アーハハッと元気な草野仁さんの笑い声に、撮影現場の全員が思わず笑顔に。お茶の間で愛され続ける“太陽のようなパワー”はどこから生まれるのか。東大の先輩・草野氏と後輩・和田秀樹氏が“人間のエネルギー”に迫る。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。
トレーニングを地道に続ける
和田 草野さんは知的な司会者の一方でマッチョのイメージがあります。こうして間近で対面してもスーツの上から筋骨隆々なのがわかります(笑)。
草野 いやいや(笑)。もうだいぶね。トレーニングも軽めにしていますから。
和田 毎日されるんですか。
草野 はい、毎日やります。
和田 どれくらいの量を?
草野 腹筋は一応200回やろうということで。
和田 すごい(笑)。
草野 あとは15キロのダンベルを持って、自分で工夫した「組み合わせ体操」を6種類くらいやっています。エアロバイクはできれば30分ぐらいはやりたいんですが、短めで終わる日も結構あります。有酸素運動をきっちりやらなきゃ、ということで。
和田 失礼ながら80歳の方のトレーニングとは思えない。
草野 以前と比べると、だいぶ軽めになりました。
和田 そもそも、なぜ筋トレをやり始めたんですか?
草野 50代後半くらいだったでしょうか。年齢とともに運動量が減っていくなかで、背中の皮を引っ張ってみると、ちょっと厚く取れるようになったんです。それで「運動しなきゃいけない」と思い、最初はジムに通ったんです。ところがジムの休館日と私の休日が合致すると行けない。それで最低限の機材を自宅に持ちこむことにしたんです。家ならやりたい時にできますからね。そこからだいぶ熱心にやって、結構、重たいものも含めてやっていたんですね。
和田 面白くなっちゃった?
草野 はい。ところが60歳を過ぎた頃でしたね。東京都知事の石原慎太郎さんにインタビューした際に「草野君、まだ重いのやってるのか?」と聞かれ、「やってますよ」と答えました。すると「おまえな、人間、60歳を過ぎたら血管がプチッといくぞ。重たいのはやめておけ」と言われたんです。それで「わかりました」と。
和田 そこから軽量化した?
草野 はい。別に大会に出て競ってるわけじゃありませんからね。そこから量も時間も軽めにして、ある程度必要なことはきっちりやろうと。
和田 やはり健康を意識されるんですか。
草野 高齢化すれば、筋力は落ちていきます。それによって、認知症も含め、心身にはいろんな問題が起きてきます。だから最低限のことぐらいはやっておきたいと思いまして。なるべく休まずに、コツコツやっています。
和田 いいですね。例えば普段はまったく運動せず、週1だけゴルフをする人がいます。もちろん何もしないよりはマシですが、本当は毎日歩いたりするほうがいい。立場上、外を歩けない人は、室内運動だけでもいい。急に動いて転倒し、骨折する人も多いんですよ。
草野 ですね。
和田 若い頃との違いは“運動溜め”ができるか、できないか。若者は週1でガッツリ運動し、他の日は何もしなくても平気です。だけど年をとったら、少量でも毎日やることが大事です。
草野 やりすぎはダメですか。
和田 やりすぎて危険、ということはありません。だけど見習える人と見習えない人がいます。草野さんはたぶん家系的にも丈夫な人です。だから腹筋を200回やっても大丈夫(笑)。でも、それを見習おうとしても、できない人は多いでしょうね。
結局は意欲の問題
和田 結局ね「運動をする」か「しない」かは、意欲があるかどうかなんですよ。僕は患者さんに「歩かないと歩けなくなりますよ」と言うんですね。すると「頑張ります」と口では言うものの、やらない人が多い。
草野 意欲の低下ですね。
和田 はい。一般的に、認知症は物忘れから始まると思われているけど、その前に意欲が低下して活動量が減る。草野さんは真逆ですね。今日、会った瞬間から意欲がみなぎってる(笑)。
草野 いやいや(笑)。私もね「今日は休みたい」と思うことはあるんですよ。でも、もともとが怠け者の体質なので、休むと続かなくなる。だからやり続ける。
和田 なるほど。でも、ダンベル15キロは楽じゃないですね。
草野 15キロは大きな負荷ではありません。あ、面白い話を思いだしました。浜口京子さんの家に取材に行った時に30キロのダンベルが置いてありましてね。オリンピアンですから軽々とやるのは当然としても、お母さんは「京子はね、困るのよ」と言うんです。「え、何が?」と聞くと「朝、カーテン開けてと言ったらカーテン引きちぎったことがある。しかも2回もよ」って(笑)。
習慣化するとやるようになる
和田 毎日やることは習慣化につながるんですね。習慣になると、やらないと気持ち悪くなる。例えば、夜にシャワーを浴びるのが習慣になっている人は、浴びないと気持ち悪くて寝られない。やらないと気持ち悪い状態をつくることは、とても大事です。いかに習慣をつけるか。
草野 仰るとおりです。
和田 例えば、子供に勉強させる時に一番賢いやり方は、学習習慣をつけることです。学習習慣がつくと、勉強しない日は頭が悪くなった気がする。強制的にやらせるのではなく、習慣化すれば自発的にやるようになるわけです。
草野 それはいいですね。
和田 はい。だけど、年をとってくると困ったことが起こります。せっかく身につけた習慣がポツリポツリと抜けてくるんですよ。だからやはり、草野さんが筋トレの習慣を貫いているのは、素晴らしいのです。