PERSON

2024.04.18

「正直、高校からプロにいく選手とは思わなかった」ソフトバンク巻き返しのキーパーソン、 今宮健太の分岐点

巻き返しを目指すソフトバンクで好調なスタートを切った今宮健太がスターとなる前夜に迫った。 連載「スターたちの夜明け前」とは

2008年明豊時代の今宮健太
2008年秋季九州地区高等学校野球大会2回戦、唐津南vs明豊戦。

期待のリードオフマン

2011年からの10年間で7度の日本一を達成するなど黄金時代を築いたソフトバンクだが、過去3年間はオリックスの後塵を拝する結果となっている。

2023年は近藤健介、有原航平、ロベルト・オスナ、2024年も山川穂高など大型補強を敢行し、巻き返しを図っているが、そんななかで貴重な生え抜き選手として存在感を示しているのが今宮健太だ。

一時は怪我に苦しむシーズンが続いたが、2022年は見事な復活を果たし5年ぶりのベストナインを受賞。2023年も2年連続で規定打席に到達し、2024年もここまでリードオフマンとして見事な働きを見せている。

高校からプロに進むタイプの選手ではなかった

そんな今宮だが、高校時代は明豊で早くから中心選手として活躍。1年秋にはエースとしてチームを九州大会優勝に導き、明治神宮大会にも出場している。

初めてプレーを見たのは2007年11月11日に行われた下関商との試合だった。

この時は1番、ピッチャーとして出場。6回を投げて2失点(自責点)としっかり試合を作り、チームの勝利に大きく貢献した。

しかし当時から目立っていたのはピッチングではなく、バッティングの方で、トップバッターとして4安打を放つ活躍を見せていた。

当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「1年生ながらエースとトップバッターというのはセンスのある証拠。

ただどちらかというとバッティングの良さが目立つ。少し無駄なバットの動きが多く、急にバットを引いてトップを作るのは気になるが、柔らかいリストワークでバットコントロールの良さは出色。

全身をしならせるようにして振り切ることができ、ヘッドスピードも目立つ。引っ張るだけでなく広角に打てるのも長所。

(中略)ピッチングはスライダー、シュートを上手く使いまとまりあるが、ストレートの勢いはもうひとつ。フィールディングの良さもあり、将来的には内野手の方が大成しそう」

メモでも少し触れているが、立ち上がりからとにかくスライダーが多く、良く言えば器用だが、悪く言えば小手先でかわすようなピッチングだったことをよく覚えている。

またバッティングについても褒めている記録はあるものの、当時のプロフィールは171cm、64kgと小柄で、正直高校からプロに進むタイプの選手とは思わなかった。

翌年春の選抜高校野球では初戦で常葉菊川(現・常葉大菊川)に敗れているが、この時の印象も同様のものだった。

投手としても野手としても劇的にスケールアップ

そんな今宮のイメージがガラッと変わったのが3年春に出場した選抜高校野球でのことだ。

この大会で今宮は背番号5を背負い、サードとして出場していたが、初戦の下妻二戦で9回にリリーフでマウンドに上がるとストレートは最速149キロをマークし、アウトすべてを三振で奪って見せたのだ。

短いイニングで全力で投げることができたというのはもちろんあるが、1年前に見せていたピッチングとは完全に別人となっていたことをよく覚えている。また野手としても3番で3安打をマーク。

当時のノートにはこのように記録が残っている。

「去年と比べて体つきがたくましくなり、スイングの力強さも明らかにアップした。踏み込みが強く、外のボールに対しても合わせるのではなく、しっかり振り切れる。

(中略)

サードの守備も出足が鋭く、一塁への送球も低くて一直線の素晴らしいボール。一つ一つの動きに躍動感があり、守備も走塁もバネ十分。

(中略)

投手としても腕の振りが明らかに強くなった。少し上半身の力に頼った投げ方も、140キロ台後半のストレートは威力十分。リリーフとしての適性も高そう」

この後も今宮の成長はとどまるところを知らず、3年夏の大分大会では初戦でいきなり3打席連続ホームランを放ち、続く夏の甲子園で投手としても最速154キロをマークして大観衆を沸かせている。

高校生の成長には驚かされることが多いが、ここまで最終学年で投手としても野手としても劇的にスケールアップした例はなかなかないだろう。

もし今宮が現在高校生だったら、二刀流を目指すという方向性もあったのではないだろうか。

プロではどちらかというとショートの守備の印象が強いが、過去に二桁ホームランを4度記録しているようにそのパンチ力は大きな武器となっている。

守備面でも攻撃面でもチームに欠かせない存在であることは間違いないだけに、2024年はキャリアハイを更新するような活躍を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=井上博雅/アフロ

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