81歳の時にiPhoneのゲームアプリを開発して“世界最高齢プログラマー”として各界が注目。Apple社のCEOティム・クック氏や台湾のデジタル大臣だったオードリー・タン氏からも一目置かれる存在になった。政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さん。常識や世間の目に囚われないこの対談は「日本の壁」を切り崩す。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。2回目。
過保護が人間を弱くする
和田 若宮さんは、健康に悪いことばかりしていると仰いますが、とてもお元気です。
若宮 おかげさまで今、すごく多忙なんです。だから生活が不規則で。寝る時間も起きる時間も毎日違います。食事も新幹線の中でコンビニのおにぎりを食べたり。ちゃんとしてないの。
和田 忙しいのが元気の秘訣?
若宮 そうかもしれませんね。私たちは戦争を潜り抜けてきたでしょ? 飢えずに生き延びた。だから、たいがいのことじゃ人間死なないって思っています。
和田 現代人は「体に悪いから食べない」などと言います。でも長生きしている80代90代の方は、人工甘味料や着色料などを使った体に悪い食品を食べてきました。農薬みたいな白い粉も振りかけられていましたよね(笑)。
若宮 DDTね。体に着いたシラミとかを退治する殺虫剤。あれは体に悪いわよね(笑)。
和田 それでも今元気で、長生きしている。世の中って、やっぱり理屈通りにいかないんですよ。
若宮 戦後の食糧難の時には、アメリカからララ物質(救援物資)が入ってきました。脱脂粉乳です。輸入時に腐ってしまうものもあるんだけど、それを承知で飲むの。だけどお腹はこわさなかったですね。
和田 当時の貴重なタンパク源です。おかげで日本人の寿命は飛躍的に延びたんです。
若宮 今の若い人は賞味期限が切れていると捨てちゃうけれど、私は自分の鼻と舌を頼りに、変な臭いや味がしたらやめる。
和田 「清潔は病気だ」という考え方があります。清潔にしすぎるから免疫力が落ちる、と。
若宮 それ、わかります。
和田 この前もテレビで劇症型溶連菌感染が流行していると言っていて、どこかの専門家が「コロナの時と違って油断しているからだ」と、頓珍漢なコメントをしていました。でも、コロナの前は、もっと油断していたんですよ。それなのに流行していない。マスクもしないし消毒もしなかったわけだから。だから原因は明らかだと思います。除菌・防菌のし過ぎで免疫力が弱まったんです。
若宮 過保護すぎると人間は弱くなりますからね。
和田 おまけにコロナでは、外に出るなと言ったせいで、高齢者の体力が一気に落ちた。認知症になる人も増えたんです。
若宮 やはり、いろんな空気を吸って、少しはバイ菌も体に入れなきゃね(笑)。
和田 さすが若宮さん。考え方が強いです(笑)。
面白そうなことをやる
和田 若宮さんは、チャレンジングな生き方をされています。
若宮 私、チャレンジしているって意識はないのよ。ただ面白そうだからやってみたいって。
和田 面白そうだから動く?
若宮 そう。この頃はAIが進歩して世の中が便利になりました。でも私の同年代は「そんな難しいことはできない」という人もいます。今のAIは普通の話し言葉も理解してくれるから便利なのに、難しいって思い込んで、尻込みしちゃうのね。
和田 決めつけが強いんですね。とくに高齢の男性はその傾向が強いです。パソコンはいじれるのにスマホはダメとか。
若宮 私もパソコンのほうが使いやすいです。いいとこ取りして使えばいいんですよ。
和田 僕もガラケーを併用しています。防犯にもいいらしい。デコボコがあるから、ポケットに入れたままSOSを打てる。
若宮 パソコンもスマホも道具ですから、自分が使いたいように使うのがいちばんですよ。
和田 日本人は「これはよい、これはダメ」という世間の決めつけに同調してしまうんです。「私はこれがいいのだ」と主張すればいいのに。
若宮 私も家ではパソコン、外ではスマホです。外出時にメールの返事をするときは簡潔に済ませます。「イエス」「ノー」だけのこともあります(笑)。
和田 高齢の方はよく「世間の進歩についていけない」と言いますが、それも思い込みです。世の中は人々が便利になるように進歩していくわけですから。
若宮 そうなんです。例えば、翻訳ソフトもずいぶん精度が上がっているでしょ? それを面白がって使えばいいんですよ。
和田 便利に使うんですね。
若宮 そう。私が「hinadan」(ひな壇)というアプリを公開した時に、たまたま朝日新聞が記事にしてくれたんです。そしたらCNNからメールが来ました。私、少しは英語ができるけど、いちいち翻訳するのは面倒だからGoogle翻訳で日本語にして、返事もGoogle翻訳で英文にして送り返したんです。何回かやり取りがあって、最後に「この3つの質問にすぐに答えてくれたら明日のニュースに出す」って言われたの。Google翻訳で英文にして、すぐに送ったら本当にCNNに出ちゃった。そこからですよ、私の生活が急に慌ただしくなり始めたのは。
和田 ギリシャの諺だったかな。「幸運の女神は前髪しかない」とありますが、目の前に現れた機会を逃さなかったんですね。
若宮 幸運かどうかわからないけど。先方が急いでいたから合わせただけです。私の友だちは「英単語の綴りは間違ってなかったの?」とか心配していたけど「もし間違っていても、向こうが直してくれるよ」って(笑)。細かいことは気にしないの。細かいことは、それほど大事じゃないんですよ。
和田 仰る通りですね。僕もアメリカに留学している割には英語が下手なんです。でも留学してよかったと思うのは、下手な英語でしゃべっても恥ずかしくなくなったことです。アメリカには僕より下手な人がいっぱいいましたから(笑)。
若宮 本当にそうね。銀行に勤めていた時に、英語で電話がかかってくると「若宮に回せ」って私にお呼びがかかるの。私、英語塾に通っていましたからね。するとみんなが聞き耳立てて、聞いている。で、後から「あの発音は違う」とか「文法が違っていた」って言う人がいるのよ。評論家なのよね。自分はやりもしないで、やった人をあれこれ言う。
和田 それはありますね。日本では評論家のほうが偉いんです。後出しジャンケンで勝つみたいなもんですよ。
※3回目に続く