラムのタイトルにもした「For Clients」の精神が、プロとして守るべき倫理であり、この姿勢を貫くことによって、ある種の「人間力」が鍛えられ、後に大きなディールを任せてもらえるようになったと思っています。

ルール違反で数字を上げて注目を浴びることよりも、お客様の利益を考えて、お客様に真に向き合い、「枕を高くして寝られる」仕事をする――これは、私が今でも自分に、そして日々相対している若い経営者の方々にも言い続けていることです。

組織を動かす「3倍の努力」の信頼

約10年間のリテール営業を経て、私は大阪の事業法人部へ異動になりました。相手は主に上場企業の財務や経理を担当するエリートたちです。それまでの個人相手とは業務内容も、扱う金額もまったく違う世界でしたが、本質的に私のやることは変わりませんでした。

大企業の役員や経営層から信頼を勝ち取るためには、情報の質と量が不可欠です。私は「他の人の3倍努力をして、倍の結果を出す」という信条のもと、とにかく足繁く取引先に通い詰めました。

例えば、必ずもっと成長して将来大きなビジネスに繋がると思った会社は、週に一度、月4回は必ず訪問すると決める。目先商売がなくても、本部から専門家を連れて、最新のIR情報や、新しいファイナンススキーム、マーケットの動向を資料にして持っていくのです。

優良企業には当然、他社の営業マン、つまりは私にとってのライバルたちがたくさん出入りしています。そこで相手が10の努力なら、こちらは30やればいい。そうすることで、やっとライバルと肩を並べ、いつしか一歩抜きんでることができると考えていました。

戦略とも言えない、私のこの愚直なやり方が、まずは相手との信頼関係を築き、やがて組織全体を巻きこんだ巨大なファイナンス・プロジェクトへとつながっていくことになります。

泥臭い努力を推奨するような話は、今の世のなかには歓迎されないかもしれません。でもいつの時代にあっても、私たちのような人と人との信頼関係を土台とする仕事の場合は、BtoBであれ、BtoCであれ、信頼の積み重ねが資産となることに変わりはないはずです。

ファイナンスについて語る丸尾浩一氏

ファイナンスの裏側にある人の熱量を

上場企業のマーケットをつかったファイナンスとは、銀行借り入れのように毎年あるものではなく、何十年に一回のようなケースもあります。

上場会社は、エクイティファイナンスの成否によって大きな危機を乗り越えられることがある。また逆も然りです。事業拡大のスピードを加速させたり、新しい挑戦を可能としたりもする。パートナーとの共創のきっかけにもなり得る。つまりファイナンスとは、企業を持続的に成長させるためのひとつの「装置」なのです。

その装置をポジティブに使いこなし、お客さんとともにいかにして組織の未来を切り拓いていくか。私の実戦から得た教訓やヒントを、これから皆さんにお伝えしていきたいと思います。

次回からは、私が手がけた代表的なディールの舞台裏をお話しします。

まずはゲーム会社の「カプコン」の話からになるでしょうか。カプコン社内の証券会社の序列で言うと最も下位だった大和証券が、当時まだ誰もやっていない「IR」という手法を積極的に提案し、大阪から東京に経営トップと随行して機関投資家を訪問する。

このようなことからトップマネジメント層と親しくなり、最終的に野村證券から主幹事を奪取した「カプコンの逆転劇」について。それから、「証券界にはまだ前例がない」という壁を、担当役員への「壁ドン」の覚悟で突き破った「mixi資金調達ストーリー」。

さらに取引がほとんどないまま7年間通い続けた「キーエンスの株主増加策」の話などなど、興味のある方には「なるほど」と思っていただけるであろうエピソードがいくつもあります。いずれのケースも、ファイナンスの裏にある人の熱量の物語。そして人と人との信頼関係のお話です。

次回の講義も、どうぞお楽しみに!

(第二回:「突破口を開く情報の力とリスクへの覚悟 ――カプコンとmixiの逆転劇――」へ続く)

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――FINCHIは、出資・M&Aを検討する事業会社同士をダイレクトに繋ぐファイナンスプラットフォームです。

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COMPOSITION=平野遊

TEXT=青山祐輔

PHOTOGRAPH=嶋本麻利沙

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