PERSON

2025.12.18

チームトップ安打、盗塁王、5年連続ベストナイン、ゴールデングラブ賞…阪神・近本光司、淡路島出身の無名選手からの飛躍

圧倒的な強さでセ・リーグを制した阪神。その中心にいるのが、不動のリードオフマン・近本光司だ。淡路島出身の無名選手はいかにして球団記録を塗り替え、リーグ屈指の外野手へと成長したのか。

阪神・近本光司はなぜ7年間安定して結果を出し続けられるのか
大阪ガス時代の近本光司。2018年、第89回都市対抗野球。

阪神・近本光司が不動のリードオフマンになるまで

2025年、圧倒的な強さでセ・リーグを制した阪神。そのなかで、不動のリードオフマンとして活躍しているのが近本光司だ。

プロ入り7年目となる今シーズンも開幕からヒットを量産すると、6月7日のオリックス戦では通算1000安打を達成。ちなみに861試合目での達成は初代ミスタータイガースと呼ばれた藤村富美男を抜いて球団最速記録である。

最終的にチームトップとなる160安打を放ち、32盗塁で6度目の盗塁王を獲得。5年連続となるベストナインとゴールデングラブ賞にも輝いた。

無名だった高校・大学時代

近本は淡路島の出身。高校時代は兵庫県立社高校で外野手兼投手としてプレーしていたが、全国的には無名の存在だった。筆者が初めてプレーを見たのは関西学院大3年春の対立命館大戦だ。

1番・センターで出場すると、第1打席にショートへの内野安打で出塁。ヒットはこの1本に終わったものの、二度あったセカンドゴロの一塁到達タイムはいずれも3.98秒をマーク。当時からそのスピードには目立つものがあった。

ただ一方で、打撃の力強さは物足りないものがあり、正直なところ、将来プロで不動のレギュラーとして活躍する選手には見えなかったことも確かである。3年秋の同志社大戦も現地でプレーを見たが、内野安打1本を放ったのみで、強いインパクトを残すことはなかった。

社会人時代の都市対抗で見せた“覚醒”

ようやくドラフト候補として強く意識するようになったのは、社会人2年目になってからである。しかも、そこには外的な要因があった。

都市対抗開幕前、注目選手として大阪ガスの別の選手を取り上げた記事を書いたのだが、それを目にしたチーム関係者から、その選手ではなく近本にぜひ注目してほしいという連絡があったのだ。

その言葉どおり、近本はこの都市対抗で驚きのプレーを見せることとなる。全試合5番・センターとして出場し、5試合で21打数11安打、1本塁打、4盗塁、打率.524。見事な成績でチームを優勝に導き、MVPにあたる橋戸賞も受賞したのだ。

特に準決勝のJR東日本戦では第1打席でレフトフェンスを直撃するツーベースを放つと、同点で迎えた8回には決勝のソロホームランをレフトスタンドに叩き込む大活躍を見せており、この試合を記録したノートには以下のようなメモが残っている。

とりわけ印象的だったのが、準決勝・JR東日本戦。第1打席でレフトフェンス直撃のツーベースを放つと、同点で迎えた8回には決勝のソロ本塁打をレフトスタンドへ叩き込んだ。

「体は大きくないが、大学時代と比べて明らかにスイングが力強くなり、ヘッドスピードもアップした印象。少しバットのヘッドが投手の方を向いても外回りすることなく鋭く振り出すことができており、どのコースに対しても最短距離でバットが出ている。

脚力も素晴らしいものがあるが、決して走り打ちすることなく体を残してしっかり振り切り、左方向への打球もよく伸びる。140キロ台中盤のストレートにも全く力負けすることなく、体の小ささを感じさせない。

(中略)

センターの守備も落下点に入るスピードが素晴らしい。走塁も一塁を回ってからの加速、盗塁のスタートの思い切りの良さも申し分ない。肩の強さはそれほど目立たないが、センターを守れるだけの守備力は十分」

プレー内容以上に強く印象に残ったのが、「5番」を任されていた点である。

社会人の強豪チームにおいて、クリーンアップを打つような選手は大半がパワー自慢の選手で、体も大きいことが多い。そのなかで170cmの近本が5番に座り、強打者顔負けの打球をしかも左方向に長打、ホームランを放ったことで、よりその存在が際立って見えた。この点については近本が阪神に入団した後に、他球団のスカウトも評価していたと聞いている。

そしてプロ入り後の近本が素晴らしいのは、とにかくその攻守の安定感である。これまでの7年間すべてで規定打席に到達しており、安打数、盗塁数、打率のすべてにおいて高い成績を残し続けているのだ。ルーキーイヤーから7年連続で130安打以上を放ったのも長嶋茂雄(元・巨人)以来、プロ野球史上2人目である。

シーズン中には国内フリー・エージェント(FA)権を取得し、その去就が注目されたが、5年という長期契約で残留することとなった。この決断には歓喜した阪神ファンも多いことだろう。

2026年以降もその安定したプレーぶりで攻守にチームを牽引する活躍を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

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