1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウェアを生み出し続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた仕事人たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「人生を彩る眼鏡」の第25回は俳優・山﨑努。「人生を彩る眼鏡#25」
PERSON 75
俳優/山﨑努

[衣装協力]壱の蔵 TEL:03-6450-5701
見せたいのは、うまい芸ではなく“生き生きとした芸”
「こいつは、何者なんだろうね」
撮影後、自身の写真を見て山﨑努さんはそうつぶやいた。洒脱な和装に、「普段はあまりかけることがない」というサングラスのスタイリング。硬派になり過ぎない、繊細でミニマルな意匠のサングラスが、円熟味のある佇まいを引き立たせている。
日頃は、シンプルなメタルフレームを愛用中。グラスコードをつけるのが、定番のスタイルだ。
「僕は近眼だから、本を読む時には眼鏡を外すんです。それで眼鏡をなくさないようにと、コードをつけるようになりました。コードがあるから、もう眼鏡をサっと放るように外すクセがついてしまって、つけ忘れた日は眼鏡を落としちゃうんですよ(笑)。それでも大したもんでね、今の眼鏡は使い始めてもう30年ぐらいになるかな」
役の上でも、これまでさまざまな眼鏡やサングラスをかけてきた。なかでも、山﨑さんが一躍注目を浴びるきっかけとなった黒澤明監督作品の『天国と地獄』では、大きな黒いサングラスをかけて夜の街を歩く姿で鮮烈な印象を残した。
「あれは、黒澤さんからの提案でした。リハーサル直前の打ち合わせで、『サングラスをかけたらどうか』って言われて。最初の設定にはなかったんだけど、結果的にあれはものすごく効いてますよね。実は今日の和装にサングラスという案も、衣装合わせをしている間にスタッフの皆さんから出てきたものなんです。自分で考えると独りよがりになるけど、こうやって皆で揉んで生まれたものは、強い。操上さんと久しぶりに会えたってこともあるけれど、カメラを前にしたら血が騒いできました(笑)」
冒頭の言葉は、そんなライブ感のある撮影のなかで生まれた写真に対してのひと言だ。
「操上さんの写真には何か人を惹きつけるものがあったから、思わずあの言葉が出てきましたよね」と撮影を振り返るが、言葉というのは、こうした突然湧き上がってきた情動、内面の動きが外に出てくるものであり、本来人生には、芝居のようにあらかじめ決められた瞬間などは存在しない。そのため、生きのいい芝居をするためには、白紙の状態で臨むことが大切なのだと山﨑さんは話す。
「パフォーマンスは生き物ですから、過去の成功例にこだわっていたら、フレッシュなものは出てこない。習字と同じで、上手く書けたものをそのままなぞったって、良さが死んでしまうでしょう? だから、姑息な技術は覚えない。覚えても忘れちゃうことですよ」
俳優人生60余年。そのキャリアを誇るのではなく、これまで積み上げてきた経験をあえて毎回リセットして現場に臨むことを心がけてきた。
「要するに、いつまでもアマチュアでいたいんですよ。プロになりたくないんです。見せたいのは、うまい芸ではなく、生き生きとした芸。絶えず100%の成功なんて狙ってできるものではないんですから、やっぱり危険を犯してでも冒険しないとダメですね」
山﨑努/Tsutomu Yamazaki
1936年千葉県生まれ。俳優座養成所を経て、1959年文学座に入団。1960年舞台『熱帯樹』でデビュー。1963年映画『天国と地獄』の誘拐犯役で注目を集め、以降、幅広いジャンルで活躍。主な出演作に、映画『八つ墓村』『影武者』『お葬式』『おくりびと』『モリのいる場所』、舞台『ヘンリー四世』、『リア王』、ドラマ『必殺仕置人』など。2000年紫綬褒章、2007年旭日小綬章受章。
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