日本を代表するファッションデザイナーの菊池武夫さん。タケオキクチの立ち上げから41周年。今なお“創造”を続ける菊池さんと和田さんに共通する“とらわれない”生き方とは。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。

「似合わないかもしれないけど、赤い服を着てみよう」という実験精神は若さに繋がる
和田 菊池さん、やっぱりおしゃれですね。色味とかもすごく素敵です。年を重ねても似合う色とか、そんなことは気にしなくていいんですかね?
菊池 あんまりね、気にしたことないです(笑)。でも、似合うものがすごく少ないと、自分では思ってます。
和田 え、そうなんですか?
菊池 はい。時間が経つと似合ってたものが似合わなくなったりする。ほんのちょっとしたことで全体の雰囲気が変わってしまいますからね。
和田 でも失礼ですが、とても85歳には見えません。その着こなしはなかなか私には(笑)。
菊池 どんな洋服でも、きちっとしてても崩れてても、やっぱり個性がそこにハマってくれば格好いいのかなと思います。
和田 実は今日は私も、菊池さんの服を着てきました。娘が「タケオキクチいいよね」と、娘の旦那と私に、お揃いのスーツを贈ってくれたんです。
菊池 そうですか。ありがとうございます。いいお嬢さんですね(笑)。若い方にも知っていただけてるっていうのは、すごい嬉しいです。僕は60年以上服をつくっていますからね。
和田 現役のクリエイターとして、まだ最前線で活躍されている。本当にすごいことです。
菊池 すごいかどうかわからないですけど、やっていることが若い時と変わんないからね。
和田 いいですね。
菊池 ただ2ヵ所の病院で3ヵ月に一度チェックをしてもらうのをずっと続けてるんです。
和田 続けるのはいいことですが、余計な薬をあまり飲まないほうがいいと思います。
菊池 そうですね。ほどほどに聞いて、自分でいいと思うのだけもらってきてます。
和田 正しいですね。医者の言うことなんか聞くよりも若い人と接したほうが健康にはいい。
菊池 なるほど。若い人といると自然に気持ちも若くなる。
和田 はい。実は、実際の年齢よりも若く見える人のほうが長生きするんですよ。
菊池 へえー。そうですか。
和田 例えば80歳なのに70に見える人がいますよね。その人にしてみたら、まだ70なんですよ。平均寿命が80だとしても「あと10年ある」という感覚でいられる。だから見える年齢って実際に大事なんです。
菊池 仕事をしてると、頭の衰えがすごく防げる。

ファッションデザイナー。1939年東京都生まれ。1970年にBIGI、1975年にMEN’S BIGI、1984年TAKEO KIKUCHIを設立。DCブランドブームの火つけ役。現在も、TAKEO KIKUCHIのクリエイティブディレクターとして精力的に活動している。
自分に合ったものを選ぶ
和田 よく歩くそうですね?
菊池 今でね、だいたい1日、8000〜9000歩。週によって違いますけどね。年間の平均で見るとそれくらいです。
和田 すごいですね。
菊池 かつては1日40キロくらい歩くこともありました。
和田 ケタ違いです(笑)。理想は1万歩ですが、腰とかを痛める人が多いので、無理はしないほうがいいですね。
菊池 僕も整形の人に歩きすぎはよくないって言われてます。腰、僕もやっぱりダメなんですよ。だけど歩いてるほうが、すべて健康的でいられる。
和田 人間は個人差がありますからね。例えば養老孟司先生なんかも年齢の割に若く見えるんですが、やっぱり、タバコはダメと言われてもやめない。気分のよさのほうが大事だよって。
菊池 (笑)。自分の身体のことは自分が一番わかるから。
和田 そうです。本当はひとりひとり違うのに、日本の医者は全員に同じ注意をするんですよ。
菊池 わかる。
和田 みんなに同じ服を着せるようなもんですよね?
菊池 そうそう。
和田 菊池さんみたいなお仕事をしてると「この人はこんな服が似合いそうだ」って、全員に同じ服を着せようとは……。
菊池 絶対思いませんよ。似合い方がまったく違うから。
和田 僕もお年寄りをいっぱい見てますが、好き勝手にやってるわりには、ちゃんと長生きする人は長生きしますので。
菊池 僕は自分が仕事をしている以上、個人として個性でやってますから。一緒くたにものを見る、ひとつの答えが出たらそれに全部決めるみたいな日本的な考え方には反対です。
和田 素晴らしいと思います。人間の脳の中では前頭葉という場所が一番先に衰えるんですね。40代50代から衰える人もたくさんいて、意欲が低下してくる。あと、クリエイティヴでなくなるんですよ。
菊池 そうなんですか。
和田 はい。たぶん菊池さんは前頭葉が元気です(笑)。デザインのような仕事は、前頭葉を鍛えるんですよ。
菊池 そうかもしれない。
和田 日本人は「○○が流行ってる」となるとみんなと同じ服を着たがる。でもそういうことをしてたら脳は鍛えられない。
菊池 僕、最もそれが嫌い。
和田 前頭葉を一番鍛えるのは実験精神だと僕は思っていて。「似合わないかもしれないけど赤い服を着てみよう」とかね。すると周りの反応が違ってくる。
菊池 そうそう。
和田 実験だから失敗して当たり前。失敗から学んで今度は違うことをする。菊池さんのような実績あるデザイナーでも、一回ですごい作品ができるのではないものですか?
菊池 もちろんです。そういうふうに試行錯誤を繰り返しているうちに、それが個性になっていくんだと思いますね。

精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。