2024年シーズン、初めてシーズンとおして先発ローテーションを守り切り、プレミア12でも活躍を見せた西武・隅田知一郎がスターとなる前夜に迫った。
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守りとおした先発ローテーション
2024年は勝率.350で圧倒的な最下位という屈辱的なシーズンに終わった西武。ただそんなチームにあって大きな成長を見せたのが隅田知一郎だ。
3年目の2024年シーズンは1年間を通じて先発ローテーションに定着。9勝10敗と惜しくも二桁勝利は逃したものの、投球回数179回1/3はパ・リーグ2位、防御率2.76はリーグ8位となっている。
さらに2024年10月に行われたプレミア12では侍ジャパンにも選出。リリーフとして4試合、8回を投げて2失点、26奪三振という見事なピッチングを見せた。
好印象だが甲子園によくいるようなレベル
そんな隅田は長崎県の出身で、高校時代は波佐見高校でプレー。2年秋から主戦投手となっている。
初めてそのピッチングを現地で見たのは3年夏に出場した甲子園の対彦根東戦だった。試合は波佐見が1点をリードして9回裏を迎えたが、隅田は2本のヒットと内野ゴロの間に追いつかれて降板。リリーフした投手も相手の勢いを止めることができずに、逆転サヨナラ負けを喫した。
当時のノートには隅田の投球について以下のようなメモが残っている。
「少し体が沈み込むフォームだが、流れがスムーズで腕の振りのよさが目立つ。ストレートはコンスタントに130キロ台後半をマークし、打者の手元で数字以上の勢いを感じる(この日の最速は143キロ)。
投げ終わった後に体が少し三塁側に流れ、抜けるボールが目立つのが課題。踏み出した右足の着地の安定感がない。
縦のスライダーは110キロ台後半だが鋭く変化し、面白いボール。チェンジアップもブレーキがある。フォームに目立った悪いクセがなく、体ができればまだまだよくなりそう」
左投手でストレートが140キロを超え。これだけのメモが残っているということからも好印象だった証拠だが、当時の隅田はドラフト候補として注目を集めていたわけではない。
その大きな理由の一つはまだまだ体が小さかったという点だ。
当時のプロフィールを見ると身長は172㎝、体重は66kgとなっており、かなり小柄だったことがよくわかる。言ってみれば甲子園では毎年いるようなレベルの投手という存在だった。
左投手で150キロ超え
高校卒業後は西日本工大に進学。1年春から登板していたものの、同じリーグでは日本文理大が圧倒的な強さを誇っていることもあって、下級生の頃はそこまで評判になっていなかった。
ようやく隅田の名前がプロのスカウト陣の間から聞かれるようになったのは3年秋になってからである。この年はコロナ禍で春のリーグ戦が中止になり、トレーニングできる期間が長かったことが奏功してか、ストレートが150キロに達していた。
大学生でも左投手で150キロを超えるのは貴重である。その実力を確かめるべく4年春の長崎で行われたリーグ戦、対久留米工大戦に足を運んだ。
この試合で隅田は立ち上がりに2つの四球を与えたものの、それ以降は圧巻のピッチングを披露。6回まで投げて被安打1、無失点と試合を作りチームを勝利に導いた。
当時のノートのメモにも、高校時代とは別人となった評価が記されている。
「下半身の強さは高校時代から明らかにアップ。しっかり軸足に体重を乗せてからステップし、体重移動のスピードも申し分ない。
上半身の力を上手く抜き、楽に投げて140キロ台中盤をマーク。数字よりもボールに強さを感じる。少し右手を高く上げるのもボールの角度につながっている。
(中略)
スライダーは縦と横の変化を上手く投げ分けており、どちらもストレートと同じ軌道から鋭く変化して勝負球として使える。
左打者には横の変化、右打者には縦の変化で仕留めるパターンが多い。118キロくらいのチェンジアップも腕を振って投げられ、ブレーキは抜群。打者は腰が砕けるような空振りが多い」
ちなみにこの時のプロフィールは177㎝、76㎏となっており、身長も体重も高校時代から大きく成長したことがよくわかるだろう。
ストレートの最速は147キロだったが、アベレージのスピードも十分高く、ドラフト上位候補と呼ばれるだけの力は十分に感じた。
それから約2ヵ月後には全日本大学野球選手権に出場。
初戦で0対1で敗れたものの、全国トップレベルの強豪である上武大を相手に14奪三振で完投と見事な投球を見せ、ドラフト1位という評価を確固たるものとした。
プロ入り後も1年目は援護に恵まれずに1勝10敗と大きく負け越したものの、それ以降の2年間では着実な成長を見せており、パ・リーグの左腕では屈指の存在となっている。
大学時代は76kgだった体重も現在では81kgまでさらに増加し、それに伴って安定感も増していることは間違いない。
4年目の今シーズンは自身初となる二桁勝利はもちろん、投手タイトル争いに絡んでくることも十分に期待できるだろう。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。