投資歴70年目。資産20億円を築き、88歳の今も現役のデイトレーダーとして勝ち続ける藤本茂さん。「ボケてる暇なんてあらへんで」と笑う“日本のバフェット”の元気の素に迫ります。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。藤本茂さんとの対談3回目。
デイトレードは根気よく
和田 藤本さんは、どれくらいの取引をされているのですか。1か月に6億円くらいの取引があるという話は聞いたのですが、回数で言うと?
藤本 最近は500~600回くらいかな。1か月で。
和田 そんなに?
藤本 岩井コスモ証券の「信用限定1000回コース」を利用してるんです。
和田 1か月の定額制。”デイトレードのサブスク”ですね。
藤本 手数料が安いんですわ。1000回コースで税込み5万5000円。1か月で1000回の取引があったとすると、1回の手数料が55円。
和田 それは安いですね。
藤本 対面取引だと、100万円の注文をすると1万2408円の手数料が必要になる。たくさん取引してたら、手数料だけでも相当な額になります。定額コースなら手数料を気にせずできる。私は、前月の取引回数が646回だったから、1回当たりの手数料は85円やね。
和田 それは破格ですね。儲けを出すには、コストを抑えたほうがいいに決まってます。
藤本 そう。利はコストありやから。いかに安く買うて、いかに高く売るかが株の鉄則。コストは安いに越したことはない。
和田 そういう所にまで、やはり頭を使ってるんですね。
藤本 そう。デイトレードは究極の”脳トレ”。ボケてる暇なんてありませんわ(笑)。
和田 パソコンも自在に?
藤本 人差し指でキーボードをゆっくり押す程度やね(笑)。株の取引だけはできるけど、それ以外でパソコンは使わない。
和田 今は3台を駆使して。
藤本 もう1台あってもいいかなと思うてます。最初は岩井証券の人から「うちの会社でもネット取引始めるからやってみませんか?」と連絡もらってね。今から20年前だから私は66歳でしたね。
和田 そこでネットに切り替えたんですか?
藤本 そう。パソコンもネット取引もまったくわからんかったけど、話聞いたら便利だし、手数料も安い。「これはやらん手はない」と思い、すぐにパソコンを買いに行きましたわ(笑)。
和田 決断が早い(笑)。
藤本 これしたい思ったら、すぐに行動するのが”藤本ちゃん流”です(笑)。
和田 やりたいと思っても、高齢の方は何らかの理由をつけて行動を抑えてしまう人がいます。でも確実に言えるのは、「高齢になったら今日が一番元気」ということです。「健康でいられなくなるリスク」は年々高まっていきます。だから「やりたい」と思ったら、すぐ行動を起こしたほうがいいと思うんですよ。
藤本 年寄りは意地を張り過ぎるからね。せやけど、意地を張ったところで、人生は思い通りにいかない。株もそうだけど。うまくいかないのを楽しむくらいの余裕が重要なんやないかな。
和田 健康で幸せな人生を送るには、藤本さんのような柔軟な考えが大事だと思います。
楽しいから株をやる
和田 毎日の結果で、ストレスが溜まることはないんですか?
藤本 楽しいね。「今日買うたら明日何ぼになる」とか「今日で一旦売っといたら、明日何ぼになる」という楽しみやね。予想が当たって利益が出るんやから、楽しくて仕方ない(笑)。
和田 負ける時があるっていうのも面白みなんですね。
藤本 そりゃあ全部勝てたら、一番やろ(笑)。せやけど全部勝つことはない。神さまじゃないからね。100回やって80回か82回くらい勝てば大成功。100回やって100回勝つことは神さまでもできない。
和田 80回でも相当、高い勝率ですけどね(笑)。
藤本 株の言葉で「頭と尻尾はくれてやれ」と言うんやけど。投資家は皆「底値で買って天井値で売りたい」と思ってる。けど「ここが最高値や」と思った時はまだ伸び、「最安値や」と思うた時は下がったりする。天井や底を狙おうと欲かくと、まずい結果になるんやね。魚だって頭と尻尾は食えんやろ。
和田 名言ですね(笑)。
藤本 私はとことん真ん中ですわ。1000円動いても、頭と尻尾は200~300円で、真ん中の700円を取れれば十分に成功と思うとる。欲かくと、なかなか売れへんし、買われへん。結果、うまくいかん。
和田 そう思えるのも経験の差でしょうかね?
藤本 68年も投資やってると気持ちに余裕がある(笑)。
和田 藤本さんの本『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え』には「株価を動かすのは材料じゃない」と書いてありました。
藤本 そうやね。株で本当に重要なのは、材料そのものではなく、材料を受けて人々がどう反応するか、を読むことだと私は思っています。
和田 なるほど。
藤本 反応というのも、日本人だけでなく、世界の人の反応も考えないといけない。
和田 どういうことですか?
藤本 (ノートを見ながら)たとえばこの日、アメリカの取引でホンダが1736円で終わった。時間的に日本はまだ反応できないわけ。けど、ここが大事なのよ。材料が出て、人はどう動くのか。その心理を読んで、反応せなあかん。「人が食いついて値が高くなる」と思ったら、人より早く買わなあかん。
和田 人の心理を考える、推理する習慣が身に付いている。
藤本 それ、大事なんですよ。
和田 人の心理はなかなか読めないけど、読めないことを考えるのは脳にもいいんです。
藤本 そうかもしれませんね。
和田 人間は人の心理が読めない。だから決めつけようとするんです。歳を取るほど決めつけがひどくなる傾向もあります。藤本さんのように「人がどう考えるかを想像する」っていうのは、脳にいい習慣です。
藤本 長く生きていると、人がどう考えるかわかってくる。
和田 頭の回転だけでなく人生経験もフルに生かしているんですね。
藤本 株をやっていると、目と耳と頭は常に使っている。
和田 それは認知症予防にもいいことです。もちろん使っても認知症になる人はいるんですけど、なるのを遅らせることはできる。
藤本 頭は大丈夫やな(笑)。
和田 藤本さんはもともと麻雀屋さんをやってました。株とは違うけど、麻雀も頭を使うので高齢者にはお勧めです。