カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載の第54回は「老化細胞」。順天堂大学大学院医学研究科循環器内科の南野徹先生は2021年、老化細胞の表面に発現するタンパク質を標的とした「老化細胞除去ワクチン」の開発に成功。老化細胞が引き起こす加齢関連疾患との関係性、さらには抗老化治療の実現について話を聞いた。

“ゾンビ細胞”を狙い撃て!「老化細胞除去ワクチン」の衝撃
堀江貴文(以下堀江) 今回は、老化細胞のメカニズムを解析し「老化細胞除去ワクチン」の開発を進めてこられた順天堂大学の南野徹先生に、最新の研究内容をお聞きします。まず、老化細胞とは何かを教えてください。
南野徹(以下南野) ヒトは加齢とともに老化しますが、この原因には諸説あります。なかでも最近、注目されているのが「細胞老化説」です。細胞はゲノムに損傷が生じるとがん化しやすいため、がんを防ぐためにわざと“老化”して細胞の分裂を停止するのです。これが老化細胞(ゾンビ細胞)です。
堀江 いわば、防御機構ですね。
南野 はい。細胞が老化するとがんが抑制されるので、「がん抑制機構」ともいわれています。ですが、問題はその蓄積量です。老化した細胞は身体に溜まると「SASP因子」と呼ばれる炎症性サイトカインを分泌するように設計されていて、通常は免疫によって除去されます。しかし、加齢などでその機能が追いつかなくなると、老化細胞が体内に蓄積して慢性炎症を引き起こし、さまざまな疾患につながるのです。例えば、動脈硬化や心不全、糖尿病、アルツハイマー病などの加齢関連疾患が挙げられます。
堀江 老化が病気の引き金になるということですね。
南野 そうです。私たちは20年以上にわたり研究を続けるなかで、老化細胞の蓄積とそれに伴う慢性炎症が、加齢関連疾患の発症に関与することを明らかにしてきました。
堀江 その流れで「老化細胞除去ワクチン」の開発につながるわけですね。
南野 はい。現在、老化細胞を取り除く薬剤の開発が進んでいますが、副作用などの課題があり、実用化するには時間がかかります。そこで私たちは薬ではなく、免疫の力を使い老化細胞を選択的に除去する方法として、ワクチンに着目しました。
堀江 老化細胞に「なぜワクチン?」と疑問に思う人もいますよね。
南野 そうですね(笑)。カギとなるのは、老化細胞に特異的に発現する「GPNMB」という分子です。これは老化細胞のマーカーとなる老化抗原であり、この抗原に対する抗体を体内でつくることで、老化細胞のみを除去することができるのです。その仕組みに最も適したのがワクチンだったのです。
堀江 マウスの実験では、どのような結果が得られているのですか?
南野 ワクチンを投与するとお腹に溜まった老化細胞が除去され、血糖値や動脈のプラークの縮小が確認されました。また、高齢マウスでは身体機能の低下が抑えられ、寿命が延びることも認められています。
堀江 ワクチン以外にも、糖尿病治療薬として知られているSGLT2阻害薬の研究も進めているそうですね。
南野 SGLT2阻害薬は、腎臓で糖の再吸収を抑えて糖を尿と一緒に排出するため、体重減少や血圧低下作用も期待でき、心不全・腎不全にも効果があると報告されています。カロリー制限すると寿命が延びるということは以前から知られていますが、マウスを使った実験ではカロリー制限して寿命が延びたのと同時に、蓄積した老化細胞が抑制されることもわかっています。そこで私たちは、SGLT
2阻害薬に老化細胞除去効果があるのではないかと考え、調べているのです。
堀江 従来の老化細胞除去薬とアプローチが異なると、どのような違いがあるのでしょうか?
南野 これまでの老化細胞除去薬は抗がん剤として使用されていた薬剤が多く、老化細胞を直接アタックしていたため、血液に対する副作用などの懸念がありました。一方、SGLT2阻害薬は、間接的なアプローチで自分たちの免疫系を活性化し、老化細胞を認識させて除去します。そのため、副作用が比較的抑えられるという点があります。
堀江 SGLT2阻害薬は、アルツハイマー病の改善も期待されていますね。
南野 SGLT2阻害薬は本当にいろいろな作用があるのです。ただ、そのメカニズムはまだ解明されていません。
堀江 SGLT2阻害薬の臨床試験の進捗はいかがですか?
南野 75歳以上の高齢者を対象に、老化マーカーの変化を評価する試験を進めています。
堀江 期間はどれくらい?
南野 現在50人(コントロール群と実薬群各25名)を予定していて、1年ほどの試験になりますが、現在はその中間地点まで差しかかっています。
堀江 なるほど。でもこれで、最終的に無限に寿命が延びるわけではないんですよね。
南野 はい。我々の研究・治療の目的は、「健康寿命を延ばす」ことです。老化細胞を除去する能力と、除去した後に組織が再生する能力を高め、いわゆる、フレイル期間を短縮することを目指しています。
堀江 “寿命そのもの”ではなく、“質”を高める方向ですね。
南野 そのとおりです。我々は、ヒトの寿命は最大で120歳くらいだろうと考えています。ただ、その前に、10年ほどの不健康(フレイル)な時期があるので、それを短縮・解消するイメージです。
堀江 老化細胞除去ワクチンのほうは、実用化に向け、今どのフェーズにあるのですか。
南野 ヒトに使えるワクチンをつくる技術的なハードルはそれほど高くないのですが、問題は安全性、有効性の検証です。
堀江 それもできそうですか?
南野 ほぼ完成段階まで来ていて、次のステップとしてサルでの実験を控えています。ただ、完全にヒトではないですし、短期的なものしか見られないので、結局ヒトでやらないとわからないのです。
堀江 確かに。どれくらい売れるか、というのもありますね。
南野 そうですね。ですから、走りだすまでの助走期間がその分長くなるという感じです。
堀江 ワクチンが実用化されれば、加齢関連疾患の治療に大きな変化をもたらしそうですね。このあたりの詳細を次回、聞かせてください。

南野徹/Tohru Minamino
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授。慢性炎症を引き起こして病気の原因となる「老化細胞(ゾンビ細胞)」を除去するワクチンを開発した第一人者。2021年にGPNMBを標的とした老化細胞除去ワクチンを発表。健康寿命を延ばすための抗老化治療を目指し、研究を行っている。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』のほか、『日本医療再生計画』など著書多数。

