2025年、製薬企業との利益相反の医師が多い日本高血圧学会が血圧の治療目標値を“年齢に関係なく”「130/80mmHg未満」に下げると発表した。これにより高血圧との診断を受け、薬を飲む人の激増が予想される。本当にそれでいいのか。“医学常識のウソ”に鋭く切りこんだすべての国民必読の対談!

高血圧の9割は正常
和田 大櫛先生の本『高血圧の9割は正常です』を読ませていただいて感銘を受けました。
大櫛 ありがとうございます。
和田 僕自身いわゆる高血圧で160〜170ぐらいをキープしています。ところが先日、前立腺肥大の手術をすることになり、血圧を下げないと手術ができないと言われたんです。
大櫛 なるほど。
和田 だから仕方なく医者の言うことを聞いて、薬でコントロールしたんです。入院中はさらに強めの薬を飲み130くらいまで下げました。
大櫛 ずいぶん下げましたね。
和田 はい。だけど、そこまで下げると一日中眠いんですよ。
大櫛 血流が低下しますから。
和田 こんなに眠いと仕事にならない。だから仮に寿命を少し縮めることになったとしても、術後、元の血圧に戻そうかと。それに大櫛先生の本にも、「血圧の下げ幅が大きいと死亡率が高くなる」と書いてあったので(笑)。
大櫛 おっしゃるとおりです。血圧は無理に下げる必要はない。というより、大きく下げるのはよくない。それはさまざまなデータで証明されています。
和田 はい。私は多くの高齢者を診てきていますが、血圧が高めの人のほうが元気です。脳をはじめ全身に血液を送るには、加齢とともに血圧は高くなるのが自然です。だから高齢者の血圧を130に薬で落とすようなことをしたら、いろんな弊害が出てくると思いますよ。
4万人の調査が示す真実
大櫛 はい。私たちも独自に住民への追跡調査などを行い、薬による降圧の危険性を示す論文を発表しています。製薬企業のデータもあります。そのひとつは塩野義製薬さんのJATOSというカルシウム拮抗剤の効果を確かめようとした治験です。
和田 カルシウム拮抗剤は僕も飲んでます。
大櫛 和田先生、年齢は?
和田 65歳です。
大櫛 この治験の対象年齢ですね。65〜80歳で血圧が160以上の4418人を無作為に選び、薬を飲んでもらってその後を追跡する治験です。その際に、血圧を20以上大きく下げるA群と、10程度下げるB群とに分けました。A群とB群の選別は公正にくじ引きで決めました。
和田 なるほど。大きく下げる群と小さく下げる群ですね。
大櫛 はい。2年間の追跡調査をした結果、脳梗塞による死亡が、大きく下げたA群では2人、少し下げたB群ではゼロでした。さらに大きく下げたA群はB群に比べて、すべての原因による死亡率が1.4倍も高かったんです。
和田 薬で血圧を大きく下げた人のほうが死にやすい、という結果が出てしまった。
大櫛 はい。ところが製薬企業と関係した医師は「統計的に有意な差はないので、高齢者でも血圧は薬で140未満に下げるべきだ」と説明をしている。残念ですが、この治験は2年間で終了しました。
和田 血糖値のアコード研究なんかも3年半でやめています。臭いモノに蓋という感じです。
大櫛 私の計算では6年間の調査で有意差が出ると推計できたので、福島県郡山市での住民追跡調査を行ったんです。
和田 大規模ですね。
大櫛 4万人の健診受診者を、血圧(収縮期/拡張期)の低い群(120/80未満)から高い群(180/110以上)まで6段階のレベルに分けました。これは世界的によく使われている血圧の区分です。そして6年間、追跡したんです。
和田 なるほど。住民調査なら降圧剤を飲む人もいれば、飲まない人もいます。で、結果は?
大櫛 一番低い群(120/80未満)から5段階目の群(179/109以下)までは、降圧剤を飲んでも飲まなくても、死亡率に統計的有意差はありませんでした。
和田 つまり、降圧剤は効果もないし、死にいたるほどの副作用もない、ということですね。
大櫛 はい。ところが一番高い群(180/110以上)では降圧剤の服薬群の死亡率が非服薬群の5倍だったんです。
和田 なるほど。血圧が高すぎる(180/110以上)のはよくない、ということですね。降圧剤でどれくらい下げたらどうなった、という下げ幅による数字も出てるんですか?
大櫛 はい。血圧が180を超えるような人でも薬を飲まない人がいるんです。この群について、追跡終了時の血圧で死亡率を比較しました。
和田 興味深いですね。
大櫛 結果は、「少し下がった群」は「下がらなかった群」より死亡率が低くなっていました。しかし「20以上、下がった群」の死亡率は「薬を飲まない群」の10倍だったんです。
和田 やっぱり。血圧の高い人が下げすぎるのは危険だと。
大櫛 和田先生のように、手術のために一時的に下げたのならおそらく問題ない。危険なのは健診で高血圧と言われ、長期間、薬を飲み続ける場合です。
和田 でも日本人の多くは「降圧剤は一度飲み始めたらやめられない」という言葉を信じて、まじめに飲み続けてしまう。
大櫛 確かにやめると一時的に血圧は上がります。しかし「死ぬまで飲み続ける」というのも違う。もはや都市伝説です(笑)。
和田 なのに本当のことは誰も言いません。それも怖い。
大櫛 だからこうやって私たちが言わなくちゃね(笑)。

東海大学名誉教授・大櫛医学情報研究所所長。1947年徳島市生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。大阪府立の複数病院で研究をした後、1988年より東海大学医学部教授。2012年より現職。著書に『高血圧の9割は正常です』『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』『「血圧147」で薬は飲むな』など著書多数。
和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー等を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。当対談連載をまとめた『80歳の壁を超えた人たち』をはじめ、『80歳の壁』『幸齢党宣言』など著書多数。
「高血圧」の基準は疑わしい
和田 2025年、日本高血圧学会は高血圧のガイドラインを上は130、下は80未満としました。数値がさらに引き下げられてしまった。
大櫛 これにより成人での治療対象者数は、1983年から2007年まで続いた老人基本健診の要医療の基準と比較すると、210万人から4635万人に増えます。
和田 20倍です。降圧剤を飲む人もそれだけ増えます。
大櫛 恐ろしいですね。実は、2004年にも高血圧の基準が引き下げられたことがありました。その翌年には、厚労省の調査によると、脳梗塞の患者数が1万人、脳梗塞死者数も2500人増えていたんです。
和田 めちゃくちゃですよね。全身を血液が巡っていることが健康の秘訣なのに、わざわざ薬を使って血流を悪くする。なぜそんなことが起こるのか。
大櫛 その一端がわかる事例は次回からお話しします。
※2回目に続く

