PERSON

2025.02.11

服選びやコーディネートを考えることで、前頭葉が鍛えられて、ボケ抑制に【和田秀樹×菊池武夫②】

日本を代表するファッションデザイナーの菊池武夫さんに、『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る。連載2回目。

菊池武夫/Takeo Kikuchi
ファッションデザイナー。1939年東京都生まれ。1970年にBIGI、1975年にMEN’S BIGI、1984年TAKEO KIKUCHIを設立。DCブランドブームの火つけ役。現在も、TAKEO KIKUCHIのクリエイティブディレクターとして精力的に活動している。

日本は脳を活用できない

菊池 前回、デザインを仕事にしている人は前頭葉が鍛えられると言いましたが、脳の使い方が違うんですか?

和田 はい。例えば受験勉強は「側頭葉」という言語的な知能や「頭頂葉」という数学的な知能が鍛えられるんです。だから、例え、クリエイティブ力が少なくても大学に入れてしまうんです。

菊池 たしかにね。

和田 大学に入ったらクリエイティブになるかと言ったら、そうではない。教授の言った通りのことを書くと“優”がもらえるんですよ。小学校から高校までも基本的に同じ、先生の言うことを聞き、テストでいい点数を取る子が評価されます。しかし、アメリカの大学は違います。先生への反論を考えた人やディスカッションのできる人が“優”をもらう。「いかに頭を使うか」が求められるんです。

菊池 日本人は頭を使っていない?

和田 本当の意味での頭を使っていないんでしょうね。だから画期的な発明が…。

菊池 できない。

和田 はい。例えばアメリカでは、ド素人のイーロン・マスクがテスラを作ったりするわけですよ。

菊池 脳を活用できているんですね。

和田 はい。日本人は脳を活用しきれていないと思います。

システムに対して忠実な人はヤバい

菊池 やはり問題は教育ですかね?

和田 教育もそうですが、会社も悪いと思います。上の言うことを聞いている人のほうが出世するようなシステムは、やっぱりよくないですよね。

菊池 僕、それは部外者なんだけど。システムに対して忠実な人はヤバいな、と思うことがありますよ。

和田 さらにまずいのは、年を取ると余計にそうなることです。上の言うことに忠実な人は前頭葉の衰えも早いので、年を重ねると意欲がどんどん落ちてくるんですね。創造性も落ちてくる。すると定年後に日向ぼっこばかりするような人生になってしまう。そのうちに歩けなくなったり、認知症が発症しやすくなったりします。若いころから前頭葉を使っている人は意欲がそれほど衰えないし、そのまま突っ走れてしまうから、現役のままいけたりするんです。

菊池 なるほど。

和田 画家やデザイナーの人は、長生きする印象があるんですけど、実際はどうですか。

菊池 長生きかもしれません。でも僕の知り合いは、もうほとんどいません。

試行錯誤することが大事

和田 日常生活でも前頭葉は使えます。例えば服を選ぶとかコーディネートを考えるというのも、そのひとつです。実際にやってみると、周りの反応が違ってくる。これも大事なことなんです。「若返ったね」と言われたり、「似合わないからやめときな」なんて言われることもあるかもしれないけど。でも人に迷惑をかけるわけじゃないんだから、どんどん試したらいいんですよ。

菊池 正解はありませんから。

和田 なのに日本人は失敗しちゃいけないと思うから試行錯誤をしない。発明王のエジソンは失敗に失敗を重ねた人ですが「私は失敗したことがない。1万通りのうまくいかないやり方を見つけただけだ」と言っています(笑)。

菊池 うまいこと言う(笑)。

和田 失敗っていうのは、うまくいかないやり方を見つけることでもあるわけです。失敗を恐れていたら、うまくいくやり方も見つかりませんよ。

菊池 その通りですね。

和田 だから試行錯誤を繰り返している菊池さんのような人は、年を取っても現役でいられるんでしょうね。

菊池 そうかもしれませんね。

和田秀樹/Hideki Wada
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

海外と日本の違い

和田 海外生活は長かったのですか?

菊池 いえ、2年ぐらい住んでいただけです。ただ、僕の出たのは暁星で、フランスの学校でしたから。

和田 暁星の人はフランス語もしゃべれますもんね。

菊池 ちょっとですけどね。小学生からずっとだから。自由な学校でしたね。

和田 フランスには、おいくつぐらいのときに?

菊池 遅いですよ。フランスに行ったのは1976年。37歳のときです。

和田 いい頃ですね。

菊池 友達は学校を出て、すぐアメリカに行って絵描きになったりする人が多かった。親しかった人は、ほとんど海外に行ったんですよ。僕はそのころ仕事一本でした。お金を稼がないといけないでしょ。だから30過ぎまで出られなかった。

和田 会社に勤めていたんですか?

菊池 会社は1年だけ。23歳のときに独立して、今までずっと。

和田 すごいですね。日本にいるのが悪いとは全然思ってないのですが、外国に行くと、考え方が変わるのがいいかなと。

菊池 たしかに変わりますね。

和田 私は31から34までアメリカに留学して。しかもカンザスってド田舎ですよ。一般的なアメリカのイメージとは違っていて、毎週教会に行って祈りを捧げるみたいな感じでした。

菊池 なるほど。

和田 敬虔(けいけん)なんだけど、ひどい一面もある。毎週「ゲイは出ていけ」ってデモをやるんだから。アメリカって実は人が思っているよりも保守的なところもあるんです。

菊池 それは僕も感じました。ヨーロッパを回ってアメリカへ移ったときに「なんて保守的なんだろう」って。だけど、すごい革新的な人も出る。

和田 そう。そこがアメリカのよさでもありますね。すごく保守的な割に、人のことは邪魔しない。これは日本人と大きく違うところです。

菊池 たしかに。

和田 大谷翔平さんが二刀流をやっても邪魔しない。日本はちょっととんがっていると、すぐに邪魔をされます。

菊池 必ず潰しにかかる。

和田 それは日本の発展のためにもよくないです。それに、保守的な人は、早く老けちゃいますしね。チャレンジングな人は年を取っても実験的な人生を歩み続けるので、菊池さんみたいに素敵な人になる(笑)。

菊池 素敵かどうかはわからないけど、チャレンジングではありますね(笑)。

※3回目に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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