交流戦MVPに輝き、現在パ・リーグで首位打者を走るソフトバンク・柳町達がスターとなる前夜に迫った。

交流戦MVP、パ・リーグ首位打者
セ・パ交流戦で6年ぶり9度目となる優勝を果たしたソフトバンク。柳田悠岐と今宮健介は故障、山川穂高も不調で二軍調整となるなど主力が多く離脱するなかで、打線を牽引する活躍を見せたのが6年目の柳町達(やなぎまちたつる)だ。
開幕こそ二軍スタートだったものの、2025年4月下旬からは外野の一角に定着するとヒットを量産。交流戦でもその勢いはとどまらず、打率.397をマークして見事MVPに輝いたのだ。交流戦終了時点での2025年シーズンの通算打率も.342となっており、これは両リーグでトップの数字である。
関東でも屈指の強豪チームで活躍
そんな柳町は茨城県の出身で、中学時代は関東でも屈指の強豪チームとして知られる取手リトルシニアに所属。初めてそのプレーを見たのは中学3年で出場したリトルシニアの全国大会、2012年8月4日に行われた栃木下野リトルシニアとの試合だった。
この試合で柳町は3番、センターで出場。ちなみに先発のマウンドに上がっていたのは元DeNAの綾部翔だった。
1回に1点を先制された取手リトルシニアだったが、3回にワンアウト二塁のチャンスを作ると、ここで柳町がセンターオーバーのタイムリースリーベースを放って同点。続く打者のスクイズで逆転のホームを踏み、試合は取手リトルシニアが逆転勝ちをおさめている。
放ったヒットはこの1本だったが、そのプレーぶりは明らかに他の選手とはレベルが違うように見え、当時のノートにも以下のようなメモが残っている。
「少し構えは小さいが、ゆったりとした動きでトップの形を作り、ボールを見る姿勢が良い。トップの形が安定しているのでボールを長く見ることができており、体の近くから鋭く振り出し、スイングの軌道も理想的。
力もありそうだが、強引に引っ張るのではなく、センター中心に打ち返す。脚力も申し分なく、センターの守備も動きの良さが目立つ。身のこなしが軽く、攻守ともにプレーの形が良い」
中学卒業後は慶応高校に進学すると、入学直後からサードの定位置をつかみ、甲子園出場こそなかったものの、神川県内では屈指の野手へと成長。慶応大でも1年春からいきなりセンターのレギュラーとなり、東京六大学で通算113安打を放つ活躍を見せている。
大学でもプレーを見る機会は非常に多かったが、いつ見ても最初にプレーを見た時と良い意味で印象が大きく変わることはなかった。
バットコントロールと選球眼の良さが持ち味
1年秋のリーグ戦、2016年10月9日に行われた法政大との試合を記録したノートには「春に比べると相手のマークが厳しくなったように見えるが、それでもリストワークとバットコントロールの巧みさはさすが。(中略)センターの守備でも落下点に入るスピードの速さが目立つ」とある。
また2年春、2017年5月15日に行われた明治大との試合でも「タイミングのとり方、ヘッドのきれいに抜けるスイングはさすが。少し呼び込む意識が強すぎて左方向への打球が多いのは課題。(中略)センターの守備範囲の広さと速くて正確な返球も目立つ」というメモが残っている。
その後の試合の記録を見ても、要約すると外野手としての能力は高く、ミート力もあるものの、パワーについてはもうひとつという内容が記されている。実際、リーグ戦の成績を見ても最もホームランを打ったシーズンは1年春の2本であり、通算本塁打数は7本にとどまっている。
打率についても通算で.291と決して低くはないものの、そこまで突出しておらず、通算113安打を放ちながらベストナインの受賞は一度しかない。このあたりの突出したものがないという点が、ドラフトでも5位という低い順位にとどまった理由と言えるのではないだろうか。
ただ、持ち味であるバットコントロールと選球眼の良さはプロ入り後も際立っており、2022年には107試合に出場して出塁率.357、2023年には116試合に出場して出塁率.375と非常に高い数字をマークしている。さらに課題だったパワーも年々体つきは大きくなっており、2024年はキャリアハイの4本塁打、2025年もここまで58試合に出場し3本塁打を放っている。持ち味を残しつつ、パワーアップしてきたことが、交流戦での爆発につながったのではないだろうか。
冒頭でも触れたように柳田、今宮が故障で離脱しており、腰痛から復帰した近藤健介も6月17日の広島戦で再びかかとを怪我したこともあって、柳町にかかる期待は日に日に大きくなっている。残りのシーズンでもリーグ連覇を狙うチームのキーマンとなることは間違いないだろう。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。