投資歴70年目。資産20億円を築き、88歳の今も現役のデイトレーダーとして勝ち続ける藤本茂さん。「ボケてる暇なんてあらへんで」と笑う“日本のバフェット”の元気の素に迫ります。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。藤本茂さんとの対談2回目。
人間は思い通りにいかない
和田 「相場のことは相場に聞け」と藤本さんはおっしゃいます。「思うようにいかないこともある、それも人生」だと。名言ですね。
藤本 頭でどれだけ考えても、思い通りいくことなんてそうはありませんからね。でも、だから人生は面白いんちゃうかな。バブル崩壊で、私は10億円あった資産を2億円に減らしてしまった。せやけど、そもそもが貧農の出やねん。2億も残ったのだから御の字や。87歳になった今は資産が20億円まで増えました。毎月6億円の株を売買してるんやけど、勝ったり負けたりながら地道に増やしてきた。思い通りになんていかない。
和田 すばらしい教えですね。医者の悪い所って、人間が理屈通りに行くと思っている。そういう人が多い。「この薬飲んでたら病気にならない」とか「こんなことしてると病気になる」って言うけど、実際は理屈通りにいかないことのほうが多い。なのに、その理屈を押し通す。僕は何千人もの高齢患者さんを診てきたけど、同じやり方は通じません。各人の体の状態や生活、生き方に合わせるわけです。
藤本 型が違うからね。人間は一人一人違う。
和田 同じ薬を飲んで、元気になる人もいれば調子が悪くなる人もいる。効く人と効かない人がいる。人それぞれです。投資にも型があるんですね。
藤本 そう。私は銘柄を選ぶ際に「増収・増益・増配」を見ます。売り上げが増え、利益も増え、株主に配当が回っているか。要は「長期的に成長が見込めるか」を見るってことです。
和田 藤本さんの型ですね。
藤本 デイトレーダーには長期的な利益を気にしない人もいます。でも私はやはり、長期的に成長できる企業がいいと思いますね。どんな株も値上がりと値下がりを繰り返すわけやから。
和田 素人にもわかるように説明してもらっていいですか?
藤本 たとえば1株1000円で1000株購入する。この株は毎日50円の範囲で値上がりと値下がりを繰り返し、1年後に2000円の値をつけたとします。長期保有している人は、「1000円×1000株」で100万円の利益が出る。
和田 放っておいて1年後に100万円。悪くないですね。デイトレードは?
藤本 1株1000円の株を、仮に980円で買って1030円で売れば「50円×1000株」で1日5万円の利益が出る。これを1か月(20日)繰り返せば100万円の利益です。1年続ければ1200万円の儲け。
和田 長期の成長が見込める企業ほど、デイトレードで積み上げられるわけですね。
藤本 もちろん、そんなにうまくはいかないけどね(笑)。底値で買って、天井で売ることは難しいから。せやけどその半分、毎日25円の幅で売り買いをできたら1日2万5000円、1か月で50万円、1年で600万円の儲けです。
和田 それはすごい。でも、僕にはできそうにない。気が短いから感情に振り回されてしまう。株には向きません(笑)。
藤本 やったらいいと思いますけど、時間がないでしょ。私は寝る時以外、食事と散歩はするけど、それを除けば、ほぼ株漬けの生活だから(笑)。
反省なしに成長はない
和田 ずっとパソコンの前に?
藤本 時間で言うと16~18時間、ここに座ってますね。
和田 すごいですよ。その間、脳を動かし続けている。だから今も1ヵ月に6億円もの取引ができる。勉強になります。
藤本 いやいや。
和田 藤本さんの話は株に限ったものでなく、人生に通じますから。たとえば、なぜ勝てたのか、なぜ負けたのかを考えることで、少しずつ成長していく、と。これをやらない人が多いと思うんですよ。
藤本 そんなもんかな。
和田 僕は受験勉強の本もたくさん書いているんですが、受験に失敗した人はよく「努力が足りなかった」とか「あそこでミスしたから」と言うんですね。でも「なんでミスしたか」を考えない。だからまた同じミスをするんですよ。
藤本 株も予習・復習やね。まず予習して、その後に復習しないと、あかんわね。
和田 あと、失敗に懲りないとあかん(笑)。
藤本 失敗して初めて覚える。人間は弱いんですよ。失敗して、痛みを知らないとやらん。
和田 成績の上がらない受験生は、失敗しても覚えない。都合よく考えるから痛みを感じないし、忘れてしまう。だからもう一回同じ失敗をするんです。やっぱりそれだと成績は上がっていきませんね。
藤本 私は取引後の反省は、取引と同じくらい重要と考えていますよ。たまたま勝てたからと喜んでいるようでは、投資家として成長せんわな。
和田 やっぱりそうですよね。
藤本 取引の終わりは、次の取引の始まりやから。反省を長く続けていると、銘柄に特有の癖があることがわかってくる。これがわかると、判断も早くなり、精度も高くなる。
和田 記憶するんですか?
藤本 取引履歴を逐一ノートに記録しています。「いつ買った、いつ売った、どれだけプラスになった」などの情報を、前場分(午前の部)は前場の引けた後に、後場分(午後の部)は後場の引け後に記入します。これがそのノートです。
和田 すごいですね。びっしり書き込まれている(笑)。
藤本 このノートの取引履歴と、口座の銘柄情報を突き合わせるんです。私は岩井コスモ証券で取引してますが、このオンライン口座で、取引履歴を出して、すべて確認する。地道な作業やけど、これがずれたら大変や。今後の取引が全部ずれてしまう。地道やけど大事な作業ですわ。地道な作業こそ、重要だと思いますね。