「静岡・焼津が美食の地、バスクのようになっている」ミシュランと並ぶ影響力を持つレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』に掲載される店が、静岡・焼津に年々増えていることもあって、見城徹は熱くそう語る。最強にして超最新レストランガイド「ゲーテイスト2025」。

見城徹が足しげく通う日本のバスク
「全国に名を轟かせる天ぷらの『成生』や驚異的に美味しい『温石』だけでなく、『なかむら』『馳走 西健一』『シンプルズ』も予約がなかなか取れない。そして今回推薦する『日本料理 FUJI』も然り。なぜこのような現象が起こっているかといえば、『サスエ前田』の前田尚毅さんがいるからです」
前田氏は、焼津にある老舗鮮魚店の5代目。さまざまなメディアで取り上げられ「魚の天才」と賞されている人物だ。
「駿河湾の魚を愛するが故に、最も美味しい状態でその命をまっとうさせるにはどうしたらいいのか日々知恵を尽くし、最善を尽くしている熱狂の人です」
全国の一流料理人が切望する美味なる魚の宝庫、駿河湾。しかしながら前田氏は、駿河湾ブランドに甘んじることがない。魚にストレスをかけない漁法や運搬方法を漁師と連携。締め方も独自の工夫を凝らし、「前田さんが仕立てると劇的に美味しくなる」と国内外のトップシェフに言わしめている。
この最上の味を県外ではなくこのエリアで体験してほしい。そして地元の活性化にも貢献したいと考えた前田氏。2007年から『成生』の志村剛生氏と二人三脚で日本一の天ぷらを目指し試行錯誤を重ね、駿河湾の今日の一番の魚を最高の技術で味わえる店を作り上げたのだ。
「『成生』の成功に手応えを感じた前田さん。いい店を増やせば、スペインの美食の地、バスクのように食が旅の目的になる“ガストロノミーツーリズム”が焼津や静岡で現実のものになると考えた。そこで『温石』『シンプルズ』の料理人ふたりにも声をかけ、志村さんと同様、毎朝『サスエ前田』に魚を仕入れに来てもらい、一緒に魚をおろしたり、最善の仕立てをアドバイスしたり。さらに月に何度も店に通い、味を確かめて店の成長に関わり続けているんだ」

その前田氏の秘蔵っ子、4人目として加わって7年になるのが『FUJI』の藤岡雅貴氏だ。
「藤岡さんの料理は、やるべきこと、やらざるべきことが見事にわかっていることに驚かされました。最低限の手で最高の味に。清らかで潔い。引き算の料理の白眉です。『成生』に行くならばもう1泊して『FUJI』にも行くべき。2024年のゲーテイストで紹介した『成生』の一番弟子『なかむら』や『馳走 西健一』も秘蔵っ子に加わっているから、通うしかないよね」
前田氏が駿河湾の魚を地元のお店で美味しく食べてもらいたいと365日、20年以上種を撒き続けた努力が結実。日本のバスク、静岡・焼津は世界的な美食の地として認知される日も、そう遠くないかもしれない。
静岡・栄町「日本料理 FUJI」
魚の個性を活かし切る火入れの妙技に驚嘆
大阪の大学に通っていたが、2年で中退して料理の道を志した藤岡雅貴氏。京都、東京の店で経験を積んだのち、2014年に出身地である静岡市に戻り独立した。開業当初は全国の食材を使っていたが、もっと地元の食材にフォーカスしたいと思いながらも突破口が見つからず悶々としている時期に前田氏との偶然の出会いに恵まれ、以降毎朝前田氏の元に通い続けることに。
食材の個性を引きだす手法も劇的に変わり「試行錯誤はあるもののやるべきことが明確になってきた」と話す藤岡氏。その日に獲れた最高の魚や野菜を仕入れたところで作る料理を決めていく。その研ぎ澄まされていく感性を楽しみに通うファンも急増中だ。
この記事はGOETHE 2025年9月号「特集:陶酔レストラン ゲーテイスト2025」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら