PERSON

2024.01.25

“松坂世代”最後の現役選手、和田毅のターニングポイント

ソフトバンクが西武からフリーエージェント(FA)となっていた山川穂高を獲得し、その人的補償として、ベテラン左腕・和田毅が“プロテクト漏れ”していたのではないかと大きな話題となっている。2024年2月に43歳を迎えチームの顔でもあり、“松坂世代”最後の現役選手でもある和田がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

2004年アテネ五輪で投球する和田毅。
2004年アテネ五輪。

2024年になって最も話題になっている選手の1人がソフトバンクの和田毅ではないだろうか。1月11日にフリーエージェント(FA)でソフトバンクに移籍した山川穂高の人的補償として西武が獲得する方針という報道が出ると、両球団以外のファンも巻き込む大騒動に発展したのだ。

最終的に甲斐野央(かいのひろし)が西武に移籍すると正式決定したが、2024年で43歳という大ベテランとなってもなお、和田へのファンからの信頼が厚いことが明るみになった出来事だった。

改めて和田のプロ野球生活を振り返ってみると、入団1年目から5年連続で2ケタ勝利をマークするなど早くから先発の中心となり、2010年には17勝をあげて最多勝とMVPにも輝いている。

2012年から移籍したメジャーではケガもあって4年間で5勝をあげるにとどまったが、2016年にソフトバンクに復帰するといきなり15勝の大活躍で2度目の最多勝を獲得した。

2023年もチーム2位となる8勝をあげ、5月には自己最速となる149キロもマークするなどまったく衰えを感じさせない投球を見せている。

注目されるような存在ではなかった高校時代

そんな和田は島根県立浜田高校でエースとして2年夏、3年夏と2年連続で甲子園に出場。3年時にはベスト8にも進出している。この結果だけを見れば全国的にも有名な投手だったと言えなくはないが、当時のストレートは130キロ程度であり、プロのスカウトから注目されるような存在ではなかった。

夏の甲子園大会後に行われた第3回AAAアジア野球選手権の日本代表にも和田は選ばれていない。この時点で和田のその後のプロ入りを予感していた関係者は皆無だったと言えるだろう。

しかし和田は早稲田大進学後に驚きの成長を見せる。

球の出所が見づらいフォーム

大学2年春に投手陣の一角に定着すると、いきなりリーグトップとなる88奪三振を記録。その後も奪三振のペースは衰えることはなく、4年秋にはそれまで江川卓(法政大・元巨人)の持っていた443奪三振のリーグ記録を塗り替え、最終的には476奪三振まで数字を伸ばして見せたのだ。

ちなみに20年以上経った現在でもこの記録は破られていない。

そんな和田の大学時代のピッチングを実際に見たのは4年春、2002年4月13日に行われた立教大との試合だった。

相手先発の多田野数人(元日本ハム)も当時東京六大学で注目を集めていた投手で、試合は8回まで0対0のまま9回に突入。9回表に早稲田大が5番、伊藤貴樹のタイムリーで1点を先制すると、和田はその裏も相手打線を寄せつけず、被安打4、11奪三振で完封勝利をマークしたのだ。

当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「高校時代とは体重移動のスピードが別人。テイクバックで少し沈み込むが、そこから重心が上下動することなくスムーズにステップして腕を振ることができている。ギリギリまで右肩が開かず、ボールの出所が見づらいので打者はストレートにことごとく振り遅れる。

(中略)

高校時代のようなカーブは投げなくなったが、小さい変化のスライダー、チェンジアップをしっかり低めに集める。捕手からボールを受け取ってからモーションに入るまでのテンポも良く、それでいながら三振も奪える」

このメモにあるが、高校時代の和田はとにかく動きがギクシャクしており、投げる度に帽子がずれる印象が強かったが、大学4年の和田は変則的な部分は残しつつも、フォームの動きすべてが洗練されていた。

高校から大学でここまで劇的に進化する例は非常に珍しいと言える。

ストレートに関しては投げ合った多田野や、同学年の大学4年生で注目を集めていた木佐貫洋(亜細亜大・元巨人など)、新垣渚(九州共立大・元ダイエー、ソフトバンク)と比べるとスピードガンの数字は劣っていたものの、それでも空振りが奪えるというのが大きな特長だった。

最近ではよく聞かれるようになった「ボールの出所が見づらいフォーム」という見方が広がったのは和田の存在が大きかったことは確かだ。

今回の人的補償の騒動で必要以上の注目を集めることになったが、2023年の投球と成績を見ていてもまだまだ一線で活躍できるだけの力があることは間違いない。

今シーズンもあらゆる雑音を封じ込める快投を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=AP/アフロ

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