PERSON

2024.08.31

和田秀樹「脱・“前頭葉バカ”に! 当たり前の情報を疑えるようになるべき」【世界最高齢のプログラマー・若宮正子対談④】

81歳の時にiPhoneのゲームアプリを開発して“世界最高齢プログラマー”として各界が注目。Apple社のCEOティム・クック氏や台湾のデジタル大臣だったオードリー・タン氏からも一目置かれる存在になった。政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さん。常識や世間の目に囚われないこの対談は「日本の壁」を切り崩す。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。4回目。

前頭葉は鍛えられる

若宮 脳の前頭葉って、中高年からでも鍛えられるんですか?

和田 鍛えられます。というか、これまで使ってないからみるみる賢くなりますよ。日本人のほとんどは、ニュースを見たら信じてしまう。与えられた情報を疑わないんです。

若宮 頭を使っていない?

和田 そうです。今の状況を変えようとしないでしょ。

若宮 そうなんです。

和田 その時点でもう前頭葉ノータリン。「前頭葉バカ」って僕は呼んでいるんですけど。

若宮 その通りですね。

和田 前頭葉バカの人が、前頭葉を使う習慣をつけると、当たり前の情報を疑えるようになります。例えば「民主党が政権を取ったらあの悪夢が再び」って論調を真に受けてしまう。でも国民の生活は、まず変わりませんよ。ただ一つだけ変わることは、官僚の腐敗堕落が減るんです。政権が変わったら悪いことをしていたのがバレちゃうから、まじめに働き出す。だから価値がある。どんなに野党がダメでも時々交代させないと、緊張感がなくてスタッフが腐るんです。

若宮 今、日本にも世界にも圧倒的なリーダーがいませんね。みんな普通の常識にちょっと専門知識が入ったような人ばかりで、本当にこれでいいのかな、って思うんです。歴史に残るような人が少なくなってきて。

和田 僕の思い込みかもしれませんが、日本人って最悪の環境から這い上がってくる時は強いんですね。でも今は「まあこんな感じでいいかな」と満足してしまっている。本当は満足なんてしていられないんですよ。だって東アジアでは、一人当たりの最低賃金もGDPもいちばん貧しい国になっているのに。

若宮 そうなんです。

和田 貧乏な人が貧乏を感じていないことは、大問題だと思いますね。ファストファッションやファストフードがあるため、そこそこの服を安く着られて、安く食べられるから、貧しいことに気づいていないんです。わからないように政治家や官僚が目を背けさせている。

若宮 確かにスケールの大きな人は、どん底から這い上がってきたような印象がありますね。

和田 若宮さんは戦争を経験されています。やはり辛い経験をされましたか?

若宮 私たちの年代はみんなそうでしょうね。終戦を境に価値観が180度変わったことに、私は怒りを覚えましたね。親は私が何を言っても相手にしてくれない。だから伯母に「どうして昨日までいけないと言われていたことが今日からよくなるのよ?」と食ってかかると「これ以上戦ったら日本はなくなっちゃうんだよ。もう負けたんだからアメリカさんの言う通りにしなきゃ」と言われ、私はそこで大人は信用できないと思いました。

和田 五木寛之さんも田原総一朗さんも、その時に大人は信用できないと思った人が、今も生き残っています。

若宮 パラダイムシフトなんていう生易しいものじゃなくて、みんな変わっちゃって。その経験があるから、自分の頭で考えるし、面白そうと思うことをやってみるのだと思います。

自分の年は気にしない

和田 来年で90歳ですが、どんな生活スタイルですか?

若宮 私、自分が今何歳かなんてこと、全然意識してないんです。食事もその時に食べたいものを食べますし。

和田 お忙しいでしょう?

若宮 去年は1年間で140回の講演がありました。地方が多いです。政府の委員もやっています。内閣府、デジタル庁、総務省など、各所から頼まれます。

和田 それじゃあ、自分の時間なんてないのでは?

若宮 はい。だから面白いことがあると、すぐやっちゃうんですね。それで性に合わないと思ったらすぐにやめる(笑)。

和田 最近の面白いことは?

若宮 旅行ですね。あんだけ旅行したんだから、もういいんじゃない、って言われるけど、やっぱり行きたい。夏にはピースボートの船内講師を10日間やります。講演会も原則断りません。地方の講演は旅行みたいで楽しいですね。いろんな地方の現状が知れて、本音も聞けるから勉強になりますよ。

和田 お金は何に使うことが多いのですか?

若宮 いただいたお金は、高齢者のITリテラシー向上の事業をやっている人や、いろいろなNPOなどに、どんどん注いでいます。

和田 素晴らしい。

若宮 私、相続する人がいないので。持ってるよりも今使っておいたほうがいいから。

和田 お仲間も多いのではありませんか?

若宮 私はメロウ倶楽部というインターネット上の老人倶楽部で30年活動しているんですね。会員は約300人。ウェブがない頃は電話回線を使ってやってました。そこによくわかってくれる友達がいて、私を見守ってくれているんです。

和田 心強いですね。

若宮 はい。なぜか私を見ていると、みんな見守りたくなっちゃうらしくて(笑)。かかりつけの病院の先生もそうで「なんかあったらすぐに言いなさい」と言ってくださる。先日も浜松医大の学長さんとお仕事をしたんですが、「病気で入院するようなことがあったら、少し遠いけど浜松まで来なさい」って。応援団になってくださるのです。私が頼りないからでしょうね(笑)。

和田 いえいえ、愛されるのは包容力があるからです。それとやはり、面白いことをして、人生を楽しんでいるからだと思いますよ。誰だってそうですが、文句ばっかり言っている人よりも楽しそうにしている人と一緒に居たいですからね。

※5回目に続く

和田秀樹氏と若宮正子さんの座りショット
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

若宮正子/Masako Wakamiya(右)
ICTエバンジェリスト。1935年東京都生まれ。高校卒業後、三菱銀行に就職、同行で女性初の管理職を務める。81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、世界最高齢のプログラマーに。現在、シニア世代向けの情報共有サイト「一般社団法人メロウ倶楽部」副会長。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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