PERSON

2025.08.14

62打席無安打からパ3位の安打王へ。西川愛也が示すプロの執念

苦しんだ高校時代の怪我やプロ入り後の不遇を乗り越え、2025年シーズンは、パ・リーグ3位の安打数を記録中。プロ8年目でブレイク中の西武・西川愛也(にしかわまなや)がスターとなる前夜に迫った。

花咲徳栄時代の西川愛也。

西川愛也、プロ8年目でついに開花

2024年は歴史的な大敗を喫した西武。2025年はそこから巻き返しを見せ、何とかAクラス争いに踏みとどまっている。

課題だった打線では、新外国人のネビン、ルーキーの渡部聖弥の活躍が光るなか、既存戦力で大きな飛躍を遂げたのがプロ入り8年目の西川愛也(にしかわまなや)だ。

2023年はNPB野手ワースト記録となる62打席連続ノーヒットという不名誉な記録を樹立するなど、なかなか成績を残すことができずにいたが、2024年は初めて一軍で100試合以上に出場。71安打、6本塁打を記録し、成長ぶりを見せた。

そして2025年は、開幕からセンターのレギュラーに定着。ヒットを量産し、6月は怪我の影響もあって一時成績を落としたものの、8月2日のロッテ戦では6打数6安打の固め打ちを見せるなど、ここまでパ・リーグで3位となる106安打を放つ活躍を見せているのだ。

ちなみに昨年までの7年間で通算94安打であり、シーズン途中でその数字を上回ったこととなる。

そして2025年シーズンは、開幕からセンターのレギュラーに定着。6月は怪我の影響で一時調子を落としたものの、8月2日のロッテ戦では6打数6安打の固め打ちを披露。ここまででパ・リーグ3位の106安打を記録し、すでに2024年までの通算94安打を超える活躍を見せている。

高校時代から注目も、肩の怪我が評価を分けた

そんな西川は大阪出身で、高校は埼玉の強豪である花咲徳栄に進学。2年春に出場した選抜高校野球では、初戦で秀岳館に敗れたものの、西川自身はツーベースを含む2安打の活躍を見せている。

続く夏の甲子園では3試合で10打数6安打と見事な成績を残し、この頃から西川の名前は全国にも知れ渡るようになった。

2年夏の甲子園、1回戦の大曲工戦を記録したノートには以下のようなメモが残っている。

「バットを体の前で低い位置に置く独特の構え。そこからバットを大きく動かしてタイミングをとるが、全体的な動きはゆったりとしており、上手くボールを呼び込んでミートすることができる。

低めのボールになる変化球に対してもしっかりバットが止まり、選球眼の良さも十分。

(中略)

リストの強さは抜群で、ヘッドスピードは3年生を含めても高校生ではトップクラス。少しヘッドを返すのが早いように見えるが、左方向にも上手く打てる。レフトからの返球に不安は残るが、脚力も水準以上」

ちなみにこの試合で西川の前の3番を打っていた一学年上の岡崎大輔(元オリックス)は、この年のドラフト3位でプロ入りしているが、その岡崎と比較しても打撃に関してはこの時点で西川が上回っている印象だった。

2年秋は関東大会の初戦で慶応に敗れて選抜出場は逃したものの、3年になる頃にはドラフト候補として高い評価を得るようになっていた。

3年夏の埼玉大会4回戦、対武蔵越生戦を記録したノートにはその成長ぶりがうかがえる記載が残っている。

「バットを動かしてタイミングをとるスタイルは相変わらずだが、よりゆったりとした動きになり、余裕を持ってボールを見ることができている。

体も昨年より一回り大きくなり、特に下半身の充実ぶりが目立つ。打球の速さは圧倒的で、あっという間に野手の間を抜けていく。

(中略)

第5打席ではセンターへのランニングホームランも。高めの速いボールも上手くかぶせて打ち、ライナー性の打球がよく伸びる。守備の肩だけが不安」

この試合でも3安打2打点の活躍で、存在感は圧倒的なものがあった。しかし不安があったことも確かである。それは前年夏にも気になったスローイングの面だ。

実は2年の春に右の大胸筋を断裂する怪我を負っており、そこから満足に強い送球ができず、外野手としての肩の不安がドラフト評価にも影響した。

地道な努力と真摯な姿勢が実を結ぶ

そんな怪我を負っていた西川についてもうひとつ記憶に残っていることがある。

2年冬のオフ期間、怪我で制限のあるなかでも下半身強化に黙々と取り組む西川の姿が取材で印象的だったという。

2年の冬、チームがオフの期間に行っているトレーニングを取材したのだが、西川は怪我の影響ですべてのメニューをこなすことはできないなかでも、黙々と下半身の強化に取り組んでいたのだ。

そんな姿を見せていた影響かは分からないが、西武は2017年ドラフト2位で指名。ただし、大胸筋の怪我はプロ入り後もリハビリが必要であり、完全復活までには時間を要した。

一軍で戦力になるまで7年かかったが、地道な努力を続けてきたこと、怪我を受け入れながら他の部分を鍛え続けた姿勢が、2025年のブレイクにつながったことは間違いない。

7月下旬からまた調子を上げてきただけに、初の規定打席到達、そして最多安打のタイトル獲得も十分に期待できるだろう。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

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