『あしたのジョー』の作者であり、86歳の今も連載を続けるレジェンド漫画家・ちばてつや氏と、『80歳の壁』著者・和田秀樹氏の対談ををまとめてお届け! ※2025年2月掲載記事を再編。

1.『あしたのジョー』作者・86歳ちばてつや、いまだ現役の秘訣

和田 ちば先生とは「エンジン01文化戦略会議」の集まりでお会いしていますが、ゆっくり話すのは初めてなので、とても楽しみです。なんせ僕が子供の頃からすごい人でしたから。先日頂戴した自伝的な漫画『あしあと』も素晴らしかったです。
ちば うわー、読んでくださったの。ありがとうございます。
和田 『あしたのジョー』はもちろん、僕は『ハリスの旋風』も好きでした。今日はちば先生の仕事場にお邪魔しましたが、ここで描かれてたんですか? その頃はお弟子さんもたくさん。
ちば はい。かつては10人近くいたんですけどね。体力的に私が描けなくなったんで。
和田 やはりこういう静かな場所は集中できるんでしょうね。
ちば このあたりはね、手塚治虫さんとか馬場のぼるさん、松本零士さんとかね、たくさんいたんですよ。漫画を描くのは孤独な作業だから。締め切りに追われて苦しんでる仲間が近くにいると少しホッとするんですよ。そんなわけで、なんとなく集まってきたのかもしれませんね。
和田 大きなジョーの絵が壁に描かれ、フィギュアもいっぱい。夢のようです。漫画のキャラクターはご自身でお作りになる?
ちば だいたいそうですね。原作者がいる場合は、いろいろお話をして「こんなタイプはどう?」なんて描いて見せて「もうちょっと年上がいいかな」とかね。そういう相談をすることもありますが、だいたい漫画家に任せられますね。
和田 漫画家はストーリーから絵まで、全部をひとりで作る。全部できちゃうだけに、わりと完璧主義の人が多い気がします。
ちば 漫画家っていうのはまじめでね、人に任せられない人が多いんですよ。私も背景とか、描きやすいものは誰かに任せて、肝心なところだけ描けばいいんだけど。どうしても背景の木の一本一本まで自分でやらないと気が済まない。
2.「松本零士にしろ赤塚不二夫にしろ、みんな本当に気持ちは少年」

和田 そこに飾られている絵、ちば先生が生んだキャラクターが勢ぞろいしていますね。
ちば そうですね。
和田 ストーリーとか人物描写もそうだけど、こういう絵が描けることがすごいと思います。
ちば そうですかね。
和田 僕はね、絵が好きなんです。レオナルド・ダ・ヴィンチの絵も漫画の絵もそうなんですけど、ちば先生の絵は生気があるでしょ。
ちば そうですか、うれしいね。
和田 紙の上に描かれたものなのに、そこから生気が出てくるのって、僕はすごい不思議で。実在するというか。なんかね、こっちに来てくれるとかしゃべりかけてくれそうとか、エネルギーに満ちてるとか、そういう感じがやっぱり漫画にはあるんですよね。
ちば ありがたいですね。
和田 ちば先生は、もともとは都会の人でしたよね。
ちば (戦後)日本へ引き揚げてきてからは下町ですけども、まあ、東京でしたね。
和田 今は練馬にいらっしゃいますが、ちば先生は下町の雰囲気がありまして。僕も関西人なので、なんだか似たところを感じます。
3.「絵を描くのは脳にいい。画家は総じて長生き」86歳・ちばてつや、元気の理由

和田 ちば先生は2024年、文化勲章を受章されました。遅ればせながら、おめでとうございます。
ちば ありがとうございます。ちょっとびっくりしましたね。もっとふさわしい人がたくさんいますから。
和田 漫画家では初めてです。
ちば みんなね、亡くなっちゃったから。漫画家は無理するんでね、締め切りに追われて。体力的にね、みんなまいっちゃうんですよ。
和田 そんななかで、ちば先生が受賞されたことは、やはり意味のあることだと思いますよ。
ちば 漫画っていうのはね、やっぱり素晴らしい文化だと思います。それは私じゃなくて、先輩たちにね、素晴らしい漫画家たちがいたんです、たくさん。後輩たちにも『ドラえもん』や『ドラゴンボール』、『ワンピース』とか、世界中で日本の漫画がおもしろいと評価された。漫画だけじゃなくアニメーションとかゲームとか、いろんなものがね。
和田 どれも漫画から発生したものと言えます。
ちば 日本では漫画は日常の中に当たり前のようにあるけど、海外では日本の漫画は本当に芸術だって言ってくれる人もいて。それこそ葛飾北斎とか、あの時代からずっと素晴らしい先輩がいて、素晴らしい仲間がいて、素晴らしい後輩がいたからですよ。
4.“人にはいい面も悪い面もある”と気づくと、少し人間関係が楽になる。

