20歳の時に思った「人生は60歳から」。その言葉通り、飯島直子さんは年を重ねるにつれ、ますますチャーミングに、そして、ポジティブになっている。飯島さんが実践する“良い年の重ね方”とは?

自分にも事務所のスタッフにも厳しかった過去
取材場所であるレストランの個室に飯島さんが現れた際、我々取材陣が感じたのは、まぎれもない女優のオーラ。ハリのある艶やかな肌にすらりとした肢体、明るく、人懐っこい笑顔。存在そのものが華やかで、人を惹きつけてやまない。
ところが、取材中に出てくる言葉は、潔いほど飾り気がなく、自然体。「なかなか運動する気にならない」「お菓子のつまみ食いはやめられない」といった“だめだめエピソード”にぐっと親近感を抱かされた上に、料理が運ばれてくるたびに「うわぁ、おいしそう!」「温かいうちに食べましょ」と笑顔を見せる気遣いに、心を鷲づかみされてしまい……。会う人をたちまち和ませ虜にするあたり、“元祖癒やし系”は健在だ。
「(ジョージアのCMに出演して)そう言われていた頃が、一番、性格がきつかったですけどね(笑)。とにかく仕事が忙しくて、だけど手は抜きたくないし現場に迷惑もかけたくないからと、自分にも事務所のスタッフにも厳しくて。とくにマネージャーの遅刻にはうるさかったですね。『夜遅くまで仕事が入っているから大変なのはわかるけれど、マネージャーは家に帰れば眠れる。帰宅した後にセリフを覚えないといけない私に比べれば楽なはずなのに、どうして寝坊するの⁉』って。今思えば職種が違うのに比較して、厳しいことを言っていたなと反省してます(笑)。
それに、癒やし系はCMのためにつくられたキャラクター。それを演じなければいけないという葛藤もありましたね」
良い感じに力が抜けている現在の飯島さんからは想像できないエピソードだが、変わるきっかけがあったのだろうか。
「うーん、何かあったかな? じょじょに年を取っていったっていうことじゃないのかな。自分自身いろんな経験をして、『こういうこともあるんだな。しかたがないよね』と受け入れられるようになったんだと思います。それが、大人になって一番良かったことかもしれない。だっていつまでも当時のままだったら、まちがいなく頑固ババアになっていたから(笑)」
腹が立っている時こそ口角は上向きに
飯島さんの発言の端々に感じられるのは、「まぁ、いいか」という明るいあきらめと「ダメなことも含めて楽しもう」という前向きな姿勢。
「すごくポジティブなわけじゃないし、なんでも楽しもうというタイプでもないんですけどね。ただ、不機嫌は人に伝染しちゃうでしょ? 自分の機嫌で他の人を振り回しちゃうし、その反対もある。そうしたくないから、なるべく自分で自分の機嫌をとるようにはしています」
そのために心がけているのは、常に口角を上げること。
「口角が下がっていると、周りの人は『怒っているのかな』『機嫌が悪いのかな』と心配になると思うんです。なので、口角が常に上を向くように意識しています。ポジティブな性格じゃないからこそ、そこは気をつけていますね。
それにね、無理してでも口角を上げていると、だんだん機嫌が良くなっていくんですよ。だから、辛くても笑う! そうすることで、きっと脳がごまかされるんだと思います。笑っているんだから、今楽しい、気分がいいんだって。
すごく腹が立っている時はそうはいかないかもしれないけれど……、でも、私は無理してでも笑顔をつくるようにしてます。でね、笑顔でいられたら、自分で自分をほめてあげる。『よく頑張った、偉いね!』って。それで、気心知れている人に後で愚痴るの。『ちょっと聞いてよ! こんなことがあってさ。でも、私顔に出さなかったんだよね』って。そうすると相手もほめてくれるじゃないですか。『よくガマンしたね』『そうでしょ⁉』って。で、また機嫌が良くなるんです(笑)」
人前で明るく振舞っている分、ひとりになった時はドーンと落ち込む。よく聞かれる“現象”は、きっと飯島さんにも起こっているはず。そう思いきや、「ひとりの時って、落ち込んでも落ち込んでいなくても変わらなくないですか?」と、意表を突く答えが返ってきた。
「イヤなことがあったら考え込んだりはしますけど、でも、すごーく不機嫌な顔をするわけではないですよね。逆に、嬉しいことがあったからと、終始はしゃいでいるわけでもない。だって、ひとりなんだもの(笑)」

「仕事とは?」という問いは自分には似合わない
インタビューの最後に、ふたつの質問を投げかけてみた。「この先の目標ややってみたいことは?」と「あなたにとって仕事とは?」と。
「うーん、やってみたいこと……。具体的に『これ!』というのは、思いつかないですね。でも、かわいいおばあちゃんにはなりたいなって思います。謙虚で、やさしくて、いつもニコニコしていてね。なれるかどうかわからないけれど、でも、この先もずっと健康でいられれば、どうにかなるかな。
『仕事とは?』は……、えーっ、なんですかね⁉ なんだろうな。仕事に対する捉え方って、みんな違うのかな? 人生の一部であることは間違いないんだけど、うーん、難しい! 昔の私だったら“生活するため”と言っていたと思うし、今ももちろん生きるためではあるんですけど……。
ちょっと大げさに聞こえるかもしれないけれど、“生きる力をくれるもの”かな。何の制限もなく、ただただ遊んでいるだけだったら、つまらない人生だったと思うんですよ。仕事をして、それが誰かのためになって、自分にも返ってくる。仕事はそういうものかもしれないなって。
うん! でもやっぱりこういう質問は、あんまり私には似合わないですね(笑)」
人生の折り返し地点を過ぎ酸いも甘いもかみ分けた今、等身大の自分を受け入れ、自分で自分の機嫌をとる。飯島直子の“在り方”は、上手に年を重ねるためのヒントになるに違いない。
飯島直子/Naoko Iijima
1968年東京都生まれ。モデルとして活動後、1988年に『11PM』のカバーガールで芸能界デビュー。1994年から2000年まで放送されたコカ・コーラ「ジョージア」のCMが大きな話題となり、“元祖癒やし系”として大ブレイク。『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)のほか、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK)に出演し、パーソナリティを務める『飯島直子の今夜一杯いっちゃう?』(BSフジ)も好評。2023年から始めたインスタグラムは50万近いフォロワーを有するなど話題に。