『あしたのジョー』の作者であり、86歳の今も連載を続けるレジェンド漫画家・ちばてつや。高齢者医療の専門家で、『80歳の壁』著者・和田秀樹。“長生きの真意”に迫る連載、ちばてつや編4回目。

1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。
病院に行くと病気にされる
和田 対談2回目で、ちば先生がお仲間の漫画家がみんな亡くなったと話されました。じつは医者も、平均寿命はあんまり長くないんですよ。
ちば そうですか。
和田 漫画家と同じで無理するからかもしれないんですけど。結局、検査データで異常があったり不調があったら治すってことをパタンパタンと対症的にやっているだけで、人間全体としてどうすれば元気で生きていけるかということをあんまり考えていない人が多くて。
ちば 部分部分を診ている。
和田 そうです、そうです。
ちば 悪い部分を一生懸命見つけようとする。体全体が元気ならそれでいいのに(笑)。
和田 おっしゃる通りです。
ちば なんか一生懸命に悪いとこを見つけてくれるんで、病気にされちゃうんですね。
和田 だから医者の言うことを聞くよりも、平均寿命を超えて活躍されている方がどういう生き方をされているかを聞くほうが、よっぽど世の中の人の参考になると僕は思っていて。
ちば ああ、それでこの連載なんですね。
和田 はい。もうだいぶ話をしてきて今さらなんですが(笑)。
ちば ああ、じゃあ健康の話をしなくちゃね(笑)。

漫画家。1939年東京都生まれ、満州育ち。1956年にデビュー。2024年に菊地寛賞受賞、同年文化勲章を受章。主な作品に『ハリスの旋風』『あしたのジョー』『おれは鉄兵』『あした天気になあれ』など多数。現在もビッグコミックにて『ひねもすのたり日記』を連載中。
生きるなら、イキイキと生きたい
和田 2024年に、コロナにかかったとお聞きしました。
ちば そうですね。ただちょっと熱が出たぐらいでね、私の場合は。人によってはつらい後遺症が残ったりするみたいだけど。
和田 そうですね。ちば先生は免疫が強いんですよ。免疫が強い人は、風邪とかコロナにかかっても軽くて済むんです。
ちば ああ、免疫ですね。
和田 先日、この連載で免疫学者と対談したんです。奥村康さんという83歳の医師です。その先生がおっしゃるには、免疫力は「NK細胞」という免疫細胞が影響していると。
ちば そうですか。NK細胞。
和田 NK細胞が活発に働いている人は元気で病気にも強く、長生きもするらしいんです。100歳を超えても現役で医者をやっていた日野原重明のNK細胞を測ったら、やっぱり……。
ちば たくさんあった?
和田 はい。たくさんあったというよりは、その細胞が活性化していた。細胞が活発に働いているということです。
ちば ああ、イキイキとね。
和田 はい。だから、年を取っているからダメなんじゃなくて、年を取って免疫細胞が弱るからダメなんです。つまり病気やウイルスに負けちゃうとか、早死にしてしまう人は、免疫のNK細胞の活性が落ちているというわけです。
ちば NK細胞を活発にするにはどうしたらいいんですか?
和田 栄養と運動、それと気持ちです。ストレスはNK細胞を弱める。いろんなこと我慢しているとNK細胞の活性が落ちちゃうんですね。イヤな人間関係もNKを落とします。
ちば そうなんですね。
和田 それと奥村先生が言うには、愛する者との別れが大きいと。奥さんが亡くなったとか、ペットが死んじゃったとか。
ちば ペットロス。やっぱりがっくりきたりなんかするとね。
和田 はい。ガクッとNK細胞の活性が下がっちゃうらしいんですね。反対に、笑うとNK細胞の活性が上がるそうです。
ちば そうですか。
和田 あと、おいしいなと思ってご飯を食べているとNK細胞の活性は上がる。
ちば ああ、じゃあ体のために我慢しようとかはよくないのね。おいしいもので、栄養があって、自分が好きなものを食べる。
和田 そうです、そうです。
ちば 和田先生と養老孟司先生の対談を読んだことがあるんですよ。そこにね、年を取ったら嫌いなことはするな、嫌いな人に会うなって書いてあったけど、今のお話だなあ。
和田 おっしゃる通りです。だって養老先生はもう、とにかく自分が生きたいように生きるんだと、今でも昆虫を採りにカンボジアとかの結構怖い場所にも出かけていきますから。ダメだって言われても平気でタバコをスパスパ吸っているし(笑)。
ちば そうですか。
和田 でも、やっぱりそういう生き方のほうがいいですよね。医者に言われた通りに、食べたいものを食べず、やりたいことを我慢しても、本当に長生きできるかはわからない。免疫の活性は落ちて、病気になりやすくなるわけですから。
ちば そうですね。せっかく生きてるんだったら、イキイキと生きたいですよね。

いい面と悪い面を認めると楽になる
和田 対談1回目で、漫画のキャラクターづくりの話をお聞きしました。人物の背景を汲むと悪い人を描けなくなるという、すごくいいお話で。ふだんの人間関係にも当てはまりますね。
ちば 本当にね、今まで付き合った人、みんなそうですよね。「こいつは気に入らない、なんか難しいやつだなあ」と思うんだけど、よく話してみるとそいつの言っていることは「なるほど、だからそういうふうに思うのか」って、よくわかるんですよね。みんなクセはあるし、そのクセが合わなかったりすることはあるけどね。みんな欠点を持っているし、長所も持っているし、本当に人間っていうのは面白いなと思いますね。
和田 僕は精神科の医者ですが患者さんによく話すんです。「相手にはいい面も悪い面もある」ということに気づくと、少し人間関係が楽になりますよ、って。ちば先生のように、人のことを多面的に見られると、人間関係のストレスが減るんじゃないですか。
ちば そうですね。ちょっと話し込むとだいたいわかるんですよね。「あ、この人はこういう性格なんだろうなあ。こういうところはちょっと短気だけど、こういうところは長所なんだろうな」って。そういうのが見えてくるので、仲良くなれちゃう。
和田 いいですね。
ちば だから人との関係で、プレッシャーとかストレスを、あんまり感じたことがない。
和田 素晴らしいです。人間関係はNK細胞の活性を下げてしまう大きな要因なんです。
ちば そうですか。
和田 夫婦でも、夫が定年退職してずっと二人きりになると、悪いところばかりを見ちゃう人がいます。本当はいいところもたくさんあるはずなんだけど。
ちば なんかね、人のお話を聞くとそういうことがあるみたいですね。嫌いになると、いいところまで嫌いになってしまう。
和田 そうですね。悪循環。
ちば どんどん悪いふうに回ってしまう。そうなってしまう人もいるんだろうけど、そうならないほうがいいね。
和田 ちば先生、やっぱり優しいですね。
ちば NK細胞でしたっけ? それを増やすためにも(笑)。
和田 もう本当に素晴らしい。やっぱりそういう暮らし方、考え方をしているから長生きできるんでしょうね。
※5回目に続く