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2024.08.30

オードリー・タン絶賛! 89歳・エクセルアート創始者の若さの秘訣「失敗は大輪の朝顔を咲かせるための肥料」【和田秀樹×若宮正子③】

81歳の時にiPhoneのゲームアプリを開発して“世界最高齢プログラマー”として各界が注目。Apple社のCEOティム・クック氏や台湾のデジタル大臣だったオードリー・タン氏からも一目置かれる存在になった。政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さん。常識や世間の目に囚われないこの対談は「日本の壁」を切り崩す。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。3回目。

チャレンジが脳を鍛える

和田 若宮さんは何でも面白がって意欲的にやりますが、拒絶してやれない人もいます。両者の違いは「心理的な壁」だろうと、私は思っています。

若宮 心理的な壁?

和田 はい。例えば、100m走のタイムが10秒を切るまではすごく長い時間がかかりましたよね。でも9秒9が出た途端、トントンと9秒5くらいまでいっちゃった。つまり「無理だ」と思った時点で、できなくなっているんです。

若宮 「できる」と思うと、壁を越えられる。

和田 僕は勉強法の本もたくさん書いていますが、「やってみよう」と実践する子は、伸びる可能性があります。でも、やってみる勇気のない子のほうが圧倒的に多いですね。

若宮 失敗するのが怖いのね。別に失敗したっていいのに。前金もらって仕事しているわけじゃないんだから(笑)。失敗は大輪の朝顔を咲かせるための肥料。私はそんなふうに思います。

和田 さすがですね。いつ頃からそういう考え方を?

若宮 子供の時からそうだったみたいですね。

和田 若さの秘訣ですね。年をとると、脳の前頭葉が衰えてくるとされています。前頭葉は、意欲やクリエイティブ、チャレンジする気持ちなども司る。高齢になると、意欲が低下する人がいますが、前頭葉の衰えも関係していると考えられます。でも、高齢者だけでなく、若者も含め、日本人全体の前頭葉が育っていないと思うんです。

若宮 前頭葉を使っていない?

和田 そうです。例えば、失敗するような実験をさせてもらってないんですよ。間違えて試料を多く入れてガチャーンとガラスが割れるとか。

若宮 そう! その通りです。失敗するから「じゃあ次はこうしよう」と考えて試すんです。でも「失敗したらダメ」って言われるし、そもそも最初から失敗する場を奪われてしまう。

和田 日本の教育には「意図的に失敗を経験させる」という視点が欠けていますよね。

若宮 先生に言われた通りのやり方しかしない。正解を求めちゃうんですね。

和田 手前みそなんですが、僕が受験の本をたくさん書くのは学生に実験してほしいからです。「手抜きのテクニックばかり教えて」と批判されるけど、真意はそうじゃなく「勉強法を変える」という実験をしてみてほしかったんです。学校では、先生の言う通りにする子が優秀とされるため、失敗する実験ができない。だから受験の時くらい実験してみなよと。

若宮 そうだったんですね。

和田 スパルタ式の塾出身の学生は、東大には入るんだけど、入ってから伸びない人が多くいます。反面、僕の通信教育を受けていた子たちは野心的ですよ。

若宮 私もエクセルで図柄をつくったら「マクロ関数ができないから絵を描いて塗りつぶしている」って笑われたんです。実験やチャレンジに消極的な受け止め方をするんです。

和田 その通りですね。

若宮 台湾のデジタル大臣オードリー・タンさんからは高く評価していただきました。オンラインでトークショーをやった時に「デジタルアートは成功例が少ないけど、あなたはすごい。世界最高齢のプログラマーとしてではなく、エクセルアートの創始者としてもっと高く評価されるべきだ」と言ってもらったんです。度量のある方だとわかりました。

天才の育つ環境

和田 結局、天才がやっていることを評価できる人って、天才しかいないんですよ。

若宮 私が天才なのかはわかりませんけど(笑)。

和田 天賦の才です。天才には運も必要だと思っています。

若宮 それはありますね。

和田 日本の大学の教授って、教授会の選挙で選ばれるから、だいたい無難でつまらない人がなる。だから天才を評価できないんです。

若宮 天才が育たない?

和田 そうです。天才は、天才を生むことはできないんだけど、天才を潰さないことはできるんです。「こいつは面白いから好きなことをやらせてみよう」と言えるんです。ところが凡人の教授には、その度量がない。自分の言うことを聞く人間だけを可愛がり、優れた人間を潰しにかかる。だから日本では、天才が育ちにくいんです。

若宮 私が幸運だったのは、銀行員時代の重役に度量のある方がいたことです。「この変なおばさんにやりたいことをやらせてみよう」と。「課長代理並みに給料はあげるから、好きなことをやりなさい」と言ってくださったんです。おかげで、定年まで勤めることができました。

和田 肚の座った人がいたんですね。認めてもらった若宮さんがもちろんすごいのですが。

若宮 高いお給料のおかげで、当時は高額だったパソコンを買うこともできた。だから今がある。幸運だと思いますね。

和田 この20~30年でちっちゃい人間が増えた気がします。医者の世界でも『ドクターX』が生まれない土壌があります。例えば、医学部の入試の仕組みも変わりました。面接で、教授が合否を決めるようになったんです。その結果、教授の言うことを聞く人間だけが医師になる。だけど昔から、すごい研究をしたり手術がうまい人は、少し変わり者に多いんですよ(笑)。

若宮 医学界にも天才は現れにくくなる?

和田 はい。この入試制度を改めない限り、日本の医学自体が進歩しないと思います。「おかしい」と思っている医者は結構いるんです。でも批判すると、自分の子が面接で落とされるから黙っているんです。

若宮 だけど、この先が心配になるわね。自分の考えを持たない人ばかり増えて、AIに仕事をとられてしまわないかと。

和田 仰る通りです。若宮さんのように、いくつになっても新しいスキルを身に付けていくチャレンジングな人は、やはり強いですよ。だから中高年、老年の教育って、これからの時代はとても大事だと思います。

若宮 私は独学ですが、なんでも面白がるし、失敗は自分の肥料だと思っていますから(笑)。

※4回目に続く

和田秀樹氏と若宮正子さんの座りショット
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

若宮正子/Masako Wakamiya(右)
ICTエバンジェリスト。1935年東京都生まれ。高校卒業後、三菱銀行に就職、同行で女性初の管理職を務める。81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、世界最高齢のプログラマーに。現在、シニア世代向けの情報共有サイト「一般社団法人メロウ倶楽部」副会長。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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