1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウェアを生み出し続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた仕事人たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「人生を彩る眼鏡」の第26回は建築家の田根剛。「人生を彩る眼鏡#26」
PERSON 76
建築家/田根剛

“記憶のある未来”をつくっていきたい
パリを拠点に、国際的に活躍している建築家の田根剛さん。2006年、26歳にしてエストニア国立博物館の設計を手がけ建築の世界へデビュー。日本では、2012年に行われた新国立競技場のコンペにて、ファイナリストに選出された「古墳スタジアム」の設計案で注目を集めた。
「普段はコンタクトですが、自宅ではほとんど眼鏡ですね。眼鏡って、かけると顔の印象が大きく変わってしまう感じがして、実はこれまでしっくりくるものが見つからなかったんです。でも、今回初めてかけたいと思えるものに出合えました」
そんな記念すべき1本となったのが、10 eyevanの「no.5」。佇まいは極めて繊細ながら、真珠貝製のノーズパッドやシルバー925製のテンプルエンドなど、オリジナルパーツの質感の高さが映えるメタルフレームだ。
「基本的に、シンプルなものが好きなんです。身につけていて自然体でいられます。美しくシンプルなものは、その形に至るまでに作り手の思考や知恵や思い、使いやすさへの配慮など、意匠や機能が複層的に考えられていますよ。そうしたものに美意識を整えられる感じがします」
また、今回は初めて淡いカラーレンズにもトライ。ヨーロッパの日差しは強そうだが、意外にもこれまでサングラスは使ってこなかったそう。
「無意識のうちに、色を自分の目で見たいと思っていたのかもしれません。フランスは色に対しての意識が本当に高いので、色の微妙なニュアンスをプロでなくても皆が気にするし、見分けることもできるんです。特に赤に対する見方は厳しくて、赤を中心に色彩のバランスが決まっていくと言ってもいいぐらい。そうしたこともあり、今回レンズに色を入れるのは初めてなんですが、ここぞという交渉のときなどにかけたら良いかもしれないですね」
現在、世界各地でさまざまなプロジェクトが進行中。日本では、2033年完成予定の「帝国ホテル 東京 新本館」のデザインアーキテクトを担当している。そんな田根さんが設計の際に足がかりとするのが、「場所の記憶」だ。場所がもつ記憶を丹念にリサーチ、考察し、それを飛躍させ未来へつながる建築をつくるというアプローチが、高く評価されている。
「今の時代は、人の一生よりも街の風景が変わるサイクルのほうが早くなってしまっています。でも、本来は時代に合わせて作り足したり、変化させたりしながら受け継いでいくのが建築の豊かさだったはずで。たとえば、パリのノートルダム寺院は、これまで何度も燃えたり壊れたりしても、修復されてノートルダム寺院であり続けています」
過去からのつながりを分断し、すべてを新しく建て替えてしまう傾向にある現在。だが、建築を通して場所の記憶が受け継がれていけば、文化の継承は可能であると、田根さんは言う。
「自分が建築でつくりたいのは、その場所の記憶から切り離された“新しい未来”ではなく、“記憶のある未来”です。場所は、以前そこに何があったか、誰が住んでいたかを覚えています。そして記憶は、人と一緒に未来へ向かっていくことができる。だから、発掘した記憶を建築によって継承することで、過去と未来をつなぐことができたら……。それが、自分が建築家としてできる公共的な役割ではないかと思っています」
田根剛/Tsuyoshi Tane
1979年東京都生まれ。ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects代表。フランス・パリを拠点に活動。主な作品に「エストニア国立博物館」「弘前れんが倉庫美術館」「アル・サーニ・コレクション財団美術館」などがある。2036年完成予定の「帝国ホテル 東京 新本館」デザインアーキテクトを担当している。
問い合わせ
アイヴァン PR TEL:03-6450-5300