81歳でiPhoneのゲームアプリを開発し、“世界最高齢プログラマー”として各界が注目、政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さんと、『80歳の壁』著者・和田秀樹氏の対談ををまとめてお届け! ※2024年8月、9月掲載記事を再編。
1.世界最高齢プログラマーが、自分の頭で考えない日本人にズバリ物申す
和田 素敵なお召し物ですね。柄も色合いもきれいです。
若宮 「エクセルアート」って言うんです。私がデザインした柄を布にプリントしてもらうんです。このうちわもそうなんですよ。
和田 「エクセル」って表計算ソフトの?
若宮 そうです。縦横に線が引かれた表が、小さな箱を並べたように見えたんです。色を入れたら図柄になった。「これは面白い」と夢中になっちゃった(笑)。
和田 頭がやわらかい(笑)。
若宮 最初は「表計算ができないから、絵を描いて遊んでるんだ」とバカにされましたよ。私は何を言われてもまったく気にならないんですけどね。
和田 元気の秘訣ですね。
若宮 だって毎日が楽しいから。iPadを買った時も、最初にやったのがお琴の演奏でした。その時も「こんな素晴らしい道具をそんなことに使うなんて、もったいない」と言われて。だけど、道具って、自分の好きなように使うものですよね。
2.89歳のICTエバンジェリスト「少しはバイ菌も体に入れなきゃ」。清潔にしすぎるから免疫力が落ちる
和田 若宮さんは、健康に悪いことばかりしていると仰いますが、とてもお元気です。
若宮 おかげさまで今、すごく多忙なんです。だから生活が不規則で。寝る時間も起きる時間も毎日違います。食事も新幹線の中でコンビニのおにぎりを食べたり。ちゃんとしてないの。
和田 忙しいのが元気の秘訣?
若宮 そうかもしれませんね。私たちは戦争を潜り抜けてきたでしょ? 飢えずに生き延びた。だから、たいがいのことじゃ人間死なないって思っています。
和田 現代人は「体に悪いから食べない」などと言います。でも長生きしている80代90代の方は、人工甘味料や着色料などを使った体に悪い食品を食べてきました。農薬みたいな白い粉も振りかけられていましたよね(笑)。
若宮 DDTね。体に着いたシラミとかを退治する殺虫剤。あれは体に悪いわよね(笑)。
和田 それでも今元気で、長生きしている。世の中って、やっぱり理屈通りにいかないんですよ。
3.オードリー・タン絶賛! 89歳・エクセルアート創始者の若さの秘訣「失敗は大輪の朝顔を咲かせるための肥料」
和田 若宮さんは何でも面白がって意欲的にやりますが、拒絶してやれない人もいます。両者の違いは「心理的な壁」だろうと、私は思っています。
若宮 心理的な壁?
和田 はい。例えば、100m走のタイムが10秒を切るまではすごく長い時間がかかりましたよね。でも9秒9が出た途端、トントンと9秒5くらいまでいっちゃった。つまり「無理だ」と思った時点で、できなくなっているんです。
若宮 「できる」と思うと、壁を越えられる。
和田 僕は勉強法の本もたくさん書いていますが、「やってみよう」と実践する子は、伸びる可能性があります。でも、やってみる勇気のない子のほうが圧倒的に多いですね。
若宮 失敗するのが怖いのね。別に失敗したっていいのに。前金もらって仕事しているわけじゃないんだから(笑)。失敗は大輪の朝顔を咲かせるための肥料。私はそんなふうに思います。
和田 さすがですね。いつ頃からそういう考え方を?
若宮 子供の時からそうだったみたいですね。
4.和田秀樹「脱・“前頭葉バカ”に! 当たり前の情報を疑えるようになるべき」
若宮 脳の前頭葉って、中高年からでも鍛えられるんですか?
和田 鍛えられます。というか、これまで使ってないからみるみる賢くなりますよ。日本人のほとんどは、ニュースを見たら信じてしまう。与えられた情報を疑わないんです。
若宮 頭を使っていない?
和田 そうです。今の状況を変えようとしないでしょ。
若宮 そうなんです。
和田 その時点でもう前頭葉ノータリン。「前頭葉バカ」って僕は呼んでいるんですけど。
若宮 その通りですね。
和田 前頭葉バカの人が、前頭葉を使う習慣をつけると、当たり前の情報を疑えるようになります。例えば「民主党が政権を取ったらあの悪夢が再び」って論調を真に受けてしまう。でも国民の生活は、まず変わりませんよ。ただ一つだけ変わることは、官僚の腐敗堕落が減るんです。政権が変わったら悪いことをしていたのがバレちゃうから、まじめに働き出す。だから価値がある。どんなに野党がダメでも時々交代させないと、緊張感がなくてスタッフが腐るんです。
5.89歳世界最高齢プログラマーに見る。「なんでも面白がる」精神が脳を刺激し、元気に長生きできる
和田 僕は人の目とか、世間体とかをあまり気にしないんですが、若宮さんもそうですか?
若宮 そうかもしれませんね。終戦で一日にして価値観が180度変わる体験をしていますからね。誰かの言いなりになる愚かさや恐ろしさのようなものを知っているので。
和田 銀行員時代は、当時、なかなか取る人がいなかった有給休暇も積極的に取得したとお聞きしました。
若宮 はい。GWの間の飛び飛びの日なんて、取引先も休んでいるところが多くて、会社に行ってもたいして仕事がない。だから有給を取って海外旅行に行ったりしていました。そんなふうに早くからやりたい放題でしたね。誰かに迷惑をかけるわけじゃないし、別に問題ないと。ただ同僚の中には「話題になっちゃう」と心配してくれる人もいました。私はまったく平気でしたけど。
和田 さすがですね(笑)。
若宮 価値判断は、人それぞれですから。「誰かに何か言われるのを気にする」か、「自分のやりたいことをやる」か。どちらを重んじるかは、各人の価値観で決めることですから、他人がとやかくいう問題ではないと思っています。
6.“健康じゃないとダメ”は間違い! 老いを受け入れて、足りない部分をAIで補う
若宮 みんなね、健康第一って言います。だけど健康っていつかは失われるんです。そして健康が失われても、その人の人生は終わらないんです。だからそのへん、よく考えておいたほうがいいと思います。
和田 その通りですね。
若宮 先ほど、メロウ倶楽部の話をしましたが、倶楽部にも車いすから一歩も降りられない人や寝たきりの人がいます。だけど精神的には豊かな暮らしをしているんですね。だから、健康第一っていうのも、もちろん悪くはないけど、さっきの「健康のためなら死んでもいい」みたいな絶対的な価値をあまり持たせないほうがいいと、私は思いますね。
和田 本当にそうだと思います。人によって程度の差はありますが、老いは必ずやってきます。私は高齢者の専門医として、多数の患者さんを診ていますが、経験から言うと、いつまでも健康や若さにこだわって老いと闘い続けている人は、今を楽しめなくなってしまうんです。「昔はできたのに、今の自分は情けない」と敗北感や挫折感にとらわれてしまうんです。
若宮 それ、わかりますね。
和田 もちろん、老いと闘ってもいいんですよ。でも例えば、いよいよ老いが迫ってくる80代になったら、素直に老いを受け入れてしまったほうがいい。