日本を代表するファッションデザイナーの菊池武夫さんと、『80歳の壁』著者・和田秀樹氏の対談ををまとめてお届け! ※2025年2月掲載記事を再編。

1.見た目が若い人は長生き!? 85歳現役デザイナー「タケオキクチ」若さの秘密

和田 菊池さん、やっぱりおしゃれですね。色味とかもすごく素敵です。年を重ねても似合う色とか、そんなことは気にしなくていいんですかね?
菊池 あんまりね、気にしたことないです(笑)。でも、似合うものがすごく少ないと、自分では思ってます。
和田 え、そうなんですか?
菊池 はい。時間が経つと似合ってたものが似合わなくなったりする。ほんのちょっとしたことで全体の雰囲気が変わってしまいますからね。
和田 でも失礼ですが、とても85歳には見えません。その着こなしはなかなか私には(笑)。
菊池 どんな洋服でも、きちっとしてても崩れてても、やっぱり個性がそこにハマってくれば格好いいのかなと思います。
和田 実は今日は私も、菊池さんの服を着てきました。娘が「タケオキクチいいよね」と、娘の旦那と私に、お揃いのスーツを贈ってくれたんです。
菊池 そうですか。ありがとうございます。いいお嬢さんですね(笑)。若い方にも知っていただけてるっていうのは、すごい嬉しいです。僕は60年以上服をつくっていますからね。
和田 現役のクリエイターとして、まだ最前線で活躍されている。本当にすごいことです。
菊池 すごいかどうかわからないですけど、やっていることが若い時と変わんないからね。
2.服選びやコーディネートを考えることで、前頭葉が鍛えられて、ボケ抑制に

菊池 前回、デザインを仕事にしている人は前頭葉が鍛えられると言いましたが、脳の使い方が違うんですか?
和田 はい。例えば受験勉強は「側頭葉」という言語的な知能や「頭頂葉」という数学的な知能が鍛えられるんです。だから、例え、クリエイティブ力が少なくても大学に入れてしまうんです。
菊池 たしかにね。
和田 大学に入ったらクリエイティブになるかと言ったら、そうではない。教授の言った通りのことを書くと“優”がもらえるんですよ。小学校から高校までも基本的に同じ、先生の言うことを聞き、テストでいい点数を取る子が評価されます。しかし、アメリカの大学は違います。先生への反論を考えた人やディスカッションのできる人が“優”をもらう。「いかに頭を使うか」が求められるんです。
菊池 日本人は頭を使っていない?
和田 本当の意味での頭を使っていないんでしょうね。だから画期的な発明が…。
菊池 できない。
和田 はい。例えばアメリカでは、ド素人のイーロン・マスクがテスラを作ったりするわけですよ。
菊池 脳を活用できているんですね。
和田 はい。日本人は脳を活用しきれていないと思います。
3.長生きの一番の条件、免疫力を保つためにすべきこと

和田 毎日のお洋服は、どんなふうに選ぶんですか?
菊池 僕は、わりと境目がないから、いつ選ぶとか、そういうのはないんです。日頃から、なんとなく自分の持っている洋服を記憶の中から引っ張り出して、活かしてる感じなのかな。例えば、これまで「みっともないなあ」と思うことは何回もあって、それは避けるようにするとか。
和田 量は膨大でしょうから、思い起こすのも大変そうです。
菊池 こういう仕事だから、ものすごい服があったんです。何度か店に持っていこうと思ったんだけど。熊本大震災がありましてね。
和田 2016年でしたね。
菊池 うちの先祖は熊本なんですよ。だから何か役に立ちたいと思って、僕の持っている洋服の3分の1ぐらいを、ここで売って、全額寄付をしました。
和田 素晴らしい!
菊池 おかげで何が手元に残っているのか、わからなくなりました。「あれを着よう」と思っても、もう手元になかったりして収集がつかないんですよ。何着あるかはわかりません。人の洋服もあるし、自分の服もある。アンティークもたくさんありますしね。
和田 やっぱりいろんな服を着る経験は大事でしょうね。
菊池 はい。そう思いますね。
4.胃もたれするから肉を避ける、はNG。ずっと食べられる人が長生きする

和田 食事の好みは?
菊池 なんでも食べます。今はタンパク質が気になるので、納豆もね。昔は食べられなかったのですが、克服できました。むしろ、好きになった(笑)。
和田 すごいですね。私は今でも食べられません(笑)。そのくせ、人には納豆を勧めるんですよ。タンパク質を摂れるし、脳卒中の予防にもなりますから。
菊池 でもやっぱり、僕は肉が好きですね。本当に好きで。
和田 お肉は何が?
菊池 牛肉。でもね、豚も羊も食べるし、鶏も食べますよ。
和田 非常にいいことですね。日本の料理って、いろんな食材を食べるところがいいんです。例えば、鮨屋に行っても10種類ぐらいの魚を食べるでしょ。
菊池 そうですね。
和田 いろいろ食べることで、不足するものがなくなるんです。
菊池 雑食がいいんですね。
和田 そう。年を取るほど足りないときの害が増えてきますから、多数の品目を食べたほうがいい。中年になると「肉を食べると胃もたれする」なんて言う人がいますが、ずっと食べられる人が長生きするんですよ。
5.九死に一生を得た菊池武夫の鬱にならないメンタル術

菊池 僕ね、ちょっと子どものときに大病しまして。
和田 そうなんですね。
菊池 九死に一生を得て、今まで生きてきたんです。その経験があったからか、つらいことを脳でコントロールできるようになったんです。
和田 ほう。興味深いです。
菊池 つらいことは忘れるとか、その場でどけるようにしているんです。「なんとなく避ける」というほうがわかりやすいかな。だからこれまで「すごく厳しい壁を乗り越えた」っていうのは一度もないんです(笑)。
和田 精神科医の立場から言っても、それはとてもいいですね。そういう人は、鬱になりにくいんですよ。鬱病はお年寄りの一番の敵ともいえますから。
菊池 そうなんですか?
和田 いっぺんに10も20も老けてしまう。芸能人でも、若々しくて明るかったのに、鬱病になった途端、すごい老け方をする人がいるでしょう。
菊池 そうですね。
和田 年を取って鬱病になると、治らないままのこともある。
6.「アイデアは全然枯れない」85歳・タケオキクチの発想術とは

和田 アイデアは今もふつふつと湧き出るんですか(笑)。
菊池 昔と変わりませんね。一つだけ違うとすれば興奮度かな。以前は急に「うわー、これやりたい」と思いつくと、夜中でも完成させたいと動いていました。でも今はさすがにない(笑)。
和田 壁に貼ってあるデザイン画も格好いいですね。カーゴパンツですかね。
菊池 はい。アイデアはね、全然枯れることはない。歩いていて「これはほかにないな」なんて思いつくと、もう絶対にカタチにしたいと思います。
和田 散歩中に刺激を受ける?
菊池 24時間いつでも、場所も選びませんね。散歩中もそうだけど、テレビを見ていてもね。
和田 すごく羨ましい。やはり好きなことが仕事になっているからでしょうね。
菊池 それ、絶対ありますね。
和田 やっぱりね、世の中ってみんな個性なんですよ。「好き」というのが個性の原点なんだろうと思いますね。

