MAGAZINE &
SALON MEMBERMAGAZINE &
SALON MEMBER
仕事が楽しければ
人生も愉しい

PERSON

2024.08.29

89歳のICTエバンジェリスト「少しはバイ菌も体に入れなきゃ」。清潔にしすぎるから免疫力が落ちる【和田秀樹×若宮正子②】

81歳の時にiPhoneのゲームアプリを開発して“世界最高齢プログラマー”として各界が注目。Apple社のCEOティム・クック氏や台湾のデジタル大臣だったオードリー・タン氏からも一目置かれる存在になった。政府の会議でもズバリ物申す若宮正子さん。常識や世間の目に囚われないこの対談は「日本の壁」を切り崩す。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。2回目。

過保護が人間を弱くする

和田 若宮さんは、健康に悪いことばかりしていると仰いますが、とてもお元気です。

若宮 おかげさまで今、すごく多忙なんです。だから生活が不規則で。寝る時間も起きる時間も毎日違います。食事も新幹線の中でコンビニのおにぎりを食べたり。ちゃんとしてないの。

和田 忙しいのが元気の秘訣?

若宮 そうかもしれませんね。私たちは戦争を潜り抜けてきたでしょ? 飢えずに生き延びた。だから、たいがいのことじゃ人間死なないって思っています。

和田 現代人は「体に悪いから食べない」などと言います。でも長生きしている80代90代の方は、人工甘味料や着色料などを使った体に悪い食品を食べてきました。農薬みたいな白い粉も振りかけられていましたよね(笑)。

若宮 DDTね。体に着いたシラミとかを退治する殺虫剤。あれは体に悪いわよね(笑)。

和田 それでも今元気で、長生きしている。世の中って、やっぱり理屈通りにいかないんですよ。

若宮 戦後の食糧難の時には、アメリカからララ物質(救援物資)が入ってきました。脱脂粉乳です。輸入時に腐ってしまうものもあるんだけど、それを承知で飲むの。だけどお腹はこわさなかったですね。

和田 当時の貴重なタンパク源です。おかげで日本人の寿命は飛躍的に延びたんです。

若宮 今の若い人は賞味期限が切れていると捨てちゃうけれど、私は自分の鼻と舌を頼りに、変な臭いや味がしたらやめる。

和田 「清潔は病気だ」という考え方があります。清潔にしすぎるから免疫力が落ちる、と。

若宮 それ、わかります。

和田 この前もテレビで劇症型溶連菌感染が流行していると言っていて、どこかの専門家が「コロナの時と違って油断しているからだ」と、頓珍漢なコメントをしていました。でも、コロナの前は、もっと油断していたんですよ。それなのに流行していない。マスクもしないし消毒もしなかったわけだから。だから原因は明らかだと思います。除菌・防菌のし過ぎで免疫力が弱まったんです。

若宮 過保護すぎると人間は弱くなりますからね。

和田 おまけにコロナでは、外に出るなと言ったせいで、高齢者の体力が一気に落ちた。認知症になる人も増えたんです。

若宮 やはり、いろんな空気を吸って、少しはバイ菌も体に入れなきゃね(笑)。

和田 さすが若宮さん。考え方が強いです(笑)。

面白そうなことをやる

和田 若宮さんは、チャレンジングな生き方をされています。

若宮 私、チャレンジしているって意識はないのよ。ただ面白そうだからやってみたいって。

和田 面白そうだから動く?

若宮 そう。この頃はAIが進歩して世の中が便利になりました。でも私の同年代は「そんな難しいことはできない」という人もいます。今のAIは普通の話し言葉も理解してくれるから便利なのに、難しいって思い込んで、尻込みしちゃうのね。

和田 決めつけが強いんですね。とくに高齢の男性はその傾向が強いです。パソコンはいじれるのにスマホはダメとか。

若宮 私もパソコンのほうが使いやすいです。いいとこ取りして使えばいいんですよ。

和田 僕もガラケーを併用しています。防犯にもいいらしい。デコボコがあるから、ポケットに入れたままSOSを打てる。

若宮 パソコンもスマホも道具ですから、自分が使いたいように使うのがいちばんですよ。

和田 日本人は「これはよい、これはダメ」という世間の決めつけに同調してしまうんです。「私はこれがいいのだ」と主張すればいいのに。

若宮 私も家ではパソコン、外ではスマホです。外出時にメールの返事をするときは簡潔に済ませます。「イエス」「ノー」だけのこともあります(笑)。

和田 高齢の方はよく「世間の進歩についていけない」と言いますが、それも思い込みです。世の中は人々が便利になるように進歩していくわけですから。

若宮 そうなんです。例えば、翻訳ソフトもずいぶん精度が上がっているでしょ? それを面白がって使えばいいんですよ。

和田 便利に使うんですね。

若宮 そう。私が「hinadan」(ひな壇)というアプリを公開した時に、たまたま朝日新聞が記事にしてくれたんです。そしたらCNNからメールが来ました。私、少しは英語ができるけど、いちいち翻訳するのは面倒だからGoogle翻訳で日本語にして、返事もGoogle翻訳で英文にして送り返したんです。何回かやり取りがあって、最後に「この3つの質問にすぐに答えてくれたら明日のニュースに出す」って言われたの。Google翻訳で英文にして、すぐに送ったら本当にCNNに出ちゃった。そこからですよ、私の生活が急に慌ただしくなり始めたのは。

和田 ギリシャの諺だったかな。「幸運の女神は前髪しかない」とありますが、目の前に現れた機会を逃さなかったんですね。

若宮 幸運かどうかわからないけど。先方が急いでいたから合わせただけです。私の友だちは「英単語の綴りは間違ってなかったの?」とか心配していたけど「もし間違っていても、向こうが直してくれるよ」って(笑)。細かいことは気にしないの。細かいことは、それほど大事じゃないんですよ。

和田 仰る通りですね。僕もアメリカに留学している割には英語が下手なんです。でも留学してよかったと思うのは、下手な英語でしゃべっても恥ずかしくなくなったことです。アメリカには僕より下手な人がいっぱいいましたから(笑)。

若宮 本当にそうね。銀行に勤めていた時に、英語で電話がかかってくると「若宮に回せ」って私にお呼びがかかるの。私、英語塾に通っていましたからね。するとみんなが聞き耳立てて、聞いている。で、後から「あの発音は違う」とか「文法が違っていた」って言う人がいるのよ。評論家なのよね。自分はやりもしないで、やった人をあれこれ言う。

和田 それはありますね。日本では評論家のほうが偉いんです。後出しジャンケンで勝つみたいなもんですよ。

※3回目に続く

和田秀樹氏と若宮正子さんの座りショット
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

若宮正子/Masako Wakamiya(右)
ICTエバンジェリスト。1935年東京都生まれ。高校卒業後、三菱銀行に就職、同行で女性初の管理職を務める。81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、世界最高齢のプログラマーに。現在、シニア世代向けの情報共有サイト「一般社団法人メロウ倶楽部」副会長。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2024年10月号

人生を変える最強レッスン

GOETHE2024年10月号カバー

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2024年10月号

人生を変える最強レッスン

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ10月号』が2024年8月23日に発売となる。今回の特集は“人生を変える最強レッスン”。日常を鮮やかに彩る“大人の手習い”を紹介。表紙を飾るのは稲葉浩志。20Pにわたるボリュームで、彼が作りあげる作品の魅力に迫る。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる