1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウェアを生み出し続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた仕事人たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「人生を彩る眼鏡」の第24回は高木酒造の十五代目蔵元・髙木辰五郎。「人生を彩る眼鏡#22」
PERSON 74
高木酒造 十五代目蔵元/髙木辰五郎

光る一枚の屏風でありたい
入手困難ゆえ、幻の日本酒ともいわれる「十四代」。1615年より続く高木酒造の十五代蔵元である髙木辰五郎さんは、この銘酒で日本酒業界に変革をもたらし、今なお業界を牽引し続けている存在だ。
視力が悪いわけではないが、実は髙木さんにとって眼鏡は欠かせないアイテムなのだという。
「普段、とにかくずーっとお酒のことばかり考えているんです。でも、眼鏡をかけると頭が切り替わり、仕事から離れてリフレッシュできる感覚があって。意外とそうしたときに、新しい発想が生まれたりするんですよね。僕にとっては、眼鏡をかけることがオフのスイッチになっています」
髙木さんは、蔵元の当主であり酒造りの全工程を統括する“蔵元杜氏”の先駆け的存在でもある。「蔵にいるときは、基本的に作業着」ゆえに、仕事から離れるときはスタイリッシュに装う。今回の洒脱なスーツのスタイリングもすべて私物によるものだ。
着こなしのアクセントになっている太縁のフレームは、EYEVAN 7285の「363」。縁のエッジィな仕上げにより、フレームの輪郭を際立たせたデザインが特徴。レンズは薄いブラウンをセレクトし、サングラスとして仕立てた。
「眼鏡の印象が強いので、オン・オフの切り替えによりメリハリが出そうですね。薄いカラーレンズを入れるのは初めてですが、これならドライブから買い物までずっとかけっぱなしでいられそうです。それに、眼鏡をかけているときよりも、“今、自分はリセットされている状態です”というのが、周りに伝わりやすいかもしれない(笑)。印象を変えることで、また新たな酒造りのアイデアが生まれるのではと楽しみにしています」
1994年、それまで日本酒といえば淡麗辛口が主流だった時代に、髙木さんは米本来の旨味や甘みを湛えた芳醇旨口の「十四代」を造り出し、25歳にして一躍注目を集めた。
「それからの30数年は、本当にあっという間でした。酒造りは本当に緻密で、自分の舌との戦いです。出来映えをダーツの的に例えれば、以前よりは平均的に中心に当たるようになってはいますが、今でもど真ん中に当たったと思えるものは、百何十本のうち10本あるかというぐらいなんです。でも、だからこそやりがいがあるし、『国酒』を造っているのだという誇りも感じています」
老舗が続いていくためには、時にドラスティックな変革も必要だが、本質を探るために歴史に学ぶことも忘れない。先人たちが残した資料を紐解くと、そこには必ずヒントがあるのだという。“今の時代はこうだから”と早計に突き進まず、「常に歴史を振り返りながら、半歩だけ前に進んでいくのが重要」だと髙木さんは言う。
「伝統産業において一番大切な仕事は、次の代につなぐことです。売れるからと事業を拡大し過ぎたりせず、次の代へスムーズにバトンタッチできる形にしておくことが大切だと考えています。日本酒の国内需要が減少するなか、海外の方にその魅力を知っていただくことは大事ですが、海外に販路を広げるのではなく、あくまで山形まで飲みに行ってみたいと思っていただける蔵でありたいですね。扇は広げすぎると倒れてしまうので。それよりは、光る一枚の屏風でありたいと思っています」
髙木辰五郎/Tatsugoro Takagi
1968年山形県生まれ。東京農業大学醸造学科(現醸造科学科)卒業後、東京の高級スーパーでバイヤーに。1993年に帰郷し高木酒造にて酒造りを担う。翌年幻の酒と呼ばれる「十四代」を発表。当時、淡麗辛口が主流ななか、芳醇旨口の風味は日本酒に革新をもたらした。2023年に十五代目髙木辰五郎を襲名。
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