PERSON

2025.05.22

西武の救世主になるか。渡部聖弥を知るための大阪商業大時代のこと

ルーキーながら大活躍を見せている、西武・渡部聖弥がスターとなる前夜に迫った。

大阪商業大時代の渡部聖弥
大阪商業大時代の渡部聖弥。

低迷していた西武の救世主

2024年は5位に14ゲーム差をつけられて圧倒的な最下位に沈んだが、2025年はここまで上位争いを演じている西武。そんなチームを牽引する働きを見せているのがドラフト2位ルーキーの渡部聖弥だ。

オープン戦から結果を残して開幕スタメン入りを勝ち取ると、デビューからいきなり6試合連続安打を記録するなどヒットを量産。2025年4月12日の日本ハム戦で足首を痛めて一度は登録を抹消されたものの、4月25日に復帰すると、その後も3番を任されてパ・リーグ2位となる打率.321をマークしている(5月15日終了時点)。

得点力不足が大きな課題となっていたチームにとってまさに救世主的な存在と言えるだろう。

無名の高校時代から大学で開花

そんな渡部は広島の名門である広陵出身だが、高校時代はそこまで評判となっていたわけではない。

初めて実際にプレーを見たのは1年秋に出場した明治神宮大会。代打での出場だったが、星稜のエースだった奥川恭伸(現・ヤクルト)の前にショートフライに倒れている。

翌年春の選抜高校野球では初戦の八戸学院光星戦に1番、サードで出場。ただ、この試合も第2打席で四球を選んで出塁したものの、他の3打席はすべて三振でノーヒットに終わっており、当時のプレーの印象は残っていない。

3年時もドラフト候補として渡部の名前がスカウトの間から聞かれることはなかった。

そんな渡部が大きく成長を見せたのは大阪商業大進学後だ。1年春にレギュラーに定着していきなりベストナインを受賞。そして筆者がその存在を強く認識するようになったのは2年春、リーグ戦の前に行われた名城大との関西六大学野球・愛知大学野球対抗戦でのことだった。

この試合、渡部は4番・センターとして出場し、ツーベースを含む2安打の活躍を見せており、当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「シートノックでのセンターからの返球は抜群。低い軌道で一直線にホーム付近まで届き、ボールの勢いが落ちない。

打撃も少し上半身の力と腕力が強いスイングに見えるが、140キロ台中盤のストレートにもまったく力負けすることなく、インパクトの強さも目立つ。少しトップの位置が浅くても、振り出しが鋭く、右方向への打球も強い。

(中略)

走塁のスピード、打球を追う動きの良さも目立ち、脚力も十分。高いレベルで三拍子揃う」

このシーズン、渡部は4割近い打率を残して首位打者を獲得。さらに2年秋にはリーグ新記録となる、1シーズン5本塁打を放つ活躍を見せている。

この頃から渡部の名前は関西の大学球界ではよく知られるようになっていた。

大学球界屈指の外野手へ

そして渡部の大学時代で強く印象に残っているのが全国大会での活躍だ。4年間で大学選手権4回、明治神宮大会2回出場し、合計13試合の通算打率は.440をマークしている。

特に圧巻だったのが3年春に出場した大学選手権。

初戦の星槎道都(せいさどうと)大戦ではこの年のドラフトで高い注目を集めていた滝田一希(現・広島)からの3安打を含む4打数4安打を記録。続く花園大戦でもスリーベースとホームランなど3安打2打点の活躍を見せ、大会を通じて12打数8安打1本塁打4打点、打率.667という圧倒的な数字を残したのだ。

当時のノートのメモにも下級生時代からの成長が感じられる記載が残っている。

「少しタイミングが遅れても右方向へ鋭い当たりを放つ。甘いボールは常に長打になりそうな雰囲気が十分。上半身だけでなく下半身の強さも抜群で、変化球への対応力も高い。

バットを良い意味で長く使うことができており、ヘッドの走りも素晴らしく、センターを中心に広角に打てる。どのコースにもスムーズにバットが出て、穴らしい穴がない。

(中略)

体が大きくなってもスピードが落ちておらず、肩の強さも相変わらず素晴らしい。外野手としての能力の高さは大学生でも屈指」

花園大戦でのスリーベースでは12.00秒を切れば俊足と言われる三塁到達タイムで11.50秒をマークしており、その後は相手投手の暴投ですかさず本塁へ生還している。

また第5打席に放ったライトスタンドへのホームランも打った瞬間にわかる当たりだった。

2024年のドラフトでは1位指名が有力視されていながら2位指名となり、そのことに対して本人も相当悔しい気持ちがあったようだが、それをバネにしている部分もあるはずだ。このまま順調にヒットを重ねていけば、新人王も見えてくるだろう。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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