常時150キロ台中盤の直球で奪三振率12.15。28セーブでブレイクしたソフトバンク杉山一樹が、スターとなる前夜に迫った。

ソフトバンクの救世主となった、剛腕クローザー
シーズン序盤は苦しみながらも、夏場以降は勝利を重ねてパ・リーグ連覇が目前となっているソフトバンク(2025年9月18日終了時点)。主力選手の故障や不調を他の選手が上手くカバーしたことが大きかったように見えるが、なかでもリリーフ投手でMVP級の活躍を見せたのが杉山一樹だ。
開幕当初は重要な場面での起用は少なかったものの、5月以降は勝ちパターンの中継ぎに定着。6月下旬からは不調のオスナに代わってクローザーに抜擢されると、ここまでパ・リーグトップとなる28セーブをマークする活躍を見せているのだ。
常時150キロ台中盤をマークするストレートは威力抜群で、奪三振率12.15という数字は12球団の抑え投手のなかでもトップの数字である。
また、シーズン途中からクローザーに配置転換となった投手が最多セーブのタイトルを獲得することはなかなかあるものではなく、まさにチームの救世主的存在と言える。
190cmを超える大型右腕
そんな杉山は静岡県の出身。小学校時代は投手だったものの、中学時代は外野手としてプレーしていたという。
静岡県立駿河総合高校に進学した後、再び投手に挑戦。3年春の県大会で6回を投げてノーヒットという快投を見せると、190cmを超える大型右腕ということもあって、この頃からプロのスカウトも注目する存在となった。
初めて投球を見たのは3年夏の静岡大会の対磐田南高校戦。
先発のマウンドに上がった杉山は6回途中まで投げて2失点で降板し、味方打線も沈黙して0対6で敗れたが、それでも192cm、86kgという体格から投げ込むボールの勢いには目を見張るものがあった。
当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「大型で動きは“もっさり”した感は否めないが、フォームの流れに引っかかるような動きがなく、スムーズに腕が振れる。
ゆったりとしたモーションで、そこまで全力で腕を振っているように見えなくてもストレートの勢いがあり、打者はタイミングを合わせるのが難しく、差し込まれるシーンが目立つ。
テイクバックで右肩が下がる動きがあり、トップの形を作る時に腕が外回りするのが気になる。そのためどうしてもボールを抑え込むことができず、体が一塁側に流れることも多い。
速いボールは高めがほとんどで、ストレートとボールがはっきりしているのが課題。
(中略)
それでも指にかかった時のボールは勢い十分で、ストレートはコンスタントに140キロ以上をマーク(この日の最速は144キロ)。典型的な未完の大器タイプで、課題は多いがスケールの大きさと馬力は魅力」
ちなみにこの試合で杉山が奪った三振は2個にとどまっており、一方で与えた四死球は9というのも“未完の大器ぶり”を示す数字と言えるだろう。
社会人野球で才能開花、ドラフト2位でソフトバンク入団
高校卒業後は社会人野球の三菱重工広島に進んだが、完成度の低い高校卒の投手がレベルの高い社会人ではなかなか活躍するのは難しく、最初の2年間は公式戦での登板も少なかった。
ようやくその才能が開花する兆しを見せたのは入社3年目のことである。都市対抗予選で150キロを超えるスピードをマークすると、チームは本戦出場を逃したものの、JR西日本の補強選手に選出されたのだ。
そして迎えた都市対抗本戦のJR東日本戦、杉山は7点をリードされた7回途中から4番手としてマウンドに上がると、1回1/3を投げて無失点、1奪三振と好投を見せ、ストレートの最速は153キロをマークしたのだ。
当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「高校時代と比べて体がひと回り大きくなり、フォームの躍動感もアップ。全身を大きく使って縦に腕が振れ、ストレートの勢いは社会人でもトップクラス。
制球はアバウトだが、ストライクを取るのには苦労しないレベルに向上。変化球は未知数も、短いイニングなら球威で圧倒できる。リリーフの方が適正高い印象」
この日の投球で杉山の名前は一躍ドラフト戦線をにぎわせ、この年のドラフトでは2位という高い順位でプロ入りを勝ち取ることとなった。
遅咲きの剛腕クローザー、WBC選出へ期待
ただプロ入り後の杉山はストレートは速いものの、安定感には欠けるという課題がなかなか克服できずに低迷。5年目の2023年には右肘の故障もあって一軍登板なしでシーズンを終えている。
2024年から中継ぎに専念して50試合に登板して4勝1セーブ14ホールド、防御率1.61とようやく結果を残すと、7年目の2025年シーズンその才能が大きく開花した。
大成までに時間はかかったが、小さくまとまることなく長所を伸ばしたことが大ブレイクに繋がったと言えるのではないだろうか。
2025年シーズンの後半戦の投球を見れば、その安定感は12球団のクローザーのなかでもトップと言える。
順調にいけば2026年のWBCに選出される可能性も高いだけに、遅咲きの剛腕クローザーが世界の強豪を相手に力で圧倒する投球を見せてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。