和田 対談2回目で、ちば先生がお仲間の漫画家がみんな亡くなったと話されました。じつは医者も、平均寿命はあんまり長くないんですよ。
ちば そうですか。
和田 漫画家と同じで無理するからかもしれないんですけど。結局、検査データで異常があったり不調があったら治すってことをパタンパタンと対症的にやっているだけで、人間全体としてどうすれば元気で生きていけるかということをあんまり考えていない人が多くて。
ちば 部分部分を診ている。
和田 そうです、そうです。
ちば 悪い部分を一生懸命見つけようとする。体全体が元気ならそれでいいのに(笑)。
和田 おっしゃる通りです。
ちば なんか一生懸命に悪いとこを見つけてくれるんで、病気にされちゃうんですね。
和田 だから医者の言うことを聞くよりも、平均寿命を超えて活躍されている方がどういう生き方をされているかを聞くほうが、よっぽど世の中の人の参考になると僕は思っていて。
ちば ああ、それでこの連載なんですね。
和田 はい。もうだいぶ話をしてきて今さらなんですが(笑)。
ちば ああ、じゃあ健康の話をしなくちゃね(笑)。
5.清潔にしすぎると、免疫力が落ちる。

和田 対談の1回目で、若い頃に体を壊したけどキャッチボールをしたらよくなったとお聞きしました。すごく興味深い話なのでもう少し教えてください。
ちば ああ、若い頃に病気しましてね。もうこれは長くないなあ、このまんまこういう生活してたら30歳まで生きるかなあってね、思ったんですよ。
和田 それはよっぽどですね。
ちば 半分もう諦めてね、自分の人生を。漫画家は不健康な生活をしているからって。だけど、ちょっとキャッチボールしたら、すごく元気になった。アイデアも、悶々としてなかなか浮かばなかったのにスラスラ出てくるの。顔を描いても、イキイキとした顔になるんです。
和田 いいですね。
ちば なんだこれは? ああ、運動不足かって気がついてね。「漫画家は運動しなくちゃダメだよ」って言って、手塚治虫さんのところに行って「野球やりましょう」って声かけたり、あっちこっちに声かけ回ってね。
和田 かつての漫画家のイメージといえば、不健康生活と短命でしたもんね。
ちば そうね。
和田 タモリさんと赤塚不二夫さんがゴールデン街で知り合った話とかを聞いて、僕らは勝手に「漫画家の人たちは、締切に追われて働き詰めに働いたあと、一晩中酒を飲んでいるから寝る時間もない」なんて思っていましたから(笑)。
6.「目に光を感じると、セロトニンが増えて、気分も晴れるし頭も冴える。耳が遠いと認知症に」

和田 対談の5回目で清潔信仰の話をしましたが、マスクもそうですよね。コロナが終わっているのに、まだマスクをつけている。マスクって、なんか人をはねつけているようなイメージが僕にはあるんですけど。
ちば それはありますね。
和田 僕はとくに精神科ですから、患者さんの顔が見えないと、表情もわからないし、治療がしづらいんですよ。
ちば 困りますね。
和田 それと、医者が笑顔を見せることで患者さんの気分が楽になることもあるんです。
ちば ああ、なるほど。
和田 患者さんの顔を見ないで電子カルテばかり見ている医者がいると問題視されました。でも今は、マスクで顔が見えないのが当たり前になっています。こんな医療はやっぱり間違っていますよ。だってね、もしちば先生が「この漫画の登場人物には全員マスクを着けてください」となったら、どうしますか。
ちば つい最近ね、私それを経験したんです(笑)。
和田 え、そうなんですか?
7.「血圧はちょい高めがいい! タンパク質は血管を丈夫にする」

和田 ちば先生は外に出るのは好きなほうですか。
ちば そうですね。長い間ひきこもっているとまいっちゃう。すぐうつっぽくなるんですよ。だから、できるだけ日に当たりたいんです。
和田 それはいいですね。
ちば 意識して表へ出るようにします。天気がよければとくにね。お日様に当たる、自然の中に身を置くことは意識していますけど、雨が降ったら降ったで。それはそれで楽しい。
和田 晴耕雨読じゃないけど、自然に任せ、無理しないのが一番です。できること、やりたいことを気の向くままに。
ちば 自然に任せるのね。和田先生は肌がつやつやですね。やっぱり自然に任せて?
和田 おいしく食べる。ちば先生と同じで、なんでもおいしく食べますね。
ちば 雑食ですか(笑)。
和田 はい。一応、雑食を心がけています。それでも、タンパク質はたくさん取ろうと意識していますね。

