PERSON

2023.11.30

38年ぶりの日本一に貢献、無名だった岩崎優が阪神の守護神になるまで

2023年の最多セーブに輝いた、阪神・岩崎優。左投手が30セーブ以上をマークするのは球団史上初の快挙となるが、アマチュア時代は決して輝かしい実績があったわけではない。阪神日本一の立役者の一人、岩崎がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

2020年東京オリンピック・野球の準決勝日本vs韓国、6回表途中に日本2番手で登板した岩崎。

阪神史上初、最多セーブに輝いたクローザー

2023年、実に38年ぶりとなる日本一を達成した阪神。

投手、野手ともに多くの選手が活躍を見せたが、ブルペン陣の中心として欠かせない存在だったのが岩崎優だ。

2022年は新外国人投手のケラーの不調もあって中継ぎから抑えに回り、25セーブをマーク。2023年も開幕当初のクローザーだった湯浅京己が故障で離脱すると、再び代役として9回を任され、前年を上回る35セーブ、防御率1.77という見事な成績でチームの日本一に大きく貢献し、胴上げ投手にもなった。

ちなみに阪神の左投手が30セーブ以上をマークするのは史上初のことである。

無名だった高校・大学時代

そんな岩崎だが、アマチュア時代は決して輝かしい実績があったわけではない。

高校時代はサッカーの名門として知られる静岡県立清水東高校でプレー。3年夏はエースだったものの、静岡大会の2回戦で敗れており、全国的にもまったく無名の存在だった。

進学した国士舘大でも2年春からリーグ戦に登板しているが、在籍した4年の間に一度も一部昇格を果たすことはできなかった。

そんな背景もあって、注目を集め始めたのは遅く、関係者の間で岩崎の名前が出始めたのは最終学年になってからだった。

筆者が実際にピッチングを見たのも4年春のリーグ戦、2013年4月30日に行われた東洋大との試合だった。この試合で先発した岩崎は6回を投げて被安打2、8奪三振で2失点と好投したものの、味方の援護がなく負け投手となっている。

当時のノートを見ると、以下のようなメモが残っていた。

「ステップする前に軸足の膝をかなり深く曲げ、沈み込んでから体重移動していくスタイルのフォーム。少し全体的なスムーズさに欠け、体重の後ろ残りが気になる。良いのはゆったりとしたモーションで、急な動きがないところ。体をひねる動きや左肩が下がる動きもなく、下半身をしっかり使って腕を振ることができている。

(中略)ストレートはコンスタントに140キロ台をマークし、少し腕が遅れて出てくるので打者は差し込まれやすい。肘の位置が低く、上背(当時のプロフィールは184cm、78kg)のわりにボールの角度はないが、球持ちの長さは長所」

軸足の膝を深く曲げ、沈み込む動きがあり、肘の位置が低く、球持ちが長い、という記述は現在も変わらない岩崎の特徴であることがよく分かるだろう。

ちなみにこの日の最速は144キロと大学生の投手としては驚くような数字ではないが、大型の左投手でこれだけのスピードがあれば注目されてもまったくおかしくはない。

しかし当時の岩崎には大きな課題があったことも確かだ。それはコントロールと変化球である。

この試合でも3回まではほぼ完璧な投球を見せていながら、4回には3四死球でピンチを背負い、この日唯一許した長打で2点を奪われてこれが決勝点となっている。

当時のノートにも「変化球はスライダー、チェンジアップが中心だがどちらも精度は低い。確実にカウントをとれるボールがなく、4回に突如制球を乱して崩れる」という記述が残っている。

4年秋のシーズンにも投球を見る機会はあったが、ストレートでは数字以上に打者を押し込むことができるものの、変化球ではなかなか勝負できないという春に受けた印象が大きく変わることはなかった。

プロ生活10年でブルペンを支える大黒柱に

大舞台での実績もなく、このような課題もあったため、ドラフト指名順位は6位とプロ側の評価も決して高いものではなかった。ちなみにこの年に1位指名を受けた岩貞祐太(当時・横浜商科大)は大学日本代表にも選ばれるなど全国でも名前の知られた選手であり、同じサウスポーでも岩崎とは知名度も期待値も雲泥の差だったことは間違いない。

ドラフト会議が終わった後に、阪神担当の記者から岩崎については詳細がよく分からないので、どんな投手か教えてほしいと聞かれたことをよく覚えている。

それでも岩崎は1年目から一軍の戦力となると、リリーフに転向した4年目の2017年からは7年連続で40試合以上に登板。冒頭でも触れたように今では不動のクローザーとなっている。

そうなることができたのもプロ入り後に大学時代の課題を克服し、さらに武器だったストレートに磨きをかけたことが大きかったはずだ。

2023年でプロ生活10年が終わり、ベテランと呼ばれる年齢となったが、そのピッチングからはまだまだ勢いが感じられる。来年以降もブルペン陣を支える大黒柱として、長く活躍を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西村尚己/アフロ

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