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2025.01.13

Jリーグ、Bリーグ、大学理事長…88歳川淵三郎。衰え知らずの活力の秘訣は前頭葉!?【精神科医・和田秀樹が分析】

現在の日本サッカーの隆盛はこの人の存在あってこそ。Jリーグの初代チェアマンであり、今もなお多様な“スポーツ改革”に邁進する川淵三郎氏。同じく“高齢者の医療・生き方改革”に励む和田秀樹氏。両者を突き動かすエネルギーの源泉とは。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。

談笑する和田秀樹氏と川淵三郎氏

自分の年齢は考えない

和田 川淵さんはサッカーだけじゃなく、バスケットのBリーグも成功させ、さらには東京都の教育改革も推し進めた方です。初対面ですが、やっぱりすごいエネルギーを感じます(笑)。

川淵 ゴルフ場でもね、キャディさんに年を聞かれ「88」と答えると、びっくりされる。その時に「そうか。僕は88だったんだ」と自覚する(笑)。日頃は年なんて気にしてないから。

和田 お元気な証拠です。

川淵 50、60代の時は80代の自分なんて想像もしなかった。だから今、こうして元気に生きていることを「もうけた人生だ」と思える。僕自身は「もういつコロッと逝ってもいい。後悔はない」と思ってます。女房ともよく「ピンピンコロリで逝きたいね」なんて話すんだけど、娘の前でそんな話をすると娘が本気で怒るので、絶対に話せない。年齢を重ね、「うまく死にたい。長患いはしたくない」と思うようになりました。

和田 生命は、遺伝的なことも含めて、期間は限られています。残念ながらそれは回避できない。認知症なんかも老化現象ですから、回避はできない。だけど、遅らせることはできるんです。

川淵 なるほど。

和田 80歳でなるよりは85、90歳でなるほうがいい。遅いほうがいいに決まってますよね。

川淵 そうですね。

和田 歩けなくなったり、動けなくなったりするのも同じです。80歳より90、100歳まで動けたらいいと誰もが思ってる。それにはやはり、ずっと現役でいることが大事なんです。頭を使い続けたり、動き続けたりすることで老化は遅らせることができるんです。

新たな挑戦で脳を活性化

川淵 71歳でサッカー協会の会長を退き、「これで楽になるぞ」と思ったんだけど、その後のほうがずっと忙しかった。猪瀬直樹さんの選挙対策委員長、首都大学東京(現、東京都立大学)の理事長、Bリーグの設立など、あれこれ頼まれて、そのおかげで、面白い人生になりました(笑)。

和田 休む間もない。

川淵 幸いにも、常に新しい刺激をもらい、世間との関わりを持ち続けることができた。頭も身体もフル回転です。

和田 脳が活性化する好条件が揃いましたね。「脳を使い続ける状況だったこと」や「新しい刺激が次々と生じたこと」です。これによって、前頭葉が活性化した。前頭葉は「人間らしさ」を司る脳とも言われます。

川淵 なるほど。

和田 前頭葉は想定外なことに対応します。例えば、転職とか引っ越しとか、新たな刺激があると活性化し、発達する。これは人間だけのものなんです。ところが日本人は、前頭葉を使わない生き方をしている人が多いんです。

川淵 そうなんですか。

和田 学校でも会社でも“前例踏襲型”の人間が評価されるでしょ。テストの点がよく、先生の言いつけを守る子が優秀とされる。社会に出てもそうです。川淵さんのように新しくJリーグ始めようとか、壁を突き破って進もうという人は少ない。

川淵 ああ、そうか。だったら僕の前頭葉は活性化してるかもしれないね。新しいことばかりやってきたわけだから(笑)。

和田 でしょうね(笑)。

川淵 だけど、大丈夫かなって時もありましたよ。サッカー協会の会長を退いた後、講演やインタビューで喋るスピードがガタ落ちしたり、言葉が出にくくなったりしたのを自覚した。「このままじゃボケちゃうんじゃないか」と危機感を持ったんです。ちょうどそんな時に、石原慎太郎さんから「東京都の教育委員になってほしい」と言われ、「ぜひやらせてほしい」と即答しました。

和田 思いきりがいい。

川淵 経験のないことは、やってみたくなるんですよ。

和田 実験的な人生ですね。

川淵 幸か不幸か、その年は教科書認定の年に当たっていて、段ボール5箱の教科書が送られてきました。全部は読めないけど、興味のある日本史、英語、数学の教科書を読み、意見を言った。その時には喋るスピードが戻ってましたよ。やっぱり脳は使わなきゃダメだね。

和田 さすがです。

常識は疑ってかかれ

川淵 「首都大学東京の理事長になってくれ」と言われた時も、喜んで引き受けました。着任前の準備期間に、2年分の理事会の議事録を読みこみました。理事長になってから「これは何?」と聞くのも恥だと思ったから、一生懸命に勉強したんです。

和田 素晴らしい。

川淵 しかも大学院や専門学校の理事長も兼ねていましたので、入学式や卒業式では3通りの挨拶をしなきゃならない。これも自分で原稿を書いて覚えました。また勉強するわけです。

和田 どんどん頭がよくなる。

川淵 例えば「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という有名な言葉を使おうとしたんだけど、疑問が湧いた。言葉どおりなら、「病気や障がいのある人は健全な精神が宿らない」ってことになるわけだから。それで、調べてみたら、古代ローマの詩人ユウェナリスは「健全な精神が健全な身体の中にあるようにと願われるべきである」と言ったそうなんです。つまり間違ったまま覚えてることって多いんですよ。改めて、学ぶことの大事さを知りましたね。

和田 現代人は情報を鵜呑みにしすぎですよね。それが日本人の老化をさらに進めている気がします。

和田秀樹氏と川淵三郎氏
和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

川淵三郎/Saburo Kawabuchi(左)
日本トップリーグ連携機構 会長。1936年大阪府生まれ。早稲田大学サッカー部を経て1961年より古河電工サッカー部でプレイ。1970年に現役引退。1991年にJリーグ初代チェアマンに就任。2002年に日本サッカー協会会長に就任。現在は相談役。著書に『独裁力』(幻冬舎)ほかがある。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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