日本におけるアストンマーティンの高級レジデンス第1弾、「N°001 MINAMI AOYAMA」を共同で開発したのは、創業2019年のVIBROA。プロジェクト参画の経緯やこだわりについて、VIBROA 代表取締役の吉田利行氏に伺った。

VIBROA 代表取締役。1973年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、銀行や投資ファンド会社に勤務し、不動産投資などの職務経験を積む。2019年に高級不動産を開発するVIBROAを設立、アストンマーティンの日本のおける高級レジデンス開発の企画に参画した。
「デザイン・バイ・アストンマーティン」の絶対価値
「アポなしの飛びこみ営業から始まったんですよ」
2019年設立のVIBROAが、創業112年の名門アストンマーティンのプロジェクトに参画できた理由をたずねると、代表取締役の吉田利行氏はこう言って快活に笑った。
「2017年に、アストンマーティンがマイアミに66階建てのレジデンスタワーを建設すると発表しました。その後、アストンマーティンが日本でも高級レジデンスを開発すると聞き、私も関わりたいと思いましたが、残念ながら当時その話は立ち消えてしまったんです」
ただし、その機会に吉田氏はアストンマーティンというブランドを入念に分析したという。
「もともと銀行出身でファンドマネージャーの経験もあるので、自分が経営者だったらどうするか、と逆の立場で考える癖があります。ファイナンシャルの分析のほか、工程の8割、9割がハンドメイドで、年間約6000台を生産していること、112年間に生産した車両のうち94%くらいが現存することなどを知り、興味を持ちました」
アポなしの飛びこみで提案した高級レジデンスの企画書は、日本の担当者に「煙たがられていた」(吉田氏)ものの、やがて英国本社で評価される。
「VIBROAはアストンマーティンと組むためにつくったような会社なんです。ベンチャー企業がよくグローバル企業と提携できたね、と言われるんですが、自分のなかではいたって普通のことだと思っています。112年前のアストンマーティンだってベンチャーだったわけで、VIBROAもこれからアストンマーティンと同じくらい伸びるはずです」
地道な飛びこみ営業で青山の一等地を取得した
こうして、両社のコラボレーションがスタートした。立地は、アストンマーティンジャパンの拠点があり、同社のデザインスタジオもこの土地からインスピレーションを得ているという青山に決まった。「001」というコードネームでストーリー性を持たせようというアイデアが生まれたのもこの時期だという。興味深いのは、青山の用地取得も、吉田氏はアポなし訪問でクリアしたという点だ。
「北青山と南青山の登記簿謄本をすべて調べたうえで、ピンポン、と訪ねました。候補地については、よい点だけでなく悪いところも目につきます。そのあたりの詳細も、すべてアストンマーティンに報告しました」

日英の文化的融合と、職人技とハイテク技術
プロジェクトが進むにつれ、吉田氏をはじめとする現場のチームが驚かされたのは、英国の名門企業の“ものづくり”へのこだわりだったという。
「ひとことで言うと、いっさいの妥協をしないということです。30〜40人のチームですが、造り手のゼネコンや内装を手がける左官職人に聞いてもきっと同じことを言うでしょう。例えば、日本に代替品があるのにイタリアのこの土地で採れた大理石でないと駄目だとか、わざわざ高いマテリアルを選ぶ(笑)」
この物件は、オーナーがいる注文住宅という形で建設を進められた。オーナーとしてはコストを下げたいはずだが、吉田氏はそこにも対処した。
「英国本社のデザインチームとこちらの施工チームの計20人ぐらいのオンライン会議を毎週開きますが、その120回分の議事録をオーナーさんにお見せしました。こうして、このやり方だから費用がかかっていると理解していただきました」
ヨーロッパのデザイン文化と日本のものづくり文化が融合しながら、プロジェクトは進んだ。そしてもうひとつ、日本の職人による匠の技と、最先端技術の融合という側面もあったという。
「建物の構造は、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)という技術を用いてデジタルで記録しています。これはグローバル基準の技術で、昔からこの分野に取り組んでいるオノコムという施工パートナーに協力してもらいました。後のメンテナンスを容易にするための技術でもあります。アストンマーティンというクルマは112年以上経っても9割以上が残っているわけですから、建物もちゃんと残せるもの、価値ある資産であることを求めました」


ベンチャー企業だからこそ丁寧かつ大胆に攻めていく
吉田氏の話で印象的だったのは、企画から用地取得、設計、メンテまで、VIBROAがワンストップで行っていることだ。
「求められる基準が日本の常識では考えられないくらい高いうえに、朝令暮改も頻繁なので、大所帯だと対応できなかったかもしれません」
野心的なベンチャー企業だからこそ、英国の老舗との協業がスムーズに運んだのだ。
最後に今後の予定をたずねると、笑みを浮かべつつも「いっさいお答えできません」。南青山が001なのだから002以降もあるはず、というのは、インタビュアーの憶測である。
南青山の裏路地に佇むプライベートな自動車美術館
2025年夏、アストンマーティンが手がけた「N°001 MINAMI AOYAMA」が竣工した。英国の高級車の名門が手がけた邸宅を訪ねると、日本におけるブランデッドレジデンスの可能性が見えてきた。

アストンマーティンというブランドをひとことで表現すれば、「ブリティッシュ・サラブレッド」だ。1913年の創業以来、高性能車を造り続け、ポール・マッカートニーのような著名人や、英国王室などから愛されてきた。
東京・青山に竣工した「N°001 MINAMI AOYAMA」は、米国マイアミ、UAEのラス・アル=ハイマに続く特別住宅開発プロジェクトの一環で、アジアではこれが初の取り組みとなる。
地上3階、地下1階からなるこの邸宅は、同社のデザインチームと高級不動産を開発する日本のVIBROAが綿密に連携を図りながら設計と施工を行った。クラフツマンシップ、革新性、美しいデザインといったアストンマーティンの世界観を反映した建築となっている。
創業112年のアストンマーティンの価値は、累計生産台数の約94%が現存しているという事実が証明している。この邸宅も間違いなく、クラシックと呼ばれる存在になるはずだ。
問い合わせ
VIBROA https://vibroa.com