「投げれば抑える」――そんな言葉が大げさではないほど、2026年のプロ野球で圧倒的な投球を続けているのが、阪神タイガースの高橋遥人だ。3試合連続完封、驚異の防御率0.38。度重なる故障と育成契約を経験しながら、なぜ“球界最強左腕”へと進化を遂げたのか。その原点を、高校・大学時代の投球メモとともに振り返る。

3試合連続完封。2026年のプロ野球を支配する左腕
2026年のプロ野球で最も圧倒的なピッチングを見せている選手と言えば阪神の高橋遥人になるだろう。
今季初登板となった3月28日の巨人戦で3安打完封勝利をあげると、続く4月5日の広島戦も勝ち星こそつかなかったものの6回を投げて1失点と好投。そしてそこから4月12日の中日戦、29日のヤクルト戦、5月6日の中日戦と3試合連続完封勝利をマークして見せたのだ。
これはプロ野球全体では2018年の菅野智之(巨人)以来で、さらに阪神では1966年のバッキー以来60年ぶりの記録である。5月13日のヤクルト戦では4試合連続完封は逃したが、ここまで6試合に登板して4勝0敗、防御率は0.38という驚異的な成績を残しているのだ。
高校時代から光っていた“楽に腕を振れるフォーム”
そんな高橋は静岡県の出身。常葉橘中学を経て常葉橘高校(現・常葉大橘)へ進学すると、2年の夏には背番号10で甲子園に出場し、チームは初戦で敗れたもののリリーフで4回1/3を投げて無失点と好投を見せている。
当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「まだ細身だがフォームのバランスが良く、楽に腕を振って投げられる。左投手らしいボールの角度もあり、右打者の内角に決まるボールも素晴らしい。
変化球はまだ腕の振りが弱く、目立つボールないが、全体的なまとまりある。体ができてくればまだまだ速くなりそう」
ちなみにこの試合での高橋のストレートの最速は136キロで、当時の高校2年生にしてはまずまずの数字だが、そこまで突出したものではなかった。
高校3年時にはプロ志望届を提出したものの指名はなく、亜細亜大に進学している。
制球難に苦しんだ大学時代。それでもスカウトを魅了した理由
大学でも1年秋には早くもリーグ戦デビューを果たしたが、そこからの歩みは決して平たんなものではなかった。
球速は高校時代よりもアップしたものの、逆にコントロールは不安定になり、四死球から自滅するシーンも目立った。3年秋にようやく先発に定着して規定投球回数に到達。防御率は2.38とまずまずの数字を残したが、1勝4敗と負け越している。
最終学年も課題だった制球難はなかなか改善せず、投げてみないと分からない投手という印象が強かった。ただその一方で、良い時の投球は抜群だったことも確かだ。
特に強く印象に残っているのが、4年春の開幕戦、専修大との試合だ。
相手の先発投手もドラフト候補として評判だった高橋礼(現・巨人)ということもあって、多くのスカウトが視察に訪れていたが、その前で高橋は立ち上がりから安定したピッチングを披露。
3回にヒットと四球からピンチを招いて犠牲フライで先制点を奪われたものの、7回まで連打を許さずこの1失点のみに抑え、見事にドラフト候補対決を制して見せた(5対1で亜細亜大が勝利)。
この試合を記録したノートには、高橋の投球について以下のように書かれている。
「少しインステップして窮屈に見えるが、上半身の力みがなく、ゆったりと楽に腕が振れるのはさすが。右足を上げた時の姿勢が安定し、肘もスムーズに高く上がるため上背以上のボールの角度があり、低めの勢いも素晴らしい。他の投手とは少しボールの質が違う。
スライダーでカウントがとれるようになったのも大きい。序盤はスライダー中心で、中盤以降はフォーク、チェンジアップも混ぜて1試合トータルを考えての組み立てができるようになったのも成長」
2012年のドラフト2位で指名された時には正直少し順位が高いと感じたが、この日の投球だけを見れば上位指名にふさわしいピッチングだったことは確かだ。阪神としても良い時を評価しての2位指名だったのではないだろうか。
育成契約、長期離脱を経て辿り着いた“覚醒”
プロ入り後も1年目に2勝、2年目には3勝9敗と負け越しながらも100イニング以上に登板するなど順調なスタートを切ったように見えた。しかし、その後は度重なる故障に見舞われて長期離脱。
2022年からは2年間登板がなく、一時は育成契約にもなっている。
ただそんな長いリハビリ中にもしっかり体を鍛えてフォーム、ボールを見直してきたことが、2026年の飛躍に繋がっていることは間違いないだろう。
ちなみに規定投球回数をクリアして防御率0点台を記録したのは、1970年の村山実(阪神)の0.98が最後だが、現在の高橋の投球を見ればそれに迫る成績を残す可能性も高いはずだ。
このままの状態を維持して、球史に残るような記録を打ち立ててくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

