元気に長生きしたければ「免疫力」を上げること。そのためには“不良老人”で生きること。免疫細胞のひとつ、NK細胞を発見し、83歳の今も免疫研究を最先端でリードする奥村康さんと高齢医学の専門家・和田秀樹さん。医学の常識を疑い、真実に斬りこむふたりの仰天・医学対談!『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。

“不良老人”であれ
和田 お久しぶりです。いつお会いしてもお元気そうで(笑)。
奥村 あなたもね(笑)。
和田 今回はこの連載のテーマでもあるんですけど、ただ長生きするだけじゃなく、元気でイキイキ生きる秘訣のようなものをうかがいたいと思いまして。
奥村 それは大事ですよね。
和田 お医者さんって、検査データは重視するけど、元気かどうかはあんまり考えない。
奥村 でしょうね。
和田 僕はたくさんの高齢者を診て実感もしてるんですが、奥村先生の話をお聞きしたりもして、元気に生きるには、やっぱり免疫が大事だなと。
奥村 うん。
和田 日本はがんで死ぬ人が多いんだから、検査データを正常にするためにいろんなことを我慢するんじゃなく、免疫力、とくにNK細胞の活性を上げるほうがよっぽどいいんじゃないかと思うようになったんです。
奥村 そのとおりです。例えば、聖路加の日野原重明先生は105歳まで生きたんですが、100歳の時にNK細胞がどれくらい活性してるかを測らせてもらったんです。そしたらとても高かった。で、先生の同級生も調べさせてくださいとお願いしたら「もうみんな死んでる」と。
和田 NK活性の高い人しか長生きしてないんですね。
奥村 そう。NK活性の低い人たちは早くに亡くなってしまう。つまりNKを高くしとけば、長生きするってことです。
和田 なるほど。
奥村 NKを高くするには非常にメンタルなことが大事で。それは和田さんの専門分野になるんだけどね。NKっていうのはメンタルなことで上がったり下がったりしますからね。
和田 本当にそう思います。
奥村 日野原先生なんか、まさにメンタルに確固たるものがありましたね。100歳の時に講演を頼みに行ったらね、手帳をめくって「奥村君わかった。来年なら大丈夫だよ」って。5年分くらい書ける手帳の3〜4年先までびっしり日程が埋まってるんですよ。私が驚いたら「ここまで生きるって決めとくんだよ、君」って。やっぱり自分で生きると決めるのが大事なんです。心の持ち方なんですよ。
和田 だけど奥村先生も、この大学の特性なのかもしれませんが、もうずっと現役でいらっしゃるんですよね。
奥村 そう。やっぱりそれはね、お金ですよ(笑)。お金にたとえるとわかりやすいんです。
お金の計算が長生きの秘訣
奥村 脳みその神経細胞はね、高校を卒業する頃には5000〜7000億あると言われてるんです。つまり7000億円の財産があるんだけど、その後は減る一方。免疫の細胞は減らないけど、脳細胞は減るばかり。何もしなくても、1日20万円ずつ減っていく。そして、水割り1杯飲むとさらに20万円。10杯飲むと200万円減る。
和田 じゃあ僕はずいぶん減ってます(笑)。
奥村 脳神経細胞はそうやって毎日減っていくんだけど、なぜ我々がこうやってコミュニケーションできるかっていうとね、神経と神経がそれぞれ突起を出して、網の目状のネットワークを作っているからです。そこを電気が通っていて、網の目が濃いほど脳の働きはよくなる。
和田 脳神経細胞は毎日減っても、網の目が濃いと、他の網の目とつながっていく。
奥村 例えば、時々人の名前忘れるでしょ。それは網の目が一部、不通になるからです。だけどジーッと考えると思いだすのは、他のネットワークとつながるんです。網の目が濃いとつながりやすい。だから濃いことがすごく大事なことなんです。
和田 ネットワークを濃くするには、刺激を与えるといい?
奥村 そう。怒らせたり笑わせたりいろんな刺激を与え続けると、いつまでも網の目が濃いのでぼけにくいわけですよ。で、その刺激は「読み」も「書き」も大事なんだけど、「そろばん」が一番。つまりお金のことを考えるのが一番の刺激なんです。
和田 なるほど。
奥村 国会議員は年寄りでもぼけないでしょ。朝から晩までお金のことばかり考えてるからですよ。例え話だけどね(笑)。
和田 (笑)。それとやはり、網の目のつなぎは、しっかりついてないとダメですよね?
奥村 おっしゃるとおりです。きちっとくっつけるのに割といいのがニコチン。意外だろうけど、それはよくわかってるんです。
和田 タバコですね。
奥村 僕がよく講演で話すのは「親にぼけてほしくなかったら、明日銀行に行ってお金を借りてタバコ吸わせたらいい。タバコ吸ってる人にぼけた人はいないから」と。あ、僕はタバコは吸わないんだけどね(笑)。
和田 お金に関して言えば、日本人って、お金を貯める割に、使う作業をしませんよね。僕はこれも大きな問題だと思ってます。貯める時より使う時のほうが頭を使うわけですから。何に使おう、それにはどうやってお金の算段しようかと考える。それは脳への大きな刺激となる。
奥村 確かにそうですね。
和田 お年寄りは、どんどん使ったほうがいいんです。でも、貯まったことに安心して、使おうとしない。子供に残そうとする。それはやはり、ぼけやすい生き方だと思いますよ。
奥村 お金とタバコね。それにお酒もそう。お酒も飲んだらいいんですよ。
和田 免疫力が上がる。メンタルが強く影響しますからね。
※2回目に続く

精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
奥村康/Ko Okumura(右)
順天堂大学医学部 免疫学特任教授。1942年島根県生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。サプレッサーT細胞の発見者であり免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞などの受賞歴がある。著書に『”健康常識”はウソだらけ 免疫力アップがすべてのポイント!』他。