PERSON

2025.01.14

「元気に長生きするポイントは、興味・好奇心・意欲をどう保つか」88歳川淵三郎×精神科医・和田秀樹対談②

Jリーグの初代チェアマンであり、今もなお多様な“スポーツ改革”に邁進する川淵三郎氏。同じく“高齢者の医療・生き方改革”に励む和田秀樹氏。両者を突き動かすエネルギーの源泉とは。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。川淵三郎対談2回目。

学校の名前を元に戻す

和田 川淵さんが理事長を務めた「首都大学東京」って、東京都立大学のことですか?

川淵 そうです。わかりづらいですよね。一時期「首都大学東京」となりました。だけど、僕もこの学校名には異論がありましてね。それで動いた。今は東京都立大学に戻っています。

和田 そうだったんですね。

川淵 学生に「学校に対する要望」を書いてもらったら、半数以上が「名前を都立大に戻してほしい」というものでした。一番のインパクトは、スーパーで接客をするアルバイトの学生が「君はどこの学生?」と聞かれ、「元都立大学の首都大学東京です」と答えた、という話を聞いたときです。

和田 自分の学校を堂々と言えないのは悲しいですからね。

川淵 歴史ある優秀な公立大学なのに、多くの学生が「首都大学って私立?」「新設校?」などと聞かれてしまう。学生は嫌だったと思いますよ。だから僕は任期を終えるときの挨拶で、職員や理事を前に「僕の遺言と思って聞いてください。都立大学の名に戻すよう知事と話すから絶対に実行してほしい」と伝え、小池都知事にお願いしました。小さな貢献ですけどね。

もっと伝統を重んじよ

和田 いや、大きな貢献ですよ。伝統を重んじることは大事ですから。日本の会社って、簡単に名前を変えるんですよね。外国の会社はM&Aでしょっちゅう乗っ取られたりしてもブランド名は変えないんですよ。

川淵 なるほど。

和田 ホテルがいい例です。マリオット、ヒルトン、シェラトン、ウェスティン。同じ会社が運営してるのにブランド名はそのままです。

川淵 ブランド名の価値をみんながわかってる。

和田 時間と努力を積み上げて勝ち得た“ブランド名”を簡単に捨ててしまう。これは本当にもったいないことです。日本製ブランドの信頼は、外国では根強いですからね。もっと名前にこだわっていいと思います。

川淵 建物もね。由緒ある建築物を日本は平気で建て替えちゃう。もったいないですよ。

和田 パリはもちろんだけど、ニューヨークでさえ、基本的な街並みは、あまり変わらない。

川淵 僕が古河電工に入ったとき、丸の内には赤レンガのビルがいっぱいあったんですよ。だけど今は東京駅しかない。残しておくべきだったと思いますね。

和田 新しいのも大事だけど、築き上げた伝統も大事にしたらいいと思いますけどね。

好奇心旺盛な人は若い

川淵 伝統とはちょっと違うんだけど、僕は新聞や本を読みながら「ああ、これは読めるけど書けないなあ」という漢字を見つけたら、書くようにしています。例えば「矍鑠(かくしゃく)」。よく見ると「ひとつという意味の隻の上に目が2つ。金の横に楽しい」とある。「独り(隻)で目がよく見えて、金があると楽しい」なんて覚えるんです。そんな楽しみ方もありますね。

和田 僕は精神科医なのに鬱病の「鬱」の字をすぐ忘れる(笑)。

川淵 そう言えば孫から「鬱の書き順わかる?」と聞かれたことがあります。「左の木からだろ」と答えたら「違う。真ん中の缶から書くんだよ」と言われて。ただ覚えるだけじゃなく、文字にまつわる話をするのも楽しいですよ。

和田 学びって、新しいことだけじゃなく、古いことも含めて、自分の興味が原動力になると思うんです。

川淵 仰る通りですね。

和田 年を取れば取るほど、経験知が増えるので、物事への感動は薄れてきます。さらに、脳の前頭葉も縮んでくるんです。その結果、最初に衰えるのが、興味・好奇心・意欲です。そこをどう保っていくか。これは元気に長生きするための大事なポイントだと思います。

川淵 「知識は絶えず磨かれ鍛えられ、そして育まれなければならない。怠れば衰退あるのみ」というドラッガーの言葉がありますが、確かに、興味を持つことで、新しい知識や知恵が増え、楽しいことも増えていく。それは、体を動かすことにもつながっていくと思うんですよ。

常に変化し続ける

和田 川淵さんは、常に新しい世界に飛び込んで、興味・好奇心・意欲を持ち続けてこられました。ところが多くの人は一定のところに安住しようとします。変化を嫌うんですね。あることを「正しい」と思ったら、それがずっと正しいとなる。

川淵 そうなんですよね。

和田 僕らの世界もそうで、いまだに多くの医者が「コレステロールが高いのはダメだ」と言ってる。本当はまったく逆なんです。調査した結果「コレステロールの高い人のほうが長生きしている」と明らかになったのに、昔に決めた基準を今も信じているんですよ。

川淵 塩分もそうでしょ?

和田 はい。最近では、熱中症ひとつとってみても「塩分は控えないほうがいい」と言われています。17ヵ国10万人を対象にした調査で「食塩の摂取量が1日10~15gの人は死亡率が低い」とわかった。なのに日本の基準は「7.5g」のまま変わっていません。卵とかも「いくつ食べてもいいよ」っていう話に変わったんですけど。

川淵 以前は女房に「卵は1日1個よ」と言われてたんだけど、今はもっと食べていいんだよね。

和田 そうなんです。世の中って、そうやって答えが変わっていくんですよ。だから僕は、やはりずっと現役でいないといけないと思うんです。

川淵 なるほど。

和田 答えは変わっているのに昔のまま留まっていたら"浦島太郎状態"になってしまう。

川淵 現役でいれば変化を肌で感じられる。だから変化し続けることができる。

和田 ところが、問題は今の子たちです。みんなスマホを持ってるから「新しい答え」を知ってるんです。でも、「新しい答えが正しいとは限らない」ということを知らない。

川淵 鵜呑みにしてしまうんだよね。

和田 そう。新しい答えを知っただけで満足してしまうんです。本当は「答えは変わることがある」とか「今の答えで満足したら進歩がない」ということがわかったうえで「次の答えを探す」ぐらいならいいのに。

川淵 そうですね。

和田 スポーツの世界のことを僕はよく知りませんが、勉強の世界は絶対そうだと思います。日本では東大を出てると優秀と思われてますが、それは18歳の時点での話です。その先も賢いとは限りません。サッカーでも野球でも、18歳でプロになり、それで満足してるような選手は、それ以上伸びないですよね。それと同じことだと思います。

川淵 大器晩成型もいますからね。若いうちは目立たなくても努力してグングン伸びていく選手がいますよ。

和田 そう考えると学歴や肩書きとかって、もう時代に合わないのかもしれませんね。その人の過去に対する評価なわけですから。それを外したうえで、どれだけ努力するかとか、伸びるか、というのが本当の価値だと僕は思いますけどね。

※3回目に続く

川淵三郎/Saburo Kawabuchi(左)
日本トップリーグ連携機構 会長。1936年大阪府生まれ。早稲田大学サッカー部を経て1961年より古河電工サッカー部でプレイ。1970年に現役引退。1991年にJリーグ初代チェアマンに就任。2002年に日本サッカー協会会長に就任。現在は相談役。著書に『独裁力』(幻冬舎)ほかがある。

和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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