東大の先輩・後輩。我が道を拓く自由人。楽しいこと大好き、お酒大好き、食べるの大好き。何かと共通点の多いふたりの談論風発。見えてきたのは、希望と人間への深い愛情でした。加藤登紀子1回目。

自分で生きると命が輝く
和田 鮮やかな赤のお召し物。素敵です。赤はテストステロンが出るといわれていますが。
加藤 ピンクもね。
和田 そういうことも意識して服を色も選んでるんですか。
加藤 そうそう。っていうか、たくさんある和田さんの本を読んでると、私は優等生だね。
和田 え、優等生?
加藤 本に書かれたとおりのことを私やってるなと、いちいちうなずいてるのよ(笑)。
和田 僕も加藤さんの本『「ま・さ・か」の学校』を読ませていただいて。前頭葉が若返る考え方をされてるなと。
加藤 あら、嬉しいわ。
和田 年を取ってくると、年寄りくさい考え方になるというか。
加藤 (笑)。年寄りくさい?
和田 いや、加藤さんがじゃなくて(笑)。年を取ると、立派なことを言おうとして、押しつけがましくなるんだけど、加藤さんは、実に軽やかでいいなと。
加藤 いい本でしょ。脳の話なんかもしちゃってね。なんの知識もないのに。
和田 いや、加藤さんみたいな生き方をしてると、本当に脳は喜ぶんですよ。困った時は笑ってしまうとか、さっき言ったことと反対のことも平気で言ってしまう、とかね。危ない橋を渡ろうとかもそうなんだけど。僕も加藤さんの本を読みながらいちいちうなずきました(笑)。
加藤 ありがとうございます。
和田 がんじがらめの世の中で息苦しくなってますからね。みんな右向け右、みたいになってしまっている。別に僕は右でも左でもないんですけど。
加藤 世の中はね、いつもややこしいですよ。昔ね、私が結婚した藤本敏夫は学生運動をしていて。出会った時から彼はすごく悩んでたの。私たちのやってることは無力で、社会を動かす力はない。それはわかってるんだけど、認めるのは悔しいから、なんとしても表現する。まあ、夫の話はさておき。人の命ってね、自分の力で生きている時に一番輝くでしょ。誰かに頼って生きていくんじゃ楽しくないし、力も湧かない。
和田 そうです。
加藤 だから私は、やっぱり好きに生きたいわけです。
和田 だけど加藤さんみたいに破天荒な生き方をされると、ご苦労も多かったでしょうね。
加藤 破天荒って。フロンティアってことね。はみ出して生きているほうがいっぱい空気を吸える。想定外のことばかりだったけど、私は好きな自分と、好きなように、好きなことをして生きてきただけなのよ。
和田 素晴らしいです。

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁を超えた人たち』『幸齢党宣言』など著書多数。
加藤登紀子/Tokiko Kato (右)
シンガー・ソングライター。1943年ハルビン生まれ。1966年「誰も誰も知らない」でレコードデビュー。1971年「知床旅情」が大ヒットし、日本レコード大賞歌唱賞受賞。自身が訳詞・歌唱した「百万本のバラ」が話題となり、1987年にシングル化。最新刊に『「ま・さ・か」の学校』がある。現在も国内外で活躍し、2026年10月にはウズベキスタンでコンサートを開催。
考え方を変えるだけ
加藤 何かの取材で「立ち上がれないほど大変だったことはあるか」と聞かれましてね。そりゃあ、いっぱいありますよ。だけど私は、参るって気持ちは瞬間で終わらせたいの。
和田 なるほど。それで「困ったことがあったらまず笑っちゃうわ」っていう金言ができた。
加藤 (笑)。あのね、以前、私の知ってる人が男と別れて寂しくて、お酒に溺れて依存症になっちゃったの。私はそういうのはイヤ。すぐに立ち直りたい。もし男と別れるなら、次を探してから別れるわ。
和田 さすがですね。
加藤 私は寂しがり屋で、強い女じゃないのよ。ダメージを受けたままにしておきたくない。どうしたら軽くなるか考える。それはずっとやってきてます。
和田 いい考え方ですね。
加藤 和田さんは幸齢党の党首でもあるけど、社会を変えるのって難しいよね。でも自分を変えることはできると思うの。
和田 おっしゃるとおりです。考え方を変える。
加藤 あなたが変われば、世の中も相当変わるよと。
和田 そうです。ひとりひとりが少しずつ変われば、世の中は確実に変わりますから。
加藤 いいね。希望が持てる。
脳は退屈が嫌い
和田 加藤さんの若々しさの秘訣は、考える習慣があることだと本を読んでわかりました。もちろん、現役で歌手をやってるとか、お風呂で冷水シャワーとか朝の体操とか、たくさん実践されているわけですが。
加藤 それと、お酒ね(笑)。
和田 「ほろ酔いコンサート」とかも長年やって(笑)。けしからんって声もあったかもしれないけど、自分の道を毅然と歩く。格好いいですよ。
加藤 私ね、脳は退屈が大嫌いだと思ってるの。だから暇があったら脳と遊ぼうと思ってる。
和田 脳と遊ぶ?
加藤 例えば、原稿を書くのに飽きたら作曲をする。気分が乗らないなら料理を作る、お裁縫をする。窓を開けて空を見る、散歩をする。次々にやることを変えていくと、頭がスッキリしてまた原稿を書きたくなる。脳はね、遊んでいたいんだと思うんですよ。
和田 それと似た話で、僕がうつ病とか不安神経症の患者さんを診ていて感じるのは、ひとつの思考パターンに囚われていることです。
加藤 悪い思考パターン。
和田 はい。なかでも一番悪いのは「かくあるべし思考」です。
加藤 失敗が怖い。
和田 「男たるものかくあるべし、女はこうでないといけない」みたいな思考パターンなんです。そういう人は、そこからずれる自分を責める。あるいは周りに対しても「それじゃダメだ」と言ったりするわけです。つまり「かくあるべし」という呪縛で、自分の首を絞めているわけです。
加藤 きついよね。
和田 医者もこの思考パターンに陥りがちです。「血圧は下げるべし」と正常値にすることが正しいと思ってる。でも本当に正しいかどうかはわからない。個人差もあるわけですから。
加藤 お医者さんは絶対に失敗できないと思うからね。それは苦しいでしょうね。
和田 だけどやってみなきゃわからない。やる前から答えは出ていないわけだから。加藤さんみたいな方でも、作った歌が売れないとか、ちょっと違ってたとか、あると思うんです。
加藤 私は挑戦だらけ、失敗だらけね。歌が売れるなんてね、珍しいことなのよ(笑)。
和田 (笑)。加藤さんのそういう素直というか楽天的というか。よく笑うとか、どれも免疫にいいことばかりです。
加藤 コロナの時に私、自分で免疫をつくることに挑戦したの。
和田 え、そうなんですか。
※2回目に続く

