PERSON

2024.12.26

侍ジャパン4番の阪神・森下翔太が、プロ1年目から成績を残せた理由

プレミア12の初戦から9試合連続で4番を務め、大会最多得点を獲得した阪神・森下翔太がスターとなる前夜に迫った。

大学時代の森下翔太
大学時代の森下翔太。

侍ジャパンの4番

プレミア12では準優勝に終わり、惜しくも前回大会に続く連覇を逃した侍ジャパン。

ただ多くの選手がコンディション不良で出場辞退するなかで、決勝を除くオープニングラウンド、スーパーラウンドの8試合すべてで勝利。新たな戦力の発掘という意味ではプラスの面も多かったことは確かだ。

そんななかで、野手で特に存在感を示したのが森下翔太(阪神)である。

プロ入り2年目ながら全試合で4番を任されると、28打数10安打1本塁打9打点、打率.357という見事な成績を残したのだ。

構えた時の雰囲気が1人だけ違う

そんな森下は神奈川県の出身で、高校では地元の強豪である東海大相模に進学。1年夏の神奈川大会ではいきなり4番を任されて話題となった。

初めて実際にプレーを見たのは2年の6月に行われた練習試合だった。

相手の柳ヶ浦のエースだった田中瑛斗(現・巨人)がこの年のドラフト注目選手だったということもあって、バックネット裏には多くのスカウト陣が集結。森下は4番、センターで出場してタイムリーを含む3安打という見事な活躍を見せたのだ。

当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「下級生だが構えた時の雰囲気が1人だけ違う。バットをしっかり立てて構え、タイミングをとる動きが小さく、ボールを長く見てシャープな振り出しでとらえられる。

パワーもあるが力任せではなく、スイングの形が安定しているのがいい。外角の厳しいボールに対してもしっかり踏み込んで右方向にも強く打て、打球の速さも申し分ない。

(中略)

ヒットでも足を緩めることなく一塁到達は4.4秒台で、次の塁を狙う姿勢も目立つ」

ちなみに田中はこの年のドラフト3位で日本ハムから指名されてプロ入りしており、そんな投手を相手に結果を残したこともあって森下の印象は強く残っている。

打率1割から大学4年の打撃改革

高校卒業時にも注目を集めていたがプロ志望届は提出せずに中央大に進学。1年春からいきなり3割を超える打率を残して2本塁打を放つ活躍を見せ、その年の日米大学野球選手権での大学日本代表にも選出された。

ここまで見れば順風満帆のように見えるが、その後の森下の道のりは決して平坦だったわけではない。1年秋からは厳しいマークもあって成績が低迷。2年秋、3年春はいずれも打率1割台に終わっている。

ようやく本来の打撃が戻ってきたように見えたのは4年生になってからだった。

開幕週となった国学院大とのカードではチームは連敗を喫したものの、2試合連続でホームランを放つ。実際にこのシーズンでプレーを見たのは次の青山学院大とのカードの第2戦だったが、この試合でもツーベースを含む2安打1打点の活躍で中軸として十分な活躍を見せたのだ。

当時のノートにもこう書かれている。

「まだ少しスイングの軸がぶれるのは気になるが、振る力とヘッドスピード、打球の速さは大学生全体でも1,2を争うレベル。

厳しいマークのなかでも積極的に振ることができており、昨年までのような迷いが消えたように見える。

(中略)

鋭く左方向に引っ張った後の打席でボールを呼び込んで右中間に持っていくことができたのは対応力が上がった証拠。チャンスの場面でもしっかりボールを見極めて四球を選ぶ。今の状態が維持できれば成績も残りそう」

実際このシーズン、森下はキャリアハイとなる打率.311、3本塁打、11打点という成績を残して1年春以来となる大学日本代表入りも果たすこととなる。

国際大会前の強化試合で死球を受けて右手を骨折し、大会に出場することはできなかったが、この春の活躍が最終的にドラフト1位という高い評価に繋がったことは間違いないだろう。

対応力の進化

そしてプロ入り後も1年目から成績を残しているが、そこにはさらなる進化があるという。当時の他球団の担当スカウトはプロ入り後の森下の打撃についてこう話していた。

「左足の上げ方が小さくなって、追い込まれてからも対応できるようになりましたね。大学の時はあんな“すり足”の動きは見せていなかったです。

元々振る力はありましたけど、あそこまでの対応力があるとは思いませんでした。プロでも結果を残せているのもうなずけますね」

実際プロでの1年目の成績と比べても2年目はすべてにおいて改善しており、16本塁打、73打点はいずれもチームトップの数字だった。それもプロ入り後の進化の証明と言えるだろう。

侍ジャパンの4番として結果を残したことで2025年はさらにファンからの期待が高まることは間違いない。

阪神の中軸を打ち続けることは並大抵のプレッシャーでないことは確かだが、そんな重圧にも打ち勝ってさらに成績を伸ばしてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

